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一日目

「雨女雨男外出禁止令発動中」

テレビには大きく太い黒文字でそう書かれていた。背景は赤でそれがより一層、禁止令の理不尽さを物語っていた。

ーーー

「ここは雨女雨男が生きずらい世界」

ーーー

一日目

この世界には、雨女雨男が存在する。フィクションでは無い。本当にこの世界に居るのだ。どこか別の星にはフィクションとして雨女雨男が存在するらしい。そっちの方がよっぽど楽しいと私は思う。

「あ、外に出た瞬間、雨が降ってきた!」

「じゃあ、君は雨女だね。」

なーんて、会話が存在すると聞いた時には大いに驚いたものだ。


少しこの世界の話をしよう。

この世界にはとある「禁止令」が存在する。その禁止令は「雨女雨男外出禁止令」と言い雨女雨男の外出を制限するものだ。この禁止令が出ている時は、ベランダであっても一歩も外に出る事を許されていない。買い物にも行けず、散歩にも行けない。買い物はどうするかって?その答えは簡単。民間の「雨女雨男専用宅配サービス」と言うものがあり雨女雨男はそのサービスを利用するのだ。


私も利用したことがある。というか、その宅配サービスしか禁止令が出ている時にわざわざ物を届けてはくれない。理由としては、「晴れてるのになんでわざわざ、雨を降らす奴らのために働かなきゃいけねーんだよ。」である。これは、私が某デリバリーサービスを利用した時に言われた言葉だ。

玄関でそのセリフを吐かれた時は、一発殴ってやろうかと思ったが、トラブルになりたくないのでやめておいた。

その代わり、背中に背負っている黒と緑の保冷バッグに向かって変顔をしてみた。特に何かが変わるわけではないが、渾身の変顔は私をストレスから解放してくれた。


「今日もこの後家に入んなきゃいけないなー。」

傘をさしながら、路地裏を歩く。水が靴に染みて気持ち悪い。


「あーあ、何で雨女に生まれたんだろう。」

空を見れば、西の方は晴れていて「なんで、ここだけ。」そうつぶやいてしまった。

理由は他でもなく雨女の私のせい。きっとこの辺のアパートに住む住人は洗濯物が干せないと嘆いているんだろうな。


「まぁ、別に今更言ったって、属性(雨女)が変わるわけないっつーの。」

ははっ。一つ乾いた笑みが零れた。

今日はどうやら、お偉いさんと、有名アーティストのコンサートがあるらしい。雨だと都合が悪いので禁止令が出されると、朝ニュースでやっていた。


(禁止令まであと三時間か。ショッピングモールにでも行くか。)

雨女雨男は建物の中に居れば外に雨が降ることは無いので、ひとまず近くのショッピングモールで時間を潰すことにした。


ーーー

「よいしょっと。」

階段を登りきると、傘を畳み傘用のビニール袋に入れた。

「あー気持ちい!」

私は傘用のビニールに傘が入る瞬間が好きだ。この時だけは私が雨女であることを忘れさせてくれるから。中に入れば、何処に行っても人だらけ。やっとの思いで、たどり着いたのはソファーが置いてあるスペース。ここには、子供連れが多く来ていて、おじいちゃんやおばあちゃんの憩いの場になっている。


ふと、目線を上に上げれば小さい頃よく見ていたアニメ「戦う雫は雨の下!~雨女は正義の味方!~」が放送されていた。昔のシリーズの再放送かと思えば新シリーズが始まったらしい。ちょうど今の時間から放送がスタートしたようだ。初回拡大スペシャルで、三十分の番組が四十五分になっていた。


(懐かしいな。あの頃は、雨女も正義のヒロインになれるって信じてたっけ。)

今考えれば雨女雨男が正義のヒロイン、ヒーローになれる事は無いことを知っているので、そんな夢は抱かないはずだ。断言できないのは少しだけ、正義の味方に憧れていたからかもしれない。


「雫の思いは日本一!雫の下、チューリップピンク!」

「わぁあ!がんばれー!」

ヒロインであるチューリップピンク――雨乃雫 小雨(あまのしずく こさめ)が変身すると、子供達から歓声が沸いた。


「あぁ、かっこいいな。」

必死になって、走り、殴り、雨の中濡れながら戦う。そのヒロインの姿は今見ても心をときめかせる。


「ぁあ、なりたいよ。かっこいいな。私も正義の味方になりたいよ…」

段々と涙が滲んできた。この世界は生きづらい。雨女雨男が生きずらい。

(何で皆の事情で私達が家から出れないの?どうして…!!)

叫びたいけど叫べない思いが爆発しそうな時、戦う雫は雨の下!歴代ヒロインの声が聞こえたような気がした。

「大丈夫。あなたは正義の味方にきっとなれるわ。」

「え?だれ…?」

周りを見ても誰も私の事を見ていない。じゃあ一体どこからこの声は聞こえてきたのだろうか。


「聞き間違えかな?」

聞き間違えだと思いもう一度テレビに視線を向けた。初回拡大スペシャルを見終わると、業務スーパーで買い物をして家に帰った。

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