二日目
二日目
「ふあ~。眠い…」
ベットの上から起き上がると、洗面所に向かった。洗面所には、今日この家を出るお母さんが居て歯ブラシをしていた。
「お母さん、おはよっ。」
「ふはよおう。」
「なんて言ってるか分かんないよ。」
少し笑いながら言えば、お母さんは歯磨きを終わらせた。
「おはよう。夏。顔を洗うのでしょう?使っていいわよ。」
「ありがとう。ご飯って出来てる?」
「勿論。着替えて、待っているわね。」
扉が音を立てて閉まると私は鏡を見た。頬から鼻の上を通る様にして出来たそばかす。髪はお世辞にも綺麗とは言えない。流石にヤバいな、と思い最近はヘアオイルを塗る様にしている。ヘアオイルを塗る様にしてから前よりも髪がまとまりやすくなった気がする。部屋着は古いTシャツに太ももまでの短いデニム。高い位置で結んだ髪をほどくと、位置を変えて結び、ヘアバンドを付けた。
「冷たっ。」
あまりにも冷たい水で顔を洗い目が覚めた私は、化粧水を顔に塗った。しみこませた後に乳液を塗ると、久しぶりにメイクをした。昨日、ショッピングモールで戦う雫は雨の下!を見たせいか、ヒロインにはふさわしいと、私は思わないそばかすを隠したくなったからだ。
「ファンデーションだけで良いか。」
化粧下地とファンデーションを塗ればそばかすも、ましになった気がする。
「あー、何やってんだろ。今更ヒロインとかバカみたい。」
所詮雨女は敵役。教育系の番組以外の大体のアニメなどで、雨女雨男は敵だ。
「おー、美味しそう。」
洗面所の扉を開ければ、いい匂いがしてきた。
「さあさあ、座って。」
座布団に腰を下ろすと、手を合わせた。
「いただきます。」
どの料理も美味しくて、好きな時にこの味を食べられないのを少し寂しく感じた。
「じゃあ、お母さん行くね。」
「うん、元気でね。」
時間になってしまった。引っ越し業者がお母さんの荷物を全て持って行ってしまった。
あぁ、ここで寂しいから行かないでって言えたらどんなに楽なんだろう。
(まあ、言えるわけないよな。)
出来るだけ笑顔で、口角を上げれば笑顔は作れる。だから。
(笑うんだ。私。)
「?夏。泣いてる?」
こちらに近付いてくるお母さん。
「あははっ、そんなことないよ。私は大丈夫だから。心配しないで。ほら、泣いてないでしょ?」
顔を近づけて目元を見せれば、お母さんはしぶしぶ納得してくれた。
「夏はいつも我慢してるから。こういう時ぐらい泣いても良いんだよ?」
「ありがとう。別に泣いてないからと言って別れが寂しくないわけじゃないからね。」
「ふふっ、分かっているわ。こんな駄目な母親の事に貴方を巻き込んでしまってごめんね。」
「だから、大丈夫だって!ほら、タクシー待ってるよ。」
最後にお母さんに抱きしめられた。
「夏。愛してる。」
「私も、お母さんの事好きだよ。行ってらっしゃい。」
別れの言葉は言わない。いつもと同じように送り出すだけだ。最愛の人の元へ。
「行ってきます!」
そうやって言いながら笑うお母さんの姿をきっと私は一生忘れられないだろう。
鍵の駆けられた玄関で私は一筋の涙を流した。
「子供を置いていって、恋人と結ばれたお母さん、じゃあね。さよなら…!――っ…!嘘つき!嘘つき!私の事愛すって言ったじゃん。」
涙は流れ出したら止まらず、しばらく私は玄関で静かに泣いた。