妨害事件
創立祭の舞台上、紅蓮と蒼氷がせめぎ合う。
観客席の熱気は最高潮に達し、生徒たちは息を呑んで二人の魔法の交錯を見守っていた。
だが、互いに「見せ場」を作るだけの余裕など、もはやなかった。
「お姉様、これ以上は――ご覚悟を」
ミアが手を振り上げると、炎の渦が舞台を包み込み、熱波が観客席の前列まで押し寄せる。
その光景は華やかでありながらも、威圧的だった。
リヴィアは眉一つ動かさず、両手を前に突き出す。瞬間、氷壁が立ち上がり、炎を包み込むようにせき止める。
氷が熱で軋み、鋭い音が響いた。
観客席からは歓声と悲鳴が入り混じる。
「すごい……」
「これ、本当に披露会なの?」
やがて、ミアの炎が氷壁を貫こうとした瞬間――。
舞台中央が、突然爆ぜた。
閃光と共に轟音が響き、二人の魔力が暴走する。
炎と氷が入り混じった衝撃波が広がり、観客席の手前まで吹き飛ばすほどの力だった。
教師たちが慌てて防御障壁を張り、生徒たちを守る。
しかし、その爆発の中心で、リヴィアとミアはほとんど同時に後退し、険しい視線を交わしていた。
「……今のは、わたくしの魔力ではありませんわ」
「私も同じですわ、お姉様」
その直後、舞台裏から教師の怒声が響いた。
「魔力増幅装置が……! 誰かが細工をした形跡がある!」
ざわめきが一気に広がる。
これは偶発的な暴走ではない――誰かが意図的に仕掛けた妨害だと悟った瞬間、二人の視線が同時に観客席の一角へ向いた。
そこには、第三勢力と目されていた数人の生徒が、不自然に動揺しながら席を立つ姿があった。
教師たちがその場で彼らを呼び止める中、ミアが低く呟く。
「……お姉様、これ、あなたを貶めるための罠かもしれませんわ」
「ええ、もしくは――あなたを、ですわね」
二人の間に、一瞬だけ奇妙な共闘の気配が走る。
だが次の瞬間には、その感覚も氷のように消え去り、再び互いを見据えていた。
観客は混乱の中で騒ぎ、教師は事態の収拾に追われる。
しかし、炎と氷の令嬢の心には、別の決意が刻まれていた。
「必ず、この手で真実を掴みますわ」
「そして、その真実を先に掴むのは――私ですわ」
嵐の中心で、氷と炎はさらに温度を上げ、次の衝突へと備えていた。




