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白薔薇の檻  作者: 雨宮 巴
学園編
13/29

創立祭

全校集会から二日後。

学院の空気は一変していた。

銀の雪結晶のバッジを胸に着ける生徒が目に見えて増え、講義後の廊下でもリヴィアの名を口にする声が多くなっている。

「氷の魔法、あれは見事だった」

「制御できるなら、危険じゃない」

そんな囁きが広がる一方、ミア派の中には焦りの色が見え始めていた。


温室の奥、ミアは取り巻きたちを前に、ゆっくりとティーカップを置いた。

「……では、やり方を変えますわ」

その声音は甘く、しかし芯は鋼のように固い。

「次の学院主催行事、《炎と氷の魔術披露会》――わたくしから提案して、姉様と一騎打ちにいたしましょう」

取り巻きの一人が驚きの声を上げる。

「でも、それでは……」

「構いませんわ。わたくしは負けませんし、何より――華は奪われたままではいられませんもの」


その提案は、学院長を通じて即日承認された。

学院創立祭の目玉として、氷と炎の令嬢が同じ舞台に立つ。それは瞬く間に学院中の話題となった。


その知らせを図書館で受けたリヴィアは、書物を閉じて小さく笑った。

「……来ましたわね」

レオンが眉をひそめる。

「罠の可能性が高いぞ」

「ええ。でも、炎に焼かれずして氷は映えませんもの」

彼女の蒼い瞳が、静かに光を宿す。


やがて迎えた創立祭当日。

大講堂の中央に設けられた円形舞台。

片側に銀氷の紋章、反対側に紅蓮の紋章が描かれ、観客席は満員だった。

司会が声高に宣言する。

「これより、《炎と氷の魔術披露会》を開始します!」


ミアが先に舞台に上がる。

金糸の髪が炎の光に照らされ、翡翠色の瞳が熱を帯びて輝く。

「皆様、本日はお楽しみくださいませ」

指先が軽く動くと、舞台上に花弁を象った炎が舞い上がり、空中で鮮やかに弾けた。観客席から大きな拍手と歓声が湧く。


次にリヴィアが舞台へ。

静かな足取りで中央へ進み、手をかざすと――空気が澄んだ音を立て、舞台全体が薄い氷膜で覆われた。

氷の上には光が反射し、虹色の煌めきが生まれる。歓声は驚嘆の色を帯びた。


二人の魔力が同時に膨れ上がる。

片や紅蓮の熱、片や蒼氷の冷気。

舞台上で空気がぶつかり合い、観客席の生徒たちの頬を熱風と冷気が交互に撫でた。


「お姉様……これが本気ですの」

「わたくしも、遠慮はいたしませんわ」


炎と氷が激しくせめぎ合い、舞台中央で眩い光が弾ける。

それはまだ勝敗を決する一撃ではなく、互いの力量を確かめ合う挨拶に過ぎなかった。

しかし、この瞬間――学院の全員が理解した。

これは単なる披露会ではなく、氷と炎、二人の令嬢の真の戦争の始まりなのだと。


舞台袖で見守っていたレオンは、低く呟いた。

「……次は、どちらかが本気で倒れにかかる番だ」

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