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1:死……な無い!?

 春の温かい陽気。

 気持ちの良い春風。それを受けながら、俺は新高校二年生として最初の登校を徒歩でしている。

 あちこちでは桜がそろそろ咲こうかというところ。その日が待ち遠しい。

 俺は新しいクラスはどんなだとか、担任はどうなっただとか、まぁそういう普通のことを考えながら、ゆっくりと歩いている。


 ――が、変化は起こった。

 世界が真っ暗になった。




 ――哀れな少年よ――


 声が聞こえた気がした。

 相変わらず世界は真っ暗だ、しかし俺には意識がある。だが感覚はない。

 これが死後の世界……いや待て、俺死んだっけ?


 ――少年は死んだ――


 あ、そうなんだ……

 というか、この声の主は誰だ?


 ――私は神だ――


 あ、そうですか……

 

 ――疑わないのか?――


 いや、むしろこの状況であんたが普通の人間だって言われた方が困る。


 ――冷静だな……――

 

 よく言われる。

 取り乱してる自分って、なんかかっこ悪く見えてそうで嫌なんだよな。


 ――ちなみに、少年を殺したのは、私だ――


 ちょっと待てぇ! 

 ……いやいや待て! 


 ――立派に取り乱したな――


 当たり前だ! いきなり神様の声が聞こえると思ったら、私があなたを殺しました!?

 そんなの受け入れられる許容量じゃねぇよ!

 ……てか、え? やっぱり俺死んでるの?


 ――手違いがあった。申し訳ないと思っている――


 いや、まぁ。許すとか許さないの次元を越えすぎてるんだけど……

 とりあえず俺はどうなるの?


 ――そこで選択肢がお前には2つある。本来なら、このままあの世行きなのだが、それではあまりにも哀れ。というわけで、少年には別の世界にて第2の人生を歩む権利を与える――


 うーん、別世界かぁ。

 とりあえず死なないですむんだよな?


 ――そうだ。だがその世界というのはだな……今も戦争の真っ只中だ――


 マジで!? じゃあ俺なんかが送り込まれても、すぐに死んじゃうんじゃ……


 ――だろうな――


 おいぃ! 神様無責任!


 ――だが戦火の及ばない場所に逃げ、安穏と暮らすということもできる――


 その前に死ぬだろうが!

 せっかく生き返って、またすぐに即死濃厚の世界に送り込まれるなら、このまま死んだ方が良くないか?


 ――だが少年を死なすのは忍びない――


 じゃあどうすりゃいいんだ!


 ――少年に、力を与えよう。死んでしまわぬよう――


 ……意識が遠くなっていく……




 「……ここが異世界か」


 あたり一面、真っ白だ。

 まさか異世界というのは、こんなに何もない場所だとは思いもしなかったな。


 「いや、違うけど」


 「うおぉい! 誰だよ!」


 「え? 神様」


 目の前にいるのは、ちょっとイケメンな俺より年上か同い年くらいにしか見えない若い男だ。

 服装は、もうふざけているとしか思えない。

 あと背中には、七色に光っている半透明の羽が生えている。ふざけてるだろ。


 「神様というのは、白い髭をもっさり生やしてるんじゃないのか?」


 「それは違う。せっかく好きな年の姿でいられるのに、わざわざ老体を選ぶ神は見たことないからなぁ」


 「随分と、ふざけてるな」


 「ははっ、恐れ多いな。殺っちゃうよ?」


 目がマジだったから自重することにしよう。


 「ちょっと待てよ! あんた俺を殺したとかなんとか、つかさっきとキャラ変わりすぎだろ!」


 「まぁ待てクソガキ。説明すっから。まずここは、俺の世界だ。神ってのは、それぞれに個人的な聖域を持ってるんだ、こんな場所に踏み込む下等生物は稀だから、誇っていいぜ」


