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バッドエンドルート

作者: 貧血みかん
掲載日:2025/06/24

愛が重めのヤンデレ系です。苦手な方はご注意下さい。

「あぁ……やっと手に入れる事が叶う。私だけの姉上」

 

 義弟は、私を組み敷いて幸せそうに笑った。

 狂気を孕んだ瞳が、愛おしそうに私を見つめている。

 拘束具を付けたベッドがまたギシリと軋んだ。


「愛しています。姉上………もう二度と離しません」


 震える指先が確かめるように身体をなぞり、不本意にこぼれた吐息が薄闇の部屋に溶ける。


 もしかしたらこれは、最初から決められていた運命なのかもしれない。

 必死で抗っていたはずなのに、それすらも全て筋書き通りの行動だったとしたら?


 私にはもう、彼の愛に溺れて生きるしか道が残されていないのだろう。

 まるで、蜘蛛の巣にかかった羽虫のように、どんなにもがいても、いずれ彼に取り込まれてしまうのだ。


「だから、バッドエンドルートって呼ばれてるんだよ」

 前世の友人の声が、何度も頭の中でこだまする。





 前世を思い出したのは、10歳の頃だった。

 私はオルドー伯爵家の一人娘。

 両親に愛されて、何不自由なく育ってきたお嬢様。


 この国では、女性が爵位を継ぐ事が出来ない。

 だから貴族の家では男子が求められるのだ。

 どんなに愛されていても、女の私は家を継げない。


 お母様は二人目を授かった時に、重度の妊娠中毒症になって天に召されてしまった。

 お父様はとても悲しんで毎日泣いていた。

 何度も再婚を勧められたけど、お父様はお母様を深く愛していたから、再び妻を娶る事はなかった。



「アンジェラ、今日から君の弟になるレオルドだよ」


 白銀の髪の少年は、アイスブルーの瞳で不安そうに私を見上げていた。

 綺麗な顔をしているけど、小柄でガリガリに痩せ細った無愛想な少年だった。


 その時、私は気付いたのだ。

 ここは乙女ゲームの世界だという事に。

 そして私は、悪役令嬢のアンジェラだという事に。



 前世の私は、どこにでもいる地味で内気な高校生で、新しいクラスに馴染めずに過ごしていた。

 そんな私に声を掛けてくれたのは、席替えで隣の席になった友美だった。

 友美はゲームが大好きで、その中でも特に乙女ゲームにハマっていた。


「遥香もやりなよ!これ、凄く面白いんだから!」


 乙女ゲームには興味がなかったけど、友美と仲良くなりたい一心で、私はそのゲームをやる事にした。

 『100人のプリンスに出会える! アナタはどの王子様にする?』略して『100プリ』という乙女ゲーム。


 100人のプリンスと言っても、全員が王子様の身分って意味ではなくて、アナタだけの王子様って意味なので職業は色々だった。

 騎士団長や執事、魔導士や暗殺者なんてのもいた。


「どのキャラを選んだらいいと思う?」


「うーん、そうだなぁ……やっぱり一番人気があるのはルシアンかな? 本物の王子だしね」


「本物の王子なの?」


「そうだよ。ルシアンの他にも他国の王子が何人かいるんだけど、一番攻略が簡単なのがルシアンなの。正統派のイケメンで性格も普通に優しいし、最初はルシアンがいいと思うよ」


 『100プリ』は、音ゲーかパズルゲームのどちらかを選んで、ミニゲームをクリアすると好感度が上がってストーリーが進む。

 パズルゲーム好きな私は、意外と楽しめた。


 ルシアンルートには、性格の悪い悪役令嬢アンジェラが出てくるのだが、これが本当に厄介なキャラで何度もイライラさせられた。


「あーもう、本当にアンジェラ邪魔なんだけど!」


「そうそう! アンジェラって本当にウザいよね! レオルドルートにも義姉として出てくるんだけどさ、何度もイライラさせられたもん」


 今、私がプレイしているルシアンルートでは、アンジェラは王子の婚約者として登場する。

 アンジェラは、我儘で金遣いが荒くて男好きという、とんでもないキャラだった。


 ルシアン王子を大して好きでもないくせに執着して、親の権力を使って無理やり結婚までしてしまうのだ。


 そして、メイドとして働くヒロインを虐めまくる。

 服を破かれたり、物を隠されたり、汚されたり。

 とにかく陰湿な虐めをしてくるのだ。

 誰がやったか分からないようにして何度も何度も。

 本当にウザかった。


 でも、最後は王子に断罪されて城を追い出される。

 横領とか浮気とか虐めとか散々してた割には、断罪がぬるいなと思った。

 アンジェラの実家は多額の賠償金を払い、落ちぶれて王都を出て行く事になるが、身分は貴族のままなのだ。


「アンジェラ、平民落ちすれば良かったのに!」

 

「確かに、私もあの断罪はぬるいと思ったよ。でもね、レオルドルートも攻略した身として言わせてもらうと、アンジェラのせいでレオルドまで平民にさせられるのは不憫すぎるって思うわけよ」


