普通はもっとこう……と魔女は思った
「何なのよ、あの糞皇子。リリアヴェルの足止めなら任せろとか言ってた癖に!」
「どちらにしろ、この賭けはお前の負けだよ、キャスリー」
どんどんと床を踏み鳴らす赤毛の美女に、静かにリーシアが言う。
言いながらもぱちりと指を鳴らせば、丸い卓が二揃え部屋に現れた。
「お二人はそちらに座ってね。さあ、リリたん。冷えたでしょう、こちらに座って頂戴」
小さな魔女がリリアヴェルの背を押して、もう一つの卓へと誘導する。
え、え?と状況が飲み込めないまま、リリアヴェルは卓へと誘われた。
「メグレンは無事よ、大丈夫」
そっと小さな魔女に掛けられた言葉に、リリアヴェルは漸く安堵のため息を漏らした。
「そうですか、その言葉をお聞きしたかったのです……」
祈るように胸の前で手を組んで目をつぶるリリアヴェルを、リーシアは優しい目で見つめる。
「済まないな。本来なら人の子を巻き込む事は許されぬのだが、持ちかけたのもまた人の子故な。魔女同士が戦えばこの地に住まう者達にも累が及ぶ。ゆえに、我らは賭けをする事にしているのだ」
「賭け、でございますか」
不思議そうに問うリリアヴェルに、ぷんとむくれたキャスリーは横を向く。
仕方なさそうな風情でリーシアはため息を吐いた。
「この馬鹿が、私やアディラが無理だと止めたのに聞かずにな。二人の愛を試すのだと。もし邪魔を出来たのならそれは本物の愛ではないのだから良いだろうと無茶を通した」
「結果、無理だったわね。だから言ったのに」
アディラと呼ばれた小さな魔女がフフフと小さく満足そうに笑う。
キャスリーはバン、と卓に音を立てて手を置いた。
「だって、好みだったんだもの!子を生してもいいと思える程」
「分かります!だって、メグレン様は今世紀最高の殿方であらせられますもの!!」
まさかの、理解を示したのはリリアヴェルである。
メグレン語りには一家言どころか百家言くらいありそうなのがリリアヴェルだ。
キラキラした目で全力で頷かれて、キャスリーは少し身体を退いた。
「でも確か、魔女様は子を生すと定命になり、新たな子に魔力と寿命を受け継ぐと聞いております。つまり、命を懸けても良いほど、メグレン様を一目で気に入られたという事なのですね!?」
「う、うん、そ、そう」
置いていた手を勝手に両手で握られて、キャスリーはそれ以上退く事も出来ずに頷いた。
はっきり言ってそこまで愛に関して詰められる予定は無かったのだ。
まだ、何故メグレンの身を危険に晒した!と怒ったり泣いたりされると思っていたのに。
まさかの全肯定なのである。
「わたくし……間違っておりました」
「え?何が?」
神妙な顔で落ち込んだリリアヴェルを見て、キャスリーはちょっとだけ自分の賭けの勝率を見出したのだが、横に座っているリーシアとアディラはふっとそんなキャスリーの心の動きにため息を漏らした。
「今世紀最高と申し上げておりましたけれど、幾百年と永い時をお過ごしの魔女様の御心ですら射止めるのですもの、今世紀というのが間違いなのですわ。……ああ、何と表現したら良いのでしょう!」
「え?え……え、ああ、うん……」
魔女が見初めたから身を引くとか、そんな殊勝な答えが引き出せるかと一瞬思った自分が馬鹿だったわ……とキャスリーはリリアヴェルのキラキラ輝く目を見て答えに詰まった。
まさか、更にメグレンを賛美する言葉を探していたなんて思わなかったのだ。
しかもこんな色々と目まぐるしく状況が変わる中で、である。
普通はもっとこう……。
横にいる同輩を見ると、二人は生温い目でリリアヴェルに手を鷲掴まれているキャスリーを見ている。
普通の尺度が割と常識的範囲だったのだな、とキャスリーは自分に落胆するしかなかった。
二人には散々、リリアヴェルは規格外だと言われていたのだから。
メグレン賛美には定評のある暴走馬です




