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白薔薇の檻  作者: 雨宮 巴
学園編
10/29

嵐の兆し

討論会から三日後。

学院の空気は、目に見えるほどに張り詰めていた。

廊下ですれ違う生徒同士が、互いの胸元につけた小さなバッジをちらりと見やる。

金色のバラはミア派、銀色の雪結晶はリヴィア派――その色で、所属を暗黙に示すのが流行になっていた。


「票は拮抗している。あと一押しで勝敗が決まる」

図書館の奥、リヴィアはレオンの報告を受けながら、机に広げた票数予測表を見つめていた。

銀色の雪結晶をつける生徒は着実に増えている。だが、それ以上に金色のバラも勢いを保っていた。

「……ここからは、感情を動かす一手が必要ですわ」

「何をする?」

リヴィアは地図の一角に指を置いた。

「図書館の古文書室。あそこに、学院創立期の記録が眠っているはず。――利用します」


同じ頃、温室ではミアが取り巻きに囲まれ、紅茶を口にしていた。

「雪結晶のバッジ?まぁ、悪趣味ですこと」

「ですが、あれをつけている生徒が増えてきています」

報告に、ミアは笑顔を崩さなかった。

「大丈夫よ。学院は華を愛する場所。……そうでしょう?」

そう言いながらも、指先はティーカップの取っ手を強く握っていた。


その夜、古文書室。

リヴィアとレオンは、埃を被った革表紙の分厚い冊子を開いていた。

「……これですわ」

そこには、学院の設立理念が記されていた。

『学び舎はすべての才能を育む場であり、魔力量の大小によって価値を決めることを良しとしない』

「理念そのものが、ミア派の価値観を否定している」

レオンが低く笑った。

「これを公にすれば……」

「いいえ、今はまだ。――火が十分に回った時、氷で固めます」


しかし、彼らの動きを、別の者が見ていた。

翌日、学院の掲示板に匿名の貼り紙が現れる。

『両候補とも、真実を隠している』

署名はない。だが、その文言はあまりに挑発的で、瞬く間に生徒たちの関心を集めた。

「……第三勢力?」

レオンが眉をひそめる。

リヴィアはわずかに唇を歪めた。

「面白いですわ。炎と氷の戦場に、嵐が吹き込むかもしれませんわね」


一方、温室でその噂を耳にしたミアもまた、静かにカップを置いた。

「嵐……? いいわ。なら、風向きごと支配してみせますわ」

翡翠色の瞳が、獲物を狙う獣のように細められた。


こうして、炎と氷の間に、新たな風が吹き始めた。

誰も、その風が嵐になることを、この時はまだ知らなかった。

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