「レオルドってアンジェラの弟なんだっけ?」


「そうなの。血は繋がってないんだけどね。ちなみに、このレオルドってかなりやばいキャラなんだよ! だから次は是非レオルドルートを攻略してほしい!」


「えーでも、またアンジェラが出てくるんでしょ?」


「出てくるよ! 義姉としてめっちゃ邪魔してくるよ!」


「アンジェラ嫌だよ〜! ウザいもん!」


「まぁそうなんだけど、レオルドルートのアンジェラは、激ヤバ鬼畜の蛮族に嫁がされるよ」


「え? アンジェラ、蛮族に嫁がされるの?」


「うん、そうなの。レオルドって物凄く愛が重いキャラなんだよ。小さい頃に虐待されて、養子になった家でも義姉のアンジェラに虐められてさ、愛に飢えてるんだろうね。だからヒロインと自分の仲を邪魔するアンジェラを絶対に許さないんだよ」


「へぇ〜そうなんだ!」


「レオルドルートのエンディングって、ヒロインが拘束されて監禁されて終わるの! もう愛が重すぎてヤンデレが怖すぎて物議を醸しまくりなの! だから、バッドエンドルートって呼ばれてるんだよ」


「うわ…それは確かに物議を醸しそうだわ」


「そうなんだよ! でもね、ヤンデレ好きには堪らないらしいよ。私だって別にヤンデレ好きじゃなかったのに、どっぷりハマったからね!」


「じゃあ私もやってみようかな……ちょっと怖いけど」


「うんうん! やってみて! そんで感想聞かせてよ!」


 友美の楽しそうな笑い声につられて、私も笑った。

 そしてその日の夕方、私は事故に巻き込まれたのだ。

 レオルドルートをプレイする約束は守れなかった。



 流れ込んできた前世の記憶に、10歳の私は怯えた。

 一体どうしたらアンジェラの人生を変える事が出来るのだろうか?

 悪役令嬢になんてなりたくない。

 我儘を言わず、みんなに優しい令嬢になろう。


 私は、慎重に生きる事にした。

 なるべく目立たないように静かに過ごし、無駄遣いをしないで、言葉遣いにも気を付けた。

 可哀想な義弟にも意地悪なんてしない。

 

 だけどやはり、物事はゲーム通りに進んでいく。

 どんなに努力しても私は、性悪で金遣いの荒い男好きの悪役令嬢だと噂されるのだ。


「アンジェラ、お前の婚約者が決まったよ」


 ある日、お父様は満面な笑みを浮かべてそう言った。

 お相手はやはり、ルシアン王子だった。

 

 どんなに嫌だと訴えても、お父様は「アンジェラにとって一番良いお相手なのだよ?」と繰り返すだけで全く取り合ってくれない。


 私は、どうしたらいいんだろう?

 きっとこのままでは、ルシアン王子と結婚する事になって断罪されてしまう。


 怖くて怖くて堪らなかった。

 きっと逃げても連れ戻されて、ゲームの筋書き通りに物事が進んでいくのだ。


「申し訳ないけど、僕は君を愛する事はないと思う」


 結婚式の後にルシアン王子に言われた言葉。

 その瞳はとても冷たく、私を嫌悪していた。

 そしてやはり、何ヶ月経ってもルシアン王子が夫婦の寝室を訪れる事はなかった。


 私は、独りで大人しく部屋から出ずに日々を過ごす。

 それなのに部屋には、頼んでもいないドレスや宝石が毎日たくさん届くのだ。

 呼んでもいない楽師や詩人が次々と訪ねてきて、また私の悪い噂が広がっていく。

 

 もう、訳が分からない。

 何をしてもしなくても、不気味なほどゲームの筋書き通りに物事が進んでいくのだ。


 そして結婚して一年が過ぎた頃、私は覚えのない罪で断罪された。

 城の金を横領したとか、不貞行為を働いたとか、使用人の私物を盗んで壊したとか言われて、筋書き通りに城を追い出されたのだ。


 実家に戻ると、父はすでに亡くなっていて、使用人の数もずいぶん減っていた。

 義弟のレオルドは家督を継いで領主になったらしい。


「姉上、王都の屋敷は引き払う事になりました。一緒に領地へ帰りましょう」


「ごめんなさい、レオルド。私のせいで、ずいぶんお金を使わせてしまったわね」


「いえ、いいのです。姉上がご無事ならそれで」


 私はレオルドと一緒に、辺境の領地へ向かった。

 もう二度と、私が王都に戻る事はないだろう。

 でもそれでいい。

 これでやっとゲームの筋書きから解放されるのだ。


 私は、新たな生活を始める小さな屋敷の庭で、大きな深呼吸をした。

 辺りは木や草だらけで、お店なんて全然ない。

 虫や鳥の声と、農作業をしているおじさんの鼻歌。

 なんてのどかな場所だろう。


 たくさんいた使用人は、たったの三人だけになった。

 しかも、住み込みではなく通いで来てもらう。

 きっとこれからは、レオルドも私も雑用や家事をしなければならないだろう。

 レオルドには本当に申し訳なく思うけれど、私はようやく安堵する事ができた。


「姉上、荷物を置いたらお茶にしましょうか?」


「そうね。喉が乾いたわね」


 屋敷は小さくて古かったが、しっかりと掃除がされていて、すぐ生活が出来るようにと雑貨や小物や食料品が一通り揃っていた。


「姉上、どうぞ。カモミールティーです」


「まぁ! レオルドが淹れてくれたの?」


 レオルドの淹れてくれたお茶はホッとする味だった。

 あまりにホッとして涙がこぼれた。

 しばらく泣きながらお茶を飲んで、やがて泣き疲れて寝てしまった。


 心配そうに見つめるアイスブルーの瞳。

 ごめんなさい、レオルド。今だけ泣かせてね。

 私は心の中でそう呟いて、重い瞼をゆっくり閉じた。



 どのくらい眠っていたのだろう?

 部屋がすっかり暗くなっている。

 私はいつの間にか柔らかなベッドに寝かされていた。


 起き上がろうとしたら、ギシリとベッドが軋んだ。

 何これ? 腕が拘束されている?

 私は必死になってもがいたが、固定された腕はびくともしなかった。

 内側に柔らかな布が貼り付けられた金色の……手錠?


「姉上、目が覚めましたか?」


「レ、レオルド……あの、こ、これは……何?」


「姉上が、どこにも行かないようにするための物です」


「い、意味が分からないわ」


「やっと二人きりになれましたね」


「な、何を言っているの?」


 レオルドはベッドの近くまで来て、私の頬を撫でた。

 咄嗟に逃げようとしたら、ベッドがギシリと軋んだ。

 アイスブルーの瞳が悲しそうに歪む。


「姉上は、私を受け入れてくれないのですね?」


「だ、だから……何を…言っているの?」


「そんなに怯えないで下さい。私はただ、姉上に愛してほしいだけなのです」


「あ、愛しているわ。 貴方は大事な弟ですもの」


「弟ではなく、男として愛してほしいのです」


 レオルドはベッドの端に座り、私の方を向いた。

 私の心臓はバクバクと激しい音を立てて、またベッドがギシリと軋んだ。


「姉上に謝らなければいけない事があるのです」


「あ、謝らなければいけない事?」


「実は、姉上の悪い噂を流したのは私なのです」


「…………………え?」


「父上に王子との結婚を提案したのも、王子に睡眠薬を仕込んで寝室に行かせないようにしたのも、王子好みのメイドを侍らせて浮気するように仕向けたのも、メイドの私物を盗ませて荒らしたのも、城の金を横領したように細工したのも、全て私がした事なのです」

 

「え、な、ど……どうして……?」


「初めて姉上にお会いした時、貴女は本当に綺麗で可愛くて天使みたいだと思いました。実の親にゴミのように扱われていた私を優しく迎えて入れてくれた。私はあの時からずっと貴女にどうしようもなく焦がれて、貴女がほしくてほしくて堪らなかった」


「私達…は……姉弟なのよ?」


「だから、どうやったら二人きりになれるのか考えたのです。貴女が他の男に奪われない方法を。貴女が傷付くと分かっていても、やめることが出来なかった。完璧な貴女に傷を付けて貶めて引きずり下ろせば、ずっと側にいられるかもしれないと、そればかり考えていた」


「お、お父様は……貴方が……こ、殺したの?」


「いいえ、殺してません。父上は本当に事故で亡くなりました。でも、もし邪魔をされていたら、殺していたかもしれません」


「そう…なのね……」


「姉上がどんなに嫌がっても、手放す事など出来ない。だから、どうか、私を受け入れて下さい」


「言う事を聞かなかったら、私を殺すの?」


「いいえ! そんな事はしない。愛して…いるのです」


 なんて自分勝手な男なのだろうと思った。

 だけど不思議と怒りは湧かなかった。

 私はもう、抗う事に疲れてしまったのだ。

 どうでもいいと、好きにすればいいと思った。

 どんな事をしても変える事が出来ないのなら、流されてしまった方が楽だもの。


「貴方を受け入れるわ」


 私がそう呟くと、レオルドは崩れ落ちるように床に座り込んで全身を震わせて涙を流した。

 ハラハラと零れ落ちる涙は宝石のように美しかった。


「あぁ……やっと手に入れる事が叶う。私だけの姉上」


 蜘蛛に捕えられた羽虫は、食べられる直前に何を思ったのだろうか?

 逃げる意思を捨てて過ごす愛の牢獄は、もしかしたら案外心地いいのかもしれない。



最後までお読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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悲しい運命。 主人公には、酷な考え方かもしれないが。 この結末を最大限、良いものと捉えるとすると。 このヤンデレ弟君が、見目の良い美少年であることは慰めにはなるだろうか。 これが、ねっとり汗臭い、…
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