お兄様…この世の終わりですわ!
年の終わりで始まりとされる、冬の祝祭が近づいていた。
その日は王国も帝国も祝賀会が行われる。
リンドワース王国では、のんびりとしたもので、社交期間が終わって領地に戻った者達は領地で家族や領民と過ごして良い事になっていた。
王都に近い領地の者は祝賀会へと王都へ戻り、領地を持たない貴族達、王城に仕えている人々は領地へは帰らずそのまま王都に留まっている。
片やアキュラム帝国では、領地から帝都へと挨拶に訪れるのは必須とされていた。
どんなに遠い領地であろうと、かならず家門から一人は参加を義務付けられている。
領主でなくても良いが、次期後継者や領地代行人などとその婚約者や夫人でないとならない。
遠方の領地であれば、社交期間を領主の血縁者が代理として治め、代わりに年の瀬には帝都へと旅行や交流を兼ねて戻るのが定番となっていた。
その祝賀の日が迫る中、リリアヴェルは浮き沈みを繰り返していた。
学園は休暇に入ったとはいえ、リリアヴェルには学ぶことがまだまだあるのだが、その家庭教師をメグレンが引き受けることになり、側近である文官も帝都から呼び寄せている。
「流石メグレン皇太子殿下がお選びになった方ですね。政務については問題ないかと思われます」
急遽呼び寄せられた側近ラウレンツ・アルタウスは、ほう、とため息を零した。
手元には政務に使う書類が束ねられてあり、流麗な帝国語で全てがきちんと書き入れられている。
最初から全てを任せる訳にはいかないと思っていたが、とラウレンツは感心したように若葉色の目を和ませた。
「そうだろう。ヴェリーは優秀過ぎるくらい優秀だ。だが、そこまで必死に仕事をしなくても良い。私がその分仕事を請け負うからな」
「まあ、そんな……わたくし、メグレン様のお役に立ちとうございますわ。……ほんの微力かもしれませんけれど、二人でお茶を楽しめる時間くらいは作れるかと存じますの」
甘えるように仕事をさせろとせがむ婚約者がいるなどと、誰が想像しただろうか。
ラウレンツはぱちくりと目をしばたたかせた。
返事をするメグレンも見た事が無い位に、甘い微笑みを浮かべている。
「ああ、それは抗えない魅力だな。ヴェリーと二人で過ごす時間の為に、私も少しでも早く仕事を終えないと」
「はい、メグレン様」
うっとりと見上げるリリアヴェルもまた、蕩けそうな微笑みを浮かべて。
完全に外野となったラウレンツは帰宅して様子を見に来たカインと言葉を交わした。
「何時もこんな感じか?」
「ああ。誰が居ようとお構いなしだ。しかし、久しぶりだな、息災だったか」
「まあ、程々にな。結局、公爵位は弟に譲ることにしたよ。何せ皇太子殿下が人使いが荒すぎるからな」
見知った仲の近況報告を他所に、リリアヴェルとメグレンは何時も通り手を取り合い寄り添っている。
別れの時間を惜しむように。
カインはこれから訪れる阿鼻叫喚の地獄に、はぁぁと長いため息を吐いた。
そしてカインが危惧した通り、笑顔でメグレンを見送った