暴露と嵐の中心で
朝の学院。
大講堂の入口には、見慣れぬ封筒が束になって置かれていた。
「これは……?」
登校してきた生徒たちが一枚ずつ手に取り、封を切る。中から現れたのは、古びた羊皮紙を写した写真と、短い文章だった。
『十年前の覚醒試験記録 ―― 魔力量測定不能、公爵家長女』
廊下にざわめきが広がる。
「魔力量測定不能って……」
「つまり、異常な数値が出たってことじゃない?」
「どうしてこんなものが出回ってるの?」
封筒には差出人の名がない。だが、写しの品質から見て、古文書室か、あるいは魔術師協会の資料庫から持ち出されたものであることは明らかだった。
図書館の一角で、リヴィアは静かにそれを手にしていた。
「……わたくしの記録ですわね」
レオンが低く囁く。
「お前じゃないことは分かっている。だが、誰が?」
「第三勢力。――おそらく、学院内で派閥争いに倦んだ者たちですわ」
リヴィアの声は冷静だったが、瞳には薄い怒りが宿っていた。自分がまだ使うべきではないと判断した切り札を、別の手が勝手に切ったことへの苛立ち。
その頃、温室ではミアが封筒を机に叩きつけていた。
「……誰がこんな真似を」
取り巻きの一人が恐る恐る答える。
「一部の奨学生派ではないかと……でも、これでお姉様に注目が集まるのは避けられません」
ミアは唇を噛み、すぐに笑顔を作った。
「注目されても、それが好意とは限りませんわ。魔力が異常に多いなんて、不安を煽るには十分ですもの」
午後の臨時集会。
全校生徒が講堂に集められ、学院長が壇上で説明を始めた。
「本件の真偽はまだ確認中だ。しかし、この資料が本物であれば――魔力量至上主義の在り方を改める必要があるだろう」
その言葉に、会場が揺れた。
派閥争いを超え、学院全体の価値観を揺さぶる発言。これこそが、第三勢力の狙いだった。
集会後、リヴィアは廊下でミアとすれ違った。
「お姉様……よかったですわね、やっと皆様の話題の中心になれて」
「ええ、あなたのおかげでなくても、こうして注目されるのは光栄ですわ」
一瞬、二人の間に火花が散った。
炎と氷の境界線が、より鮮明になる。
夜、レオンが小声で告げる。
「この第三勢力、名乗り出る気はないだろう。だが、奴らは必ず次の手を打ってくる」
リヴィアは月明かりの中、ゆっくりと微笑んだ。
「ならば――その嵐の目を、わたくしが凍らせますわ」
こうして、氷と炎の戦場に吹き込んだ嵐は、学院の屋根を軋ませながら、さらに勢いを増していった。




