氷が舞台を掌握する時
嵐のような噂が学院を覆い始めてから一週間。
第三勢力の暴露は、まだ誰が仕掛けたのか不明のままだったが、その影響は日に日に強まっていた。
魔力量至上主義に疑問を持つ声が増え、同時に「異常な魔力量を持つ令嬢」への好奇と警戒が混じった視線が、リヴィアに集まっていた。
だが、その視線の重さに、彼女は一切動じなかった。
むしろ、これは待ち望んでいた「舞台」だった。
昼休み、大講堂に生徒たちが集まる。学院長から「全校集会を開く」との通達があったのだ。
壇上に学院長と数名の教師が立つ。その横に、指名されたリヴィアの姿があった。
ミアも最前列に座り、その瞳は鋭く姉の一挙手一投足を見据えている。
学院長が口を開く。
「先日の資料流出について、渦中の人物であるリヴィア・ヴァルシュタイン嬢から、一言述べてもらう」
静寂が訪れた。
リヴィアはゆっくりと立ち上がり、壇上中央へ歩み出る。
銀髪が月光のように揺れ、蒼い瞳が全員を見渡した。
「わたくしは――十年前の覚醒試験で『魔力が発現しなかった』と記録されました。
けれど、その真実は違います。魔力は存在していました。あまりにも膨大すぎて、魔法陣が耐えられなかったのです」
会場がざわめく。
彼女はその声を静かに受け止め、続けた。
「これまでわたくしは、その事実を明かすことなく過ごしてきました。
理由は一つ、力を制御できなかったからです。ですが、今は違います」
その瞬間、壇上の床に淡い氷の文様が広がった。
冷気が空気を震わせ、光が文様に沿って走る。だがそれは観客の足元まで届くことなく、寸前で静止し、霧のように消えた。
「――これが、制御された魔力です」
驚きと感嘆が混じった息があちこちで漏れた。
「第三勢力が何を意図してこの資料を広めたのかはわかりません。ですが、この機会を与えられたことには感謝いたします。
わたくしは、この力を学院の未来のために使うと誓います」
深く一礼すると、拍手が起こった。最初はまばらだったが、次第に大きく、会場全体を包み込む。
前列のミアは笑顔を作っていたが、その唇の端は硬く、瞳は炎の奥で揺れていた。
集会後、廊下でレオンが小さく笑った。
「見事だな。嵐を完全に自分の風に変えた」
「これで票は大きく動きますわ。妹も、もう静観はできないでしょう」
その夜、温室で一人花を剪定していたミアは、鋏を止めた。
「……お姉様、本気でわたくしを倒すおつもりなのね」
翡翠色の瞳に、初めて明確な闘志が宿っていた。
こうして、嵐の中心に立ったリヴィアは、氷の力で学院全体の空気を変え始めた。
次に動くのは、炎の令嬢――ミアだった。




