賭けの半分は勿論負けた
「で、でもまだ賭けは半分なのよ!?」
二人に向かって主張するが、引っこ抜こうとしてもリリアヴェルの鷲掴みは結構強い。
鷲よりもガッチリと掴んできている。
「あきらめよ」
まるで命じるかのように冷たくリーシアが言い。
「無理だと思うよ」
無邪気に感想を述べるかのように、アディラが頷く。
そこで、不思議そうにリリアヴェルが首をこてん、と傾げた。
「半分とは?」
「だって、まだメグレンは迷っているもの。そう簡単に抜け出せるはずは…」
抜け出せないように魔法をかけたのだから、と自信満々に言ってのけた次の瞬間、バァンッと音を立てて、扉が外れるのではないかという勢いで開いた。
「リリアヴェル!!」
そこに立っていたのは、見送った時のまま、礼装に防寒用の毛皮のついたマントを羽織ったメグレンその人であった。
パッと手を離すと、急いで立ち上がったリリアヴェルが一目散にメグレンの元へと駆けていく。
「メグレン様っ!」
ひしっと二人は抱き合った。
小さな身体で身を預けるようにメグレンの腕に飛び込んだリリアヴェルを、大きな体で包み込むようにメグレンが抱きとめる。
「ああ、会いたかった。ヴェリー……やはり君が来てくれたのか」
「はい。ご無事をこの目で確かめたくて、馳せ参じましたの。……ああ、良かった、メグレン様。わたくしの最愛の御方……どこにも怪我などございませんか……」
涙ながらに震えながら安否を確かめる姿に、メグレンは思わず頬に額に口づけを落とし、髪に顔を埋める。
「ああ、無事だ。……君が俺を呼ぶ声が聞こえた気がして、それにこの香り……菓子よりも甘く、花よりも芳しい、まるで春そのもののような、馥郁とした香りを頼りに辿り着いたのだ」
犬、とその場にいた女性陣は皆思った。
魔女達でさえも。
キャスリーは半眼でぼそっと呟いた。
「この子達は惚気ずに話が出来ないのかしら……」
「そのようだぞ」
紅茶を飲みながら、静かにリーシアも応える。
その返答を聞いた後で、アディラが楽しそうに断じた。
「まあ、賭けは完全に貴女の負けって事よ、キャスリー。代償はきちんと払ってもらいますからね」
「ああもう!分かってるわよ!リーシアの願いは!?」
「二人に、茨の魔女の祝福を与えよ」
むぎぎ…と悔しそうに見るキャスリーに、リリアヴェルを腕の中に閉じ込めたままのメグレンが静かに声を発した。
冷たい、と評される声と覇気。
「その前に、ご事情を伺おう。私は礼を尽くしてこの場に訪れた。その私を何故迷わせ、我が最愛のリリアヴェルまで巻き込まれたのか。返答次第では事を構えることも辞さぬ」
怒りに燃える静かな眼に、さすがの魔女達も顔を見合わせた。
「まずは謝罪をします。魔女同士の争いを避ける為に、賭けという方法をとり、貴方達を巻き込んでしまってごめんなさい」
帝国を庇護するアディラがちょこんと頭を下げるのを見て、メグレンは少しだけ息を吐いた。
腕の中のリリアヴェルは何時ものように目を閉じてぴったりと満足げに寄り添っている。
心地好い温もりに心が氷解しそうになり、メグレンは首をゆるく振った。
「そもそもの発端は何か、順を追って説明頂きたい」
「ええ、勿論」
アディラが手を指し示すと、二人で座れる長椅子が現れて、メグレンは腕の中のリリアヴェルを大切に抱きかかえるようにそこに腰かけた。
メグレンさえいれば大人しくなる暴走馬




