茨の魔女の祝福
「もっと、きちんと止めなさいよ!こんな……こんなの知ってたら、無駄なことはしなかったわ!」
「ふふ。無駄な事にはならんよ、茨の魔女。私が無駄が嫌いな事は知っているだろう?」
「そうよ。何で貴女の企みに乗ったと思ってるの?二人の為よ」
キャスリーの怒号に、冷たい笑みのリーシア、ほくそ笑むアティラ。
三人の魔女を見て、リリアヴェルは金色の大きな瞳をぱちくりと瞬いた。
「二人の……為、ですか?」
漸く二人の熱愛劇場に外野の声が届いたようだ。
リーシアはふむ、と頷いた。
「アディラとて、帝国の子らは可愛い子供の様なもの。望んで危険に晒すことは無い。だが、負けぬ賭けとあらばどうだ?私達魔女は祝福を与えることが出来る種族でもある。それは、中々に得られるものではない」
「まして、遠い国の魔女なら、ね」
リリアヴェルとメグレンは顔を見合わせた。
確かに、心配に心は傷んだし、大勢を巻き込んだ事件ではあったが、怪我人などは皆無である。
大変さに見合う贈物、いやそれ以上かもしれない。
乗り越えられたからという理由でもあるが、魔女達に悪意は……少なくとも北の魔女と黒檀の魔女には悪意などなく、寧ろ善意で動いていたのだ。
「其方達の結婚の祝いに、丁度良い獲物が向こうから飛び込んできたのだ」
「ちょっと人を供物扱いしないでよ!」
腰に手を当てて怒ってはいるものの、キャスリーも悪い事をした自覚はあるのでそれ以上は怒れない。
そして、不承不承、二人に向けて言った。
「悪かったわ、ほんと。賭けに負けたのもあるけど、貴方達の愛は本物だとアタシも信じざるを得ない。だから、祝福を与えてあげるわ。そこに並んで立って」
まずは膝からリリアヴェルを下ろしたメグレンがすっくと立ち上がり、リリアヴェルに手を貸して立たせると、二人は指を搦め合うように手を繋いだ。
並んでからも嬉しそうにお互いを見つめあっている。
何も言わなくても十二分に惚気オーラを発している二人に、はあとキャスリーは大仰な溜息を吐いた。
(こいつら祝福する必要あるかな……?)
半眼でリーシアを振り返れば、リーシアは早くやれと言うように手をひらひらと上下に振った。
諦めた様に二人の方へ向き直り、祝福の呪を唱える。
「我、茨の魔女が祝福を与えるなり。鋭き茨の蔦が、永久に二人を縛り付けて離さぬよう」
まるで呪いの様な祝福の言葉は、しかし本当にある種の呪いでもあった。
足下に現れた茨の蔦が、二人を駆け上るかのように這い、その茨は繋いだ手の小指へと集約する。
キン、と音を立ててあらわれたのは。
「指輪……」
繋いだ手と手の小指に茨の文様の入った銀の指輪がしっかりと嵌っている。
メグレンの左の小指と、リリアヴェルの右の小指。
手を繋げば、カチリとお互いを認識できるように硬質な音が鳴る。
「その指輪はどんなに離れていても、お互いの場所が分かるのよ。これでもう迷おうが夜だろうがはぐれる事はないでしょう」
呆れを交えた声で言うキャスリーに、リリアヴェルは頬を染めて嬉しそうな笑顔を向けて、それからメグレンを見上げた。
「何て素敵な贈り物なのでしょう!!わたくし、何よりのお祝いを頂戴いたしました」
「ああ、俺もだヴェリー。指輪が無くとも君を探し出す自信はあるが、有難い贈り物だな」
(普通は、これ呪いになるのでは)
(なりますね)
そう生温かく微笑んでいたのはアニエスとメツィアだ。
激しく愛し合う二人だから良いようなものの、果たしてどれだけの人間が……愛する相手だとはいえ、四六時中居場所を知られたいだろうか。
不和の種にもなり兼ねないそれを、リリアヴェルとメグレンは心底嬉しそうに受け取ったのだ。
まさにこの二人だからこそ、の光景である。
「あと、それ、死ぬまで外れないからね」
まるでちょっとした注意事項だよという風に付け足すが、まさに呪いの指輪である。
だが、リリアヴェルは嬉々として微笑んだ。
「勿論です!茨の魔女様。一生外しませんわ!」
「ああ、死後も外さないと誓おう」
「メグレン様……!」
(うん。
死んだらずっと墓の位置に指輪があるけどね)
そう思いながらも魔女達と侍女達は優しく頷いた。
呪いだよ、と誰かが言ったところで、二人にとってはこの上ない祝福なのである。
二人にとっては幸福な魔法。




