ナイトメア・ウォーリア
その部屋は四方が短くて、ほの白い鉄パイプの骨組みのベッドがあって
そしてコンクリートで、天井に蛍光灯が光って薄明るかった
僕はその四隅の一つでうずくまって小さくなって
手のひらを強く耳に当てていた
ガンガンガンガン音がして
耳のすぐそばでガンガンガンガン言って
ガンガンガンガンで
ガンガンガンガンで
すごくうるさくて
その中に、イ”イ”イイイイイイイイイいーーっという声が
混じって、声が増えるんだ
イ”イ”イイイイイイイイイいーーっ
イ”イ”イイイイイイイイイいーーっ
その声は僕の顔の下のあたりから
僕の口から聞こえていた
僕は体の横を壁に強く押し付けて
体をゆすって、また、体を押し付けて
それを何度もした
そのうち、頭の中がぐちゃぐちゃになってきて
今の事が昔の事になって、昔の事が今の事になって
僕はちいさくて漢字が書けなくて、難しくて
先生や先生が書けと言って、書けなくて
周りに人がいっぱいで、笑っていた
僕は図書館にいて、図書館には異世界の転生のが幾つかあって
僕はそれをいつも読んで、読んでいた
教室の隅で、家の隅で、僕は僕の中でいつも
異世界にいくのだった
そこには、古い町があってきれいで新しくて
すごい魔法があって、剣があって
僕はとても強くて、悪い奴をやっつけて
何でもできるから、みんなが僕をむかえてくれて
いつもみんな、にこにこなんだ
そこには、スキルがあって
がんばれば数字が上がっていって
でも数字に何かつくと数字がわからなくて
先生が怒っていて、小さな数字がわからなくて
宿題が出来なくて、お父さんが怒っていて
その怒った口が、どんどん大きくなって
それが歪んだ輪っかで、全部赤くて
どこまでも広がっていって
目の前いっぱいに広がっていって
何もかも真っ赤で
イ”イ”イイイイイイイイイいーーっ
イ”イ”イイイイイイイイイいーーっ
僕は壁を前にして、壁にしがみつくようにして
頭を壁に叩きつけていた
ゴンゴンゴンゴン
ゴンゴンゴンゴン
僕は怒っていたのだ、僕は僕がままならない事に
怒っていたのだ、だから、壁を叩くのだ、叩き続けるのだ
壁が赤くなって、まわりが赤くなって、そして
空の声がした、涼やかで、歌うようなきれいな声
「スキル”頭突き”を獲得しました。」
「スキル”物理耐性”を獲得しました。」
「攻撃力が3になりました。」
「HPが11になりました。」
ミシと壁にひびが入った
一つの欠片が下に落ちた
僕は、その欠片の落ちた後の小さなへこみに
指を入れてみて、指を動かしてみた
また欠片が落ちて、ばらばらとたくさんおちた
僕は欠片をはがして落として、また欠片をはがして
またはがした
そしてはがれる欠片がなくなって
指を強くするんだけども、はがれなくて
手を腕を強く動かして、でも、はがれなくて
また、頭で壁を叩いた
僕は壁を叩いて、はがして、また叩いた
壁に穴があって、穴が大きくなって
深くなって、僕はその中にどんどん入っていって
いつまでもそうしていて
どこまでも穴が伸びていって
僕はたくさんの欠片を押しのけていった
「スキル”石”を獲得しました。」
「攻撃力が99999になりました。」
「HPが99999になりました。」
「スキル”物理無効”を獲得しました。」
僕はおなかに重いものを感じた
僕はおなかがすいていた
僕は周りを探ってみた
壁があって、壁の欠片があった
僕は部屋に戻ることにした
僕は穴を戻っていった
穴は細くて、欠片がすごくいっぱいだった
僕はどこまでも、どこまでも穴を戻っていって
穴はどこまでも続いていて
僕はどこまでも戻っていって
とても長く経って、とても暗かった
そして、僕の手に何かが触れた
それは下にあって、細くて干からびていて
長くて、先が幾つかに分かれていて
それは、手のようだった
その先に胴があって、そこから頭があって
頭が割れていて、その回りが黒くなっていて
その下も黒くなっていて
それは僕のようだった
僕は僕の上を這って部屋に入った
部屋は暗くて、とても暗かった
壁に扉があって小さな四角い穴があって
床にほこりがすごく積もっていて
ベッドは二つに折れていて
僕は食べるものを探した
僕があった
僕は僕の足を齧って
どんどんどんどん奥まで齧って
それからもう一つの足を齧って
胴を齧って、手を齧って、頭を齧った
「スキル”雑食”を獲得しました。」
「スキル”僕”を獲得しました。」
「精神力が99999になりました。」
「精神力が99999になりました。」
「精神力が99999になりました。」
「なりりまししし」
「すすするとととてたままま」
「きききぷしししししししし」
僕は穴に戻って、そして下の欠片を食べた
食べて、欠片がなくなって
穴を戻って、それをずっと繰り返して
