お兄様、王子殿下の顔以外の良いところが見つかりません…
「大丈夫かい?リリ」
「はい………糞でした」
「え?今何て?」
あまりの言葉に思わずカインはリリアヴェルに聞き返す。
王子を糞って言った?この子。
思わず振り向いてリリアヴェルを見れば、真剣な顔でもう一度言う。
「顔が良いんですけれど、顔以外にあるかと思って顔を見ないようにして話をしておりましたの。言っている事が大変、糞でございました。顔が良い糞野郎でございます」
「おい、何時の間にそんな下品な言葉を覚えたんだ、リリ」
丁寧な言葉の合間に挟まれると、余計その汚物が強調されるようでカインは顔を顰めた。
きょとん、とリリアヴェルは首を傾げてから、ああ、と思いついたように手を叩く。
「お城で洗濯をなさっている女性が話しておりましたの。本来は不敬に当たりますけれど、わたくしのお部屋にはお部屋ルールがございますでしょう?王子殿下は糞野郎だから、リリアヴェルちゃんが勿体ないよー!って言っていたのです」
「そ、そう」
相変わらずの交友関係の広さに、カインは納得した。
公式の場で口にしないだけの良識は持ち合わせているから問題は無いが、中々強烈ではある。
「ですから、側妃のお話はお断りする方向で話しているのですけれど、顔が良い人は押しも強いのでしょうか」
「顔が良いからというか……まあ、それもあるけど、リリの盲目的な愛を受け続けて変な方に自信が育ったのかもしれないねえ」
「それは困りましたわね」
溜息を吐くリリアヴェルを見て、カインは思い出す。
つい数日前までは側妃を受け入れるつもりで泣いていたのだ。
酷い仕打ちに、あんまりですと言いながらも、渋々受け入れるつもりだったろう。
だが、今は、愛し愛される男が他に居るので、顔が良いだけではどうやら落とせないらしいと気づいて、カインは少し安心した。
家で守っていたとしても、学園に通ったらぐらつくのではないかと心配していたのだ。
もうその心配も必要ないかもしれない。
「そろそろ学園にも顔を出すと良い。中々友人も作れなかっただろう?ご令嬢達は恋の話が大好きだよ」
「まあ!それは素敵ですこと!そうですわね、折角ですもの色んな方達とお話ししたいです」
今まで昼休みも休み時間も色々押し付けられて、隙間時間もヨシュアとレミシアの動向を見守っていたので友人と過ごす時間が少なかったのだ。
生き生きした顔で語るリリアヴェルを見て、カインもその頭をふわふわと撫でた。
何時も笑顔で頑張っている妹が、泣き叫ぶところはもう見たくない。
馬鹿でもチョロくても、カインにとってはこの上なく可愛い妹なのである。
***
学校に復帰したその日、早速またヨシュアに側妃になってくれと言われて断ったリリアヴェルは、ある事が気になっていた。
昼休みの庭園で、恋人のレミシアとヨシュアが楽しそうに語らっている。
レミシア様は、側妃を迎えても宜しいのかしら?
気になる事は放っておけない性質のリリアヴェルは、つかつかと二人の元へ歩み寄った。
「ごきげんよう。わたくしも混ぜて頂いて宜しいでしょうか?」
「ああ、いいよ」
側妃に、と言っている手前、笑顔でヨシュアは同席を受け入れ、レミシアは一瞬顔を強張らせたものの異を唱える事はしなかった。
「わたくし、レミシア様にお聞きしたい事があるのです」
「何でしょうか」
「殿下に側妃になって欲しいと乞われておりますけれど、レミシア様は構いませんの?」
構わない、というよりは渋々なのだという事が伝わる顔で、レミシアは頷いた。
「私ひとりじゃ執務が出来そうにないので」
「わたくしと殿下が閨を共にする事があってもですか?」
突然夜の話になって、流石に顔を引きつらせたレミシアは咎めるようにヨシュアを睨んだ。
まさか、そんな事しないわよね?
という無言の圧力。
だが、ヨシュアは飄々とした顔で二人に微笑みかける。
「そういう事もあるかもしれない、ね?」
「ですわよね。側妃ですものね」
それに同意してリリアヴェルは頷くが、レミシアは怒りを隠しきれないでいる。
きっと彼女の独占欲と、矜持に傷が付いたのだろう。
でも、そんな日は来ないので安心してほしいですわ。
リリアヴェルは愛しいメグレンの姿を思い浮かべて微笑んだ。
一応確認しておきたいリリアヴェルでしたが、元サヤはないです…!
ひよこは上書き保存or消去派なので…。