其々の魔女の見守り
メグレンが魔女の家を後にして3時間が経過しようとしていた。
だが、リリアヴェルの惚気話は止まる事を知らない。
いや、本人に惚気ている自覚は無いのだ。
メグレンの素晴らしさをただただ伝えているだけで。
「ですから、メグレン様は冷たそうなお色と美貌とは相反して、とても情熱的な御方なのです!」
「あーハイハイ…ソウデスネ……」
演技の駄目出しから始まり、いかにメグレンが素晴らしいか、いかにメグレンが愛してくれているか。
それを語られ続けているのだ。
キャスリーが主に捕まっているのは、同じ人を好きな人同士!という乙女ならではの思考である。
リーシアとアディラはのんびりとお菓子を食べつつ見ていた。
「ふむ。私がメグレンの真似をした方がうまく騙せたかもしれんな」
リーシアが揶揄うように言う。
「何しろリリアヴェルには寵愛を与えているからね」
言われたリリアヴェルはやっと暴走をやめて、大きな金色の目を瞬かせた。
微笑むリーシアを見て、ふるるとリリアヴェルは横に首を振る。
「いいえ、分かります。リーシア様の愛は、暗い海に浮かぶお月様のような温かく穏やかに照らす光のようなものですから、わたくしには分かりますわ」
揶揄ったはずのリーシアが今度は、ぱちぱちと夜の海の様な瞳を瞬く。
そしてゆっくりと破顔した。
「参ったな。最高の賛辞じゃないか。私が男ならば可愛いお前を攫っていたよ」
「まあ!それこそ最高の賛辞でございますわ!」
リリアヴェルは無邪気な笑みを見せているが、アディラとキャスリーはうへぇという顔をしてリーシアを見た。
ちょっと病的な愛が入っている。
(男じゃなくて良かったね!)
(それ賛辞じゃないわよ!)
アディラとキャスリーはそれぞれ心の中で突っ込みを入れた。
口に出すのが怖かったのもある。
確かに寵愛を与えているのだろうなという優しいリーシアの眼差しも怖い。
リリアヴェルに少しでも危害を加えたら、戦争を辞さない恐ろしさが確かにそこにあった。
危なかったね、というようにアディラはキャスリーに視線を送り、キャスリーも口を歪めて頷いたのである。
もっとこう、騙す以外の方法でリリアヴェルに何かをしようとしていたら。
とんでもない報復を受けたかもしれないのだ。
よく分からない二人の世界を打ち破るように、アディラが話題を強引に変えた。
「そ、そういえば、キャスリーはその馬鹿皇子を可愛がっていたの?」
今回の騒動の大元である。
ああ、とちょっと呆れたようにキャスリーは巻いた赤髪を掻いた。
「うーん。可愛がって……はいたのかなぁ。結構やんちゃな皇子でね。小さい頃からまー騒がしくって。私の所にも勝手に行ったら駄目だって言われてたでしょうに、何度も来て。……見た目も実力もそれなりにあって、地位も高かったから、段々傲慢になっちゃったのかもしれないね」
子供時代を思い浮かべたのか、キャスリーは思い出を見るような懐かしい目を宙に彷徨わせる。
一緒にいた時間は、魔女にとっては短くても、人間達にとっては生きて来た時間の長さそのものだ。
小さくてやんちゃな男の子が、大きく逞しい成人男性になるまで。
「悪い子じゃないんだけどねぇ……今回は相手が悪かったわ」
ちらりとリリアヴェルを見れば、リリアヴェルはハッとしたようにアディラを見た。
「もしかして、アディラ様もメグレン様との思い出が!?」
方向転換したら、暴走馬の的になってしまったアディラは、あわわ、と思わず声を漏らした。
キラキラで艶々の黄金の瞳は、生き生きと輝いている。
頬を上気させ薔薇色に染める姿も可愛らしい。
可愛らしいけれど、食いついたら離さないすっぽんのような令嬢なのだ。




