第三勢力の正体
赤黒い光が唸りを上げる魔力増幅装置。
周囲の空気は熱と冷気が入り混じり、不安定に揺らいでいた。
付近にいた生徒たちは悲鳴を上げ、教師たちも障壁を張って避難誘導を始める。
だが、その場の魔力の波は明らかに異質で、単なる事故ではないことを物語っていた。
「お姉様、あの波――」
「ええ、意図的に暴走させていますわ」
短いやり取りのあと、二人は同時に装置へ向かって駆けた。
ミアは炎で装置の外周に絡みついた魔力糸を焼き切り、リヴィアは氷で装置本体を冷却し暴走の速度を抑える。
だが、それだけでは止まらない。
「制御核が……内部から改竄されています!」
レオンの声が背後から飛び、リヴィアは即座に判断した。
「核を引き抜きますわ! ミア、十秒だけ完全防御を!」
「了解しましたわ!」
炎の障壁が瞬時に展開され、その内側でリヴィアが氷の槍を生成し、装置の中心へ突き立てる。
衝撃音と共に、装置の光が一瞬だけ強く輝き――そして沈黙した。
場の緊張がほどけるよりも早く、リヴィアは装置の内部から小さな金属片を引き抜いた。
そこには、精巧な刻印とともに、ある紋章が彫られていた。
それは、学院生徒会の現副会長、クラウス・エーベルハルトの家紋だった。
「……副会長が黒幕、ということですの?」
ミアが息を呑む。
レオンが低く答える。
「黒幕というより、この暴走は副会長を次期会長候補に押し上げるための舞台装置だった可能性が高い」
リヴィアは金属片を光にかざし、冷ややかに微笑んだ。
「つまり――わたくしたちの失脚と混乱は、彼の野心のための道具だったというわけですわ」
その瞬間、背後からゆっくりと拍手が響いた。
「さすが、公爵家の姉妹。ここまで辿り着くとは思わなかったよ」
声の主はクラウス本人だった。
舞台のように芝居がかった口調で、彼は二人を見下ろす。
「だが、証拠を持ち出せると思うな。君たちはこの場で――」
言葉が終わるよりも早く、ミアの炎が彼の足元を包み、リヴィアの氷がその動きを完全に封じた。
「わたくしたちを同時に敵に回した時点で、あなたの計画は破綻していますわ」
リヴィアの声は静かで、しかし容赦がなかった。
その場に教師たちが駆けつけ、クラウスは拘束される。
観客のざわめきはすぐに広がり、副会長の失脚は瞬く間に学院全体へ知れ渡った。
装置の前で並び立つリヴィアとミア。
二人は言葉を交わさずとも、同じ方向を見据えていた。
――第三勢力の正体は暴かれた。だが、この共闘が終わったわけではない。
むしろ、次に訪れるのは、氷と炎が再び正面からぶつかる瞬間だ。




