二十八日目
「終わった…!!」
「お疲れ様。」
雨が冷たいペットボトルを頬に押し付けてきた。
「んー気持ちい。買って来てくれてありがとう。」
お礼を言って受取れば、中身は炭酸だった。雨上がり、じめっとした空気の中で飲む炭酸水は物凄く美味しかった。
「今日で、ヒロインとしての役割も終わりかー。」
空を見上げながら言えば雨は首をコテンッと傾けた。
「?まだ終わりじゃないだろ。」
「え?助けられていない人いないよね。」
私が辺りをきょろきょろと見渡せば雨は言った。
「自分の事忘れてるよね。」
一瞬ドキッとしてしまった。それは自分の分の敵を倒していない事に自覚があったからだ。
(雨、私、自分の分忘れてなんかないよ。でも私の分の敵は居ないんだ。それに私が居るとこれから生まれてくる子が雨女雨男になってしまうんだよっ。)
でも、そんなこと言えない私は明るい声で言った。
「あー忘れてた!ごめんね。また明日自分の分は家で倒すよ。」
「ダメだ、今戦え。」
雨から出た声とは思えないぐらい、低い声が聞こえた。
「なんで?」
私が聞けば雨はくしゃりと顔を歪ませた。こちらを見る目には涙を貯めていた。
「夏が、所長から「お前が居ると私の嫌いな属性の奴らが生まれ続ける!今度生まれたらそいつらを殺してやる!」って言われていたの俺知ってるよ…これから生まれてくる子は俺達で守ろう?だから居なくなろうとしないで…!!生きててよ……」
あぁ、雨に全部ばれていたんだ。
私は自分が正義の味方に選ばれた理由を、なんとなく自分で分かってはいた。
この世界の正義の味方は存在していると、この後生まれてくる子が幸せにならない。
だから正義の味方が消えても困らないような人を正義の味方に選んだのだろう。
それでいてこの現状に不満を持っていて、正義の味方に憧れている雨女雨男を。だから私が選ばれた。父親は居なく、母親も家を出て行ったこの私を神は選んだんだ。
「そんなこと言わないでよ。消えるのが怖くなる。」
私にその目を向けないで。決意が揺らぐから。
「だから、いなくなんないで!これは俺の素直な気持ち、夏が居ないと駄目だって気付いたから。だからもう、俺の前から二度も居なくならないで…」
「私達、あのスーパー以外で会ったことあるの?」
「うん。夏は覚えていないかもしれないけど、俺のお母さんの浮気相手って夏の父親なんだ。最初は昔浮気相手が連れてきた子が、今の夏に似ていたなって思っただけだった。夏の顔が浮気相手の男の顔に少し似ているなって思っただけだった。でも夏がアルバム見せてくれた時、夏のお父さんが俺のお母さんの浮気相手で、俺の中で夏が、俺の忘れられない人だって気付いた。小さい頃からずっと夏の事が忘れられなかった。もっと話をしたかった。だから…!生きて欲しい。所長から子供守るのは俺も手伝う!」
顔をぐしゃぐしゃにして話す雨に「さようなら」なんて言えなかった。
「そうだったんだ…。だからなんか懐かしかったんだ。本当に嘘偽りのない笑顔だって、君の笑った顔を見た時思ったんだ。それと同時に懐かしくも感じた。私貴方と一緒に居て良いの?」
「うん。勿論。色んな所に行こう。君がお母さんと行けなかった分いっぱい遊ぼう。」
(あぁ、幸せってこんなに近くにあったんだ。なんかお父さんが離婚したことに感謝しちゃうぐらい幸せだ。)
「生きて良いんだ…」
自然と雨の方に手が伸びた。思いっきり抱き着けば、雨のぬくもりが私に生きていることを実感させてくれた。
「夏、夜ご飯何がいい…」
雨が夜ご飯を聞こうとしてくれた時、
「ア゛ァ゛ァァ」
突然の痛みが私を襲った。私は何が起こったか分からなかった。
(お腹が痛い、燃えるように熱い。)
「あ、あ゛あ゛ぁ」
「夏しっかりして!!!」