 「いちいち言葉の端がうざくてしょうがない」


 「ありがとな。そんでまぁ、俺が確かにお前を殺しちゃった。聖域に溜まっていた邪念諸々をテキトーに外界にほったら、偶然お前に当たったんだ」


 「いや褒めてないしもう説明も意味不明なんだけど、とりあえず俺はなぜここに?」


 「……まったくゆとりは……それも説明しなきゃならんのか」


 「うるせぇ、早く説明しろ」


 「後で絶対お前泣かすからな? まぁ説明してやろう。つまり、神様がすばらしい力を与えてやろうって言ってんだ、発狂するほど喜びやがれ」


 「ああ、そうか。それは助かるな」


 どんな力なんだろう。

 死なないようにってんだから、もうものすごく強くなったりとかだろうか。

 神様は、俺の頭に手をのせた。

 ちょっとイケメンな神様の顔が、一気に真剣になる。


 「悪いが、不老不死は下等生物には過ぎた力でな……まぁそれに近いものをくれてやる」


 一瞬、俺の体が輝いた。

 だがすぐに光は消えた。


 「え、終わり?」


 「ああ、終わりだ。とりあえずどうなったか教えてやろう」


 神様はどこからか巨大な剣を取り出していた。うーん嫌な予感がする。


 「死ねぇっ!」


 「ぎゃぁああああ!」


 俺の右肩から巨大な刃が突き刺さり、どんどん深く食い込んでいき、ばっさりと袈裟斬りにされた。俺の体は斜めに斬り裂かれ、崩れ落ちていく。


 「いいいいいいいだだああああああ! いてぇよ!」


 「ふふふ、すごいだろ」


 「すげぇ痛いだけだ!」


 「バカが、痛いで済んでいることに違和感を感じろ」


 「そ、そういえば……って、え? 体が……」


 一度は完全に切り離されたはずの体が、またくっついてしまった。服は完全に切れてしまって、白いシャツとか血まみれなんだけど、なぜか生きてる。

 つかこの出血量やばいな。


 「まさか不死……」


 「クソガキ。不死ではないと言っただろう」


 「いや、だってこれは」


 「あと100回斬ればお前は死ぬ」


 「は?」


 「お前は1日に100回までなら死んでも死なん。体は元に戻る。まぁ101回目は死ぬけどな」


 「マジかよ……クソ痛いんだがどうにかならないか?」


 さっきは本気で死ぬほどの激痛が走った。

 死なないのは結構なんだけど、さすがにあんな目にあってまで生き続けるというのは、場合によっては苦痛かもしれない。


 「バカめ、本来ならもっと痛いはずだ。お前のような軟弱なものでも、心が壊れぬよう痛みは感じにくいようになっておるのだ」


 「えぇー、もっとさぁ……これでも激痛なんだけど」


 「まぁギリギリで心が壊れない加減してるからな」


 「鬼っ!」


 「黙れクソガキ、俺は神だ」


 どんどんこいつのキャラが変化していく。

 というか、本性が現れているのか。なんなんだこのドSの神様。


 「じゃあなクソガキ……ふむ、一応名を訊いておくか」


 「五十嵐涼太だ」


 「ふむ。ま、あと5分もすれば忘れるがな」


 「なぜ訊いた!?」


 「一応だと言ったはずだが? 送り出す時に、名を呼んでほしいものだろう」


 ……いや、別に? とか言ってはいけないよね。

 やっぱり神様なりの気遣いとかだったり、やっぱり俺のことを手違いで殺してしまったことに罪悪感とか感じてるのだろう。

 

 「とりあえず、そろそろ時間だ。ゴミをいつまでも俺の個人聖域に置いておくのは不快だからな。まぁ出発の前に注意しておこう」


 「いろいろ納得行かないが、聞こう」


 「お前は、24時間という1日の単位の中で、100回までは死ねる。つまり101回目は死ぬから気をつけろ」


 「はいはい」


 「そして、100回がリセットされるのは24時を過ぎた時だ。後は、死ねば体は再生するが、死なない限り再生しない」


 「……? つまりどういうことだ?」


 「骨折くらいじゃ死なないから、再生しない。たとえ腕の骨が粉々になってもな」


 「なにっ!?」


 「まぁ死ねば完全に回復するから気にするな」


 「気にするわ!」


 「ふっ……まぁ、がんばってくれ」


 神様は俺に近づいてきた。

 そして手を俺の頭にのせた。多分この世界から、俺が行くことになる異世界とやらに送るのだろう。


 「ちなみに、ここでの記憶はほとんど消える」


 「……注意の意味無かったじゃねぇか!」


 「まぁそうだな。だがもう時間だ。行って来い……ダイスケよ」


 「かすりもしねぇよ! この鳥頭!」


 体が光に包まれ、徐々に視界が無くなっていく。

 次に感覚が消えていく。そして意識もはっきりしなくなっていき、俺は眠りに落ちるように意識をなくした。

 ちくしょう神め、バカにしやがって……くたばりやがれ。

 



 ■■■■■■■■■



 

 「うぁあああああ! って夢か!? というかなんの夢見てたんだ?」


 どこなんだここは。

 なんだかうるさい。

 俺は汚い地面の上に寝転がっていた。なにやってるんだ俺。


 「確か俺は……学校に……」


 しかし、ここはどう見ても通学路ではない。遠くの方には人がいるみたいだが、どうもそいつ等おかしい。

 どうやらうるさいのは、そいつ等が雑音を出しているからなのだが、どういうわけか見んな銃を構えているわけだ。

 大人数でサバゲーでもやってんのか?

