共闘の契約
夜の学院は静かだった。
石畳の中庭には月明かりが降り注ぎ、塔の影が長く伸びている。
だが、その静けさは長くは続かなかった。
翌朝、学院の掲示板に、一枚の大きな羊皮紙が貼られていた。
そこには、二つの名前が並んで記されていた。
『魔力増幅装置破壊事件 ―― 関与の疑い
リヴィア・ヴァルシュタイン
ミア・ヴァルシュタイン』
生徒たちがざわめく。
「二人とも関与って……どういうこと?」
「どちらか一方じゃなかったのか?」
「いや、これは同時に罠にかけられたんだ」
羊皮紙には、事件当日の防犯記録の一部が魔法映像として貼り付けられていた。
そこには、舞台裏に向かうリヴィアの姿と、別の通路から近づくミアの姿が映っていた。
映像は短く切り取られ、あたかも二人が同じ時間に装置に接触したように見える構成になっている。
図書館の一角で、その映像を見たリヴィアは、冷たい息を吐いた。
「……見事な編集ですわ」
レオンが腕を組み、険しい顔をする。
「証拠を潰すだけでなく、両者を同時に疑わせる。これは……」
「ええ、第三勢力の狙いは、わたくしたちを直接戦わせることではなく、まとめて失脚させることですわ」
一方、温室で映像を見たミアもまた、怒りを隠さなかった。
「……やってくれますわね」
取り巻きの一人が不安げに尋ねる。
「ミア様、このままでは……」
「ええ、分かっております。お姉様を倒す前に、共通の敵を消さなければ」
その日の夕刻。
学院長室に呼び出された二人は、長いテーブルを挟んで座らされた。
学院長は厳しい面持ちで告げる。
「証拠はまだ不十分だが、このままでは副会長候補としての立場は危うい。……君たち二人には、事件の真相を協力して解明してもらう」
一瞬、室内の空気が止まった。
リヴィアとミアは互いに視線を交わす。
その瞳には警戒と反発が入り混じっているが、共通の意思もまた宿っていた。
「――分かりましたわ」
二人の声が、ほぼ同時に響く。
こうして、氷と炎は不本意ながらも並び立ち、嵐の中心に潜む黒幕を追うことになった。
だが、第三勢力はすでに次の罠を用意しており、それは二人の絆を試すだけでなく、決定的な亀裂をも生むことになる。




