創立祭
全校集会から二日後。
学院の空気は一変していた。
銀の雪結晶のバッジを胸に着ける生徒が目に見えて増え、講義後の廊下でもリヴィアの名を口にする声が多くなっている。
「氷の魔法、あれは見事だった」
「制御できるなら、危険じゃない」
そんな囁きが広がる一方、ミア派の中には焦りの色が見え始めていた。
温室の奥、ミアは取り巻きたちを前に、ゆっくりとティーカップを置いた。
「……では、やり方を変えますわ」
その声音は甘く、しかし芯は鋼のように固い。
「次の学院主催行事、《炎と氷の魔術披露会》――わたくしから提案して、姉様と一騎打ちにいたしましょう」
取り巻きの一人が驚きの声を上げる。
「でも、それでは……」
「構いませんわ。わたくしは負けませんし、何より――華は奪われたままではいられませんもの」
その提案は、学院長を通じて即日承認された。
学院創立祭の目玉として、氷と炎の令嬢が同じ舞台に立つ。それは瞬く間に学院中の話題となった。
その知らせを図書館で受けたリヴィアは、書物を閉じて小さく笑った。
「……来ましたわね」
レオンが眉をひそめる。
「罠の可能性が高いぞ」
「ええ。でも、炎に焼かれずして氷は映えませんもの」
彼女の蒼い瞳が、静かに光を宿す。
やがて迎えた創立祭当日。
大講堂の中央に設けられた円形舞台。
片側に銀氷の紋章、反対側に紅蓮の紋章が描かれ、観客席は満員だった。
司会が声高に宣言する。
「これより、《炎と氷の魔術披露会》を開始します!」
ミアが先に舞台に上がる。
金糸の髪が炎の光に照らされ、翡翠色の瞳が熱を帯びて輝く。
「皆様、本日はお楽しみくださいませ」
指先が軽く動くと、舞台上に花弁を象った炎が舞い上がり、空中で鮮やかに弾けた。観客席から大きな拍手と歓声が湧く。
次にリヴィアが舞台へ。
静かな足取りで中央へ進み、手をかざすと――空気が澄んだ音を立て、舞台全体が薄い氷膜で覆われた。
氷の上には光が反射し、虹色の煌めきが生まれる。歓声は驚嘆の色を帯びた。
二人の魔力が同時に膨れ上がる。
片や紅蓮の熱、片や蒼氷の冷気。
舞台上で空気がぶつかり合い、観客席の生徒たちの頬を熱風と冷気が交互に撫でた。
「お姉様……これが本気ですの」
「わたくしも、遠慮はいたしませんわ」
炎と氷が激しくせめぎ合い、舞台中央で眩い光が弾ける。
それはまだ勝敗を決する一撃ではなく、互いの力量を確かめ合う挨拶に過ぎなかった。
しかし、この瞬間――学院の全員が理解した。
これは単なる披露会ではなく、氷と炎、二人の令嬢の真の戦争の始まりなのだと。
舞台袖で見守っていたレオンは、低く呟いた。
「……次は、どちらかが本気で倒れにかかる番だ」




