それは、見慣れた風景で
小さなアディラに小突かれて、仕方なくというようにむくれたキャスリーも謝罪の言葉を口にする。
「…はあもう、分かったわよ。アタシも悪かったわ。……茨の魔女と言えば分かるかしら?ゲルガン帝国にアタシの森があるのよ」
その言葉を聞いて、察したメグレンははぁぁと深く長い溜息を吐いた。
どう考えても首謀者はヒューゲルトしか思い浮かばない。
「あいつか……」
気にしているかと思いリリアヴェルを見るが、相変わらず懐いた小動物のようにメグレンの胸にぴったりと頬を寄せて、堪能するように目を閉じている。
ヒューゲルトの名が出ても反応する気配がない。
それほどうっとりと寄り添っているのだ。
その目を縁取る薄桃色の長い睫毛はくるんと上を向いていて。
「愛らしい……」
今度は思わず、感嘆の溜息と共に呟いた言葉に、キャスリーが言葉を被せた。
「いや、聞いて?」
原因が分かった途端、どうでもよくなったのか、リリアヴェルへの愛が勝ったのかはわからないが、突然話を放り出されて思わずキャスリーは突っ込んでしまった。
その言葉にメグレンはふと我に返る。
「ああ、それで?あの男の言に乗ったのか」
またもや怒りを再燃させたメグレンに、キャスリーは地団太を踏んだ。
「だって、あいつ!どうせ二人の愛は真実じゃないから、引き裂けるって。ヒューがその子を落とすから、だから…」
「俺が心を動かすとでも?随分安く見られたものだ」
嘲る様な冷笑を浴びせられて、キャスリーはふいと横を向く。
少なくとも見た目は好みだったのだ。
ものすごく。
そんな相手に蔑むように見られれば、長い時を生きて来た魔女だとて少しは心に傷がつく。
瞬殺されたとはいえ、初恋のようなものだった。
「メグレン様、仕方ないのですわ。だってメグレン様は幾星霜の時を経ても、女性の心を虜にしてしまう程に雄々しく麗しい殿方なのですもの!」
まさかのお惚気娘に庇われて、キャスリーは思わず半眼になってしまう。
庇われたというか、むしろ踏み台にされてメグレンを賛美しているだけなのか……最早分からない。
呼応するようにメグレンも、腕の中のリリアヴェルの頬を優しく指で撫でた。
「確かに、そうだ。ヒューゲルトだけでなく全ての男達が、君の可愛らしさと気品を兼ね備えた輝くような美しさに一目で恋に落ちてしまうのは理解できる。けれど、君の魅力はそれだけじゃない。ヴェリー、最愛の君は素晴らしい知性を備えて、無垢な心も持ち合わせている最高の女性だ……誰もが虜になるだろう」
「まあ、メグレン様……わたくしが求めるのはメグレン様ただお一人だけ……」
「ああ、嬉しいよヴェリー」
何時も通りの二人である。
一日以上森を彷徨わされていた男と、男の為に寒風吹きすさぶ中夜道をひた走って来た女。
普通なら疲れて寝ているだろうし、文句ばかり出そうな状態なのに。
お互いへの愛の賛美でこれでもかというほど生き生きとしている。
普通は崇められたり怖がられたりと一目置かれる筈の魔女でさえも強制的に外野へと転職させられていた。
何あれ、というようにキャスリーが卓に着いたままの二人の魔女を見るが、二人は肩を竦めただけ。
つまりこう、見慣れた風景なのだ。
「ほんと、貴女馬鹿よね。あの二人に割って入ろうだなんて」
「ほんに物好きよな」
アディラがふうっとため息を吐けば、リーシアも応じるようにため息で返す。
確かに止められたけども。
もっとちゃんと止めてよぉぉ!(キャスリー)