 しかしこの音、リアルだなぁ。


 ザクザク、と地面を踏みしめる音が聞こえた。俺に誰かが近づいてきたらしい。


 「……えーっと。ここはどこですか?」


 とりあえず話しかける。

 身長、2メートルはあるか、かなりごつい。それに顔が完全に隠れていて、腕はなんだか機械的で、サイコガンみたないなのがくっついてる……

 俺の第六感が、逃げろと叫ぶのだが……


 ガチャリ、と、サイコガンが俺の額に突きつけられた。


 そして直後に、額に熱いものを感じたが、すぐに俺の意識は落ちていってしまう。

 ……死んだな。



 

 「殺す気かっ!」


 ん、生きてるな。

 いや、死んだ気がしたんだが、夢だったか。でもあたりはさっきと同じで荒れた土地だ。そして俺は地面に寝転がっている。

 だが何か、冷たい。


 「なんだ……なんじゃこりゃああああ!」


 「え、ええっ!? あんた生きてんの!?」

 

 「むっ、誰だか知らんが失礼だな」


 高い、女の子の声だ。


 「いやでも……その出血量普通に即死じゃないの」


 「あ、あぁ。俺もそう思うんだけど……」


 服も、顔も、あと寝転がっていた地面も。血で染まっているのだ。

  

 「え……? あんた傷は?」


 そう言われて額に触れる。うーん、傷ひとつ無いな。


 「どうなってんのよあんた!」


 「俺が聞きたい。というか、誰だあんた?」


 「私? 私はリサ。人部隊、第一特攻部隊長よ」


 「いや、さも当然のように語られても何がなんだがさっぱりなんだが」


 第一特攻部隊長? 

 というか人部隊ってなにさ。


 「というかあんた戦場舐めてんの? そんな軽装で、武器はあるんでしょうね?」


 「俺の国では武器は所持しちゃいけないんだよ」


 「じゃあ丸腰なの!? あんたバカじゃないの?」


 「失礼な、バカじゃねぇよ!」


 「あぁんもう! あんたと言い合ってる暇は無いの! とにかく死にたくなければその辺で小さくなってなさいよ!」


 ……分けが分からないんだけど。


 俺がボーっとリサを眺めていると、その背後から迫っている変なゴツイ人影が見えた。

 ……俺の頭撃ちぬいた野郎じゃないか! やっぱり夢じゃなかったんだな! いや、コレも含めて夢か!? わけ分からないぜ!


 「リサ後ろ!」


 「え、あ! このっ!」


 リサは左太ももについてあるホルスターから、銃を抜き、すぐさま発砲した。

 その銃も本物のようで、オレンジ色の閃光が光、そして硝煙が立ち昇る。

 その動作は流れるようで、ものすごく速かった。


 ゴツイ人に、銃弾は直撃したようだったが、全く倒れる様子も無く、ゴツイ人はサイコガンをリサに向けた。

 何か知らんが、やばそう……

 立ち上がり、右の拳を握り締めて、ゴツイ人の顔を殴る。


 「おらぁっ!」


 「あ、あんたなにやってんの!?」


 ゴツイ野郎は……一ミリも動かなかった。うぅ、へこむぜ。俺のパンチ力酷いな。

 サイコガンの照準は、リサから俺に移り、そしてサイコガンの銃口が光った。


 一瞬、頭に熱いものを感じたが、あっという間に俺の意識は落ちていく。

 ……死んだか




 ――ねぇ! ねぇってば!――


 意識が回復する。

 やっぱり、死んでないのか。一体全体どうなっているんだ。これはやっぱり夢か。


 「起きろって、言ってんでしょうが!」


 「ぐはぁっ! 仮にも一度死んだ人間の鳩尾に肘打ちするな!」


 「生きてるじゃないの!」


 「絶対死んでるんだって!」


 血の海が1つ増えてしまった。

 やばいな。確か人間は2リットルの血を失えば、まず死ぬんだよな……俺は、少なくとも4,5リットルの血は失っているだろう。

 いやいや、ちゃんと死んでるんだ。

 そりゃそうだ、あの出血量で死なないわけが無いからな……

 なんで生き返るんだ?


 少し離れた位置では、ゴツイ人……なんか人かどうかも怪しい何かは地面に倒れてのびていた。


 「あれ、死んだのか?」


 「死ぬというか、壊れたわね」


 「……つまり死んだ?」


 「……あれは機械よ? というかあんたほんとに何者? この戦場に軽装に丸腰でやってくるし」


 「き、機械? あれが? 技術も進歩したもんだなぁ」


 「あんなのかなり古いモデルよ?」


 「は、はぁ……もうわけ分からない。ここどこ?」


 「戦場よ、機械軍と人部隊の戦うね」


 「機械軍? なんだそれ、そんなのまるで異世界の……」


 ……何か、思い出しそうだ。

 俺はここが異世界だと知っているんだ、なぜ? それは分からない。

 ただもう1つ思い出した。俺は、不死、ではない。ただ不死に限りなく近いんだ、誰かに聞いた。誰だっけ?

 分かる事は、ここは戦争の真っ只中である異世界で、俺は不死に近い存在ということ。


 「……敵が退いていくわね……」


 遠くの方では、何かが遠ざかっていくのが見える。

 

 「とりあえず、あんたにはいろいろ聞きたいこともあるし、その様子じゃ行く当ても無いんでしょ?」


 「お、よく分かったな」


 「……ここに捨てとこうか?」


 「ごめんなさいごめんなさい! もうパニックが許容量とっくに超えちゃってやばいから助けてください」


 「はぁ……全く、なんなのよあんた」


 リサは盛大なため息をつくと、歩き始めた。

 現状、俺にはリサしか頼りが無いので、その後ろについて俺も歩き始めた。

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