そしていつか戻りはじめたときの
壁の前に来て、また、壁を叩いて
欠片を食べて、壁を叩いて、欠片を食べた
まぶしいものがあって、光が刺してきた
僕は、あ”っあ”っとなった
壁に小さな穴があって光が突き出していた
あたりが明るくなっていた
僕は穴を叩いた、壁が大きく崩れた
すごい光だった、すごくまぶしかった
光がいっぱいだった、そして匂いがあった
きれいな匂いと涼しさと暖かさが
わあっと押し寄せてきて
僕はひっくり返って、ずりずりと穴に押し戻されて
僕は肩を前にして肩を小さくして
二つの手のひらの後ろを目の前にだして
光のあるところに向かって
また、穴に押し戻されて
また、光のあるところに向かって
光の中の光のいっぱいあるところに出ていった
そして、すごく時間がたって、目を開けて、見た
右と左に高い壁があって
天井はなくて、空があって
空の奥にお日様があって、まぶしさがあった
僕は壁の間を歩いた、壁にはいっぱい絵があって
赤く書かれていた、人があって動物があった
よくわからないものがあって、なにかの文字があった
壁は右にわかれていたり左にわかれていたりした
僕は左に曲がったりして右に曲がったりして
左に曲がったりして右に曲がったりした
そして長い道にでた、僕はその奥へ奥へと
歩いて行った
そして、床が丸くなって広くなったところがあった
その真ん中に牛人がいた
牛人は体が大きくて、角があって
黒い目があって、頭が牛で
体が人で、灰色の盛り上がりがあって
ところどころが金で、光っていて
黒いまだらがあって
手に大きな両刃の斧を持っていた
牛人がこちらを向いた、牛人が唸り声を上げた
牛人が走った、牛人の足がドシッドシッと言って
壁がドシッドシッと言って、床がドシッドシッと言って
牛人が大きくなっていって、僕は走った
手足を強くふって前につんのめるようにして
牛人に向かって走った
イ”イ”イイイイイイイイイいーーっ
イ”イ”イイイイイイイイイいーーっ
牛人がどんどん大きくなっていて
牛人が斧をふりかぶって
斧がどんどん大きくなって
目の前のいっぱいになって
僕は頭を斧に叩きつけていた
ガンガンガンガン
ガンガンガンガン
斧はコンクリートより柔らかくて
斧はすぐ曲がった
僕は頭を牛人に叩きつけていた
ガンガンガンガン
ガンガンガンガン
牛人はコンクリートより柔らかくて
それを何度もして
牛人はひしゃげていて
牛人は動かなくなった
後ろに音がして、僕は振り返った
女の人がいて蛇がいて
頭から飾りの羽のいっぱいに周りに生えた人がいて
緑色で盾と斧を持った人がいて
女の人は体が緑で下の半分が蛇で
髪の毛がうねうねしていて、それは蛇で
目が赤く光って、こちらを見ていて
飾りの羽の人もこちらを見ていて
みんなが僕を見ていて
僕はうんこを漏らしていて
パンツが黒くなっていて
暖かくなっていて
みんなが僕を見ていて
笑っていて、鼻をつまんでいて
何か言っていて、先生も笑っていて
教室に笑いがいっぱいで
僕は左の手をパンツの後ろの中に入れて
うんこを掴んで出して前に出して
腕を強くふって
飾りの羽の人に投げつけた
飾りの羽の人の顔に黒いものが当たって
ひるんでいて
緑で盾と斧を持った人が近づいてきて
盾を掲げていて、目の前に来て
手を高く上げていて、その先に斧があって
それが光にきらめいていて
それが打ち下ろされた
頭でガンッて音がして
僕も手を高く上げて、それを前に降ろした
緑で盾と斧を持った人の頭が無くなっていて
頭が胴の一部になっていて、倒れていって
盾が散らばっていて
僕の頭の中に斧があって
僕の頭の半分が斧で、柄が頭から突き出していて
斧が僕の中に溶けていって
僕が斧と一緒になって
僕と斧とがよくわからなくなって
僕が斧になって斧が僕になって
僕の手が斧になったり手になったりした
女の人がこちらを見ていて
目がピカッと赤く光って
ピカッと赤く光って
ピカッと赤く光った
僕は女の人に近づいて行って
口を大きく開けて、すごく大きく開けて
口が大きな歪んだ輪っかになって
どこまでも広がっていって、大きくなっていって
そして、僕は口を閉じた
女の人の上半分が無くなっていた
横に飾りの羽の人がいて、その前に火の玉が出来ていて
それが、こちらに飛んできて火の玉がすごく大きくなって
すごく光っていて
僕は右の手を前にだして速くだして火の玉を叩いて
火の玉が横に飛んで行って
石の柱の根元に当たって
すごい音がして
石の柱が根元が割れて傾いて、どんどん傾いて
すごい音がして煙が上がった
飾りの羽の人の体が光って
蛇の下半分が光って、そして、上半分が生えてきて
それは、女の人だった
僕は女の人を見た、僕の目が赤く光って
女の人が緑色から灰色になっていって
どんどん灰色になっていって
その外がざらざらしていて白いのと
黒いのがあって
それは石のようだった
石が倒れて、ガタンと言って
石が割れて、ひびが入って
腕とか頭の蛇とかが取れていて
粉が散らばって浮かんでいた
飾りの羽の人が走っていて、とても走っていて
どんどん遠ざかっていって
草原の奥の小さな粒になっていた
僕は跳ねた、飾りの羽の人に向かって跳ねた
草原がどんどん広がっていって
すごくいっぱい緑で
空は青くてどこまでも高くて
空の奥にお日様があって
暖かくて風が涼しくて
僕は飾りの羽の人のすぐ前に
すとんと落ちた
僕は右の足を右に回して真後ろにして
左の足を左に回して真後ろにして
首を回して真後ろにした
飾りの羽の人が尻もちをついていて
手で後ろに下がって
それから手を前にして
そこから火がふきだして
すごくふきだして
火がいっぱいで、体のまわりがみんな火で
すごく速く流れていて
僕は火の流れてくるところに歩いていって
左手を斧にして、左手を上にあげて、降ろした
飾りの羽の人が二つになって
右と左に分かれていて
赤いのが吹きだして、いっぱいで
そこら中に赤いのが流れていて
飛び散っていて
その中にぐちゃぐちゃの塊があって
どろどろで、鉄と金の欠片があった
僕は赤い塊を食べた
それははみずみずしくて
僕よりおいしかった
赤い塊が無くなって
鉄の欠片と金の欠片を食べて
それは、あまりおいしくなくて
僕は流れた赤いのをなめて食べて
みんな、なめて食べた
赤いのが無くなって
まわりを見ると
二つの尖った石があって
地面に突き立っていて
高くそびえていて
その間に空があって
空が暗くなっていて、その下に森があって
森が緑だった
僕はその中へ歩いていって
森に入っていって
森は暗くて木があって
木は長くて
その先がいろいなところへ曲がっていて
そして草で、木の根っこで、枯れ葉で
そこら中に動くものがあって
大きな蜘蛛がいて目がたくさんあって
四角いのがあって足が四つあって
イノシシとか首の長いのがいた
その木々の奥に大きなのがちらちら見えていて
それは紫色で、すごく大きくて丸かった
それがこちらに向かってきて
それは、大きな葡萄で
それはとても甘そうだった
僕は葡萄に向かって歩いていった
葡萄からは蔓のようなのが出ていて
それがとてもたくさんあって
まわりがみんな蔓で
それが、うねうね動いていて
とても長くて
大きな口があってそれが緑で
大きな目があってそれが黄色だった
蔓がいっぱい、わあってなって
広がって、こちらに向かってきた
僕は蔓を掴んで齧ってみた
蔓はほのかに甘くて
甘味がしみだしてきて
おやつみたいだった
僕は腕をぐるぐる巻いてる蔓を齧って
胴をぐるぐる巻いてる蔓を齧って
まわりいっぱいの蔓を齧って齧った
そのうち、だんだんと蔓がなくなって
大きな葡萄が、どんどん離れていった
僕はとてもジャンプして
葡萄の上に落ちた
僕は右の手で葡萄を掴んで、その一部をもぎ取って
口に入れた、僕は、僕は
左の手で同じようにして、右の手で同じようにして
左の手で同じようにして、それを何度もして
口にいっぱい葡萄が入って、口がいっぱいになって
僕は葡萄を飲み干すようにして、いっきに飲み込んで
そして、左の手で葡萄の一部を掴んで口に入れて
右の手で同じようにして
僕の目が広くなって黄色くて光っていって
口が何度も何度もパクパクで
葡萄は甘くて、すごく甘くて
おいしくて、すごくおいしいんだ
僕は体の中がおいしくて
頭の中がとても甘くて
まわりがみんな動いていて
まわりのいろんな物に色がついていて
とても鮮やかで
僕は生きているんだって
僕は生きているんだって
僕は生きているんだって
イ”イ”イ”イ”イイイイイイイイイイイイイいーっ
イ”イ”イ”イ”イイイイイイイイイイイイイいーっ
大きな鹿がイノシシが虎が豹が
すごく足を動かして僕から離れていって
白い鳥が黒い鳥が緑の鳥が
みんな一度に飛びったっていって
木々から虫が細いのが四角いのが
いっぱいに落ちてきて
三つの足のとか六つの足のとか浮かんでいるのとか
がいっぱい僕から、どんどん離れていった
上で羽ばたく音がしてドラゴンがいて
僕から離れていって
ドラゴンは大きくて赤くて、とても鮮やかな赤で
とてもおいしそうだった
ドラゴンはどんどん離れていって
僕はそれを追いかけていって
ドラゴンはどんどん高くなって
空の上に昇っていって
僕は高くなろうとして
それは簡単なことで
片方の足を上げて、空を踏みしめて
体を上げて、もう片方の足を上げて
空を踏みしめればいいんだ
僕は階段を上るようにして
どんどん上がっていって
階段を何段もとばしていって
僕は空へ駆けあがっていって
どんどんのぼっていって
どんどんのぼっていって