ええ!お話は後程うかがいますわ!
国王はハルヴィア公の追及が怖かったので、早く部屋から出て行って欲しかった。
なのに、何故かリリアヴェルを巡って対立して……収まったのである。
自信に満ちた美丈夫のヒューゲルトに、表情が生温かい感じになったハルヴィア公とラウレンツ。
何だか異様な取り合わせなのだが、早く出て行って……などと国王も言えるはずもなく。
推移を見守っていると、それを打ち破る救いの女神が現れた。
そう、リリアヴェルである。
「お父様、準備は整いまして?」
部屋の外からかけられた声に、我先にと扉を開けたのはヒューゲルトだった。
「おお、ハルヴィア嬢。久しいな!」
暗い金の髪に情熱的な赤い瞳の、ヒューゲルト皇子の登場に一瞬驚いたリリアヴェルは大きな蜜色の瞳を見開いた。
けれども、すぐにゲルガン帝国流の淑女の挨拶をする。
左手を胸の前で立てて、拳を軽く握り、右腕は身体の横に沿わせてスカートの膨らみの上にくる位置で横に広げた。
そして膝を屈して、僅かに目を伏せる。
完璧な淑女の礼に、ヒューゲルトは目を細めて満足げに微笑んだ。
「美しい……」
「お久しぶりでございます、ヒューゲルト殿下。ですが、今は簡単なご挨拶のみとさせて頂きます。お父様、陛下への報告がお済みなら、すぐに出立いたします」
挨拶の口上は省き、リリアヴェルはヒューゲルトの背後のハルヴィア公に声をかけた。
歯牙にもかけぬ様子に、やっぱりな、という風情でハルヴィア公が頷いた。
「ああ、済んだ。後の事は任せなさい。気を付けて行っておいで」
「はい。ラウレンツ様はどうぞ、ここで連絡をお待ちくださいませ」
ハッとしたラウレンツは顔を上げる。
リリアヴェルを一人向かわせたら、メグレンに顔向け出来ないのだ。
「いいえ。私も参ります。連絡役は帝国の外交官に伝令を向かわせました。間もなくこちらに到着するでしょう」
「でしたら、急ぎ参りましょう」
自分を飛び越されて、頭の上で会話が行われて、ヒューゲルトは焦った。
メグレンの不在によって引き起こされる事が、想定とは大分違っているのだ。
「何を、そんなに急いでいるのだ」
「それは国家の秘事にてご容赦賜りたく」
優しく問いかけるが、毅然と答えたリリアヴェルは可憐ながらも堂々としている。
まさしく王の隣にいるべき后としての資質に、益々ヒューゲルトは惹きつけられた。
だが、メグレンを餌にして何とかリリアヴェルとメグレンを引き離す策謀が、このままでは崩れてしまう。
慌ててヒューゲルトは口にした。
「メグレンの事で話があるのだが」
明らかに今回の件に関わってます、という自白にも聞こえるそれ。
だが、食いついたのはハルヴィア公とラウレンツで、一番食いついてほしかった暴走馬は脇目を振らなかった。
「そうですか。それは戻り次第伺いましょう。今は一秒を争う事態なのですわ!御前失礼いたします」
今はそんな、メグレン語りをしている暇はないのである。
ご本尊が行方不明なのだから。
無事を確認してからなら、いくらでもメグレン様の素晴らしさを語り合いましょう!
などと、リリアヴェルはまた予想外の方向へ飛び、力強く頷いて踵を返したのである。
片やヒューゲルトも、さすがにメグレン失踪に関してだ!などと踏み込める筈もなかった。
二人きりなら別だが、此処には皇太子の側近のラウレンツと王国の筆頭公爵家のハルヴィア公がいるのだ。
誤魔化しようのない言葉は口に出来ない。
国際問題になってしまうのだ。
本当ならメグレンを失いそうになって泣きぬれたリリアヴェルに取引を持ちかける心算だった。
メグレンを無事に返す代わりに、自分の花嫁になるように、と。
完全にリリアヴェルを見誤っていた作戦は見事に瓦解したのである。
今それどころじゃないんですよ!
(皆さんの感想の無理コールに爆笑ひよこ)