雨に支えられながら私は痛い部分を触った。お腹を触った手には血がべっとりとついている。その手に着いた血が、私が撃たれたのだということを教えてくれた。
「ハハハハハ!ハハハハハ!君がさっさと死なないからこうなるんだよ!」
「し、所長…」
こちらに歩いてきたのは白い服を着た研究所の所長だった。
「良く私の事を知っているなぁ!どうだ?痛いか?」
私を撃ったのは所長だったのだ。その証拠に手には拳銃を持っている。
「安心しろ。そこの男の子も仲良く天国に送ってあげるからサ。」
「てめぇーー!」
雨が唸る様な声を出した。かなりゾクッとしたが所長は全く怖気づいていなかった。
「さーて、殺してやるよ。」
私の目の前に来た所長は私の眉間に銃口を向けた。所長は私がさっさと死なないから直々に殺しに来たのだろう。全ては嫌いな雨女雨男を見ないために。
(何とか雨を逃がす時間を稼がないと…)
私の頭の中は雨を逃がすための作戦で、埋まっていて自分が助かる方法なんて考えていなかった。
「ははっ、おかあさん、の、恋人に、殺される、、最後に、なる、なんて、ね。」
薄っすらと笑いながら言ってみれば、彼を怒らせてしまったらしい。
「雨女があいつの名前をだすんじゃねーよ!!」
どうやら所長はかなりお母さんの事を愛しているらしい。
(時間を稼ぐつもりだったのにしくじったなー。あーこりゃ殺されるわ。お母さんに感謝の気持ち伝えてからの怒りのビンタ一発したかったなー。)
まだ、感謝の気持ちも伝えられていない。それに私を置いて行ったのを許せないので、その分のビンタもしたかった。でもそれは叶いそうにない。
崖っぷちの状況だけど、せめてもの抵抗で最後は笑ってやろうと思った。
「じゃーな、所長。あの世で雨男になる呪いを掛けてやるよ。」
そう言って口角を上げたら静かに目を閉じた。きっとこの後すぐに痛みが来るはず
``だった``
「ゔああああああ…」
痛みの変わりに聞こえてきたのは所長の声と鉄の匂いだった。そして、所長の後ろから人が走ってきた。所長を見れば両肩から血が滲んでいて、走ってきた人物が所長の両肩を撃ったのだと分かった。
一瞬敵かと警戒したが、所長を撃った人物はこちらにすぐ姿を見せた。
「夏!良かった、生きていて。」
こちらに走ってきたのは私のお母さんだった。
「お母さん?」
なんでお母さんがここにいるのだろう。その疑問にお母さんは手当をしながら答えてくれた。
「私、夏には黙っていたけど、警察官なの。この所長がヤバいことをしてるって情報が入って潜入調査をしていたの。ずっと所長の事は見張ってたんだけど、どこかに急に消えちゃって。慌てて追いかけたら夏が撃たれてて。とにかく焦ったけど生きていて良かった。」
「もしかして家を出て行ったのって…」
一つの可能性にたどり着いた私は聞いてみた。
「そう、潜入調査のためだったの。黙っていてごめんなさい。」
(なんだ、そういうことだったのか。)
「教えてくれてありがとう。ごめんねお母さん。ずっとお母さんはお父さんと同じで私を置いて行ったのかと思っちゃった。」
「そんなことするわけないでしょ?私は貴方の事が大好きだもの。」
「あはは、そっかぁ。」
お腹にしっかりと撒かれた包帯。救急車が到着するまでの間にお母さんは所長を捕まえると、私と雨と沢山話をしてくれた。お母さんの話のお陰で痛みも我慢できた私は救急車が到着して、ストレッチャーに乗せられるとお母さんにお礼を言った。
「お母さん。お父さんが離婚しちゃった時私を外に連れ出してくれてありがとう。そのことのお礼をずっと言いたくて。今でも感謝してるっ!お母さん、大好きだよ!」
「あなたが元気そうでよかった。また一緒に暮らしてもいい?」
「うん、勿論!また病院でね。!」
軽く手を振ればお母さんはパトカーに乗っていった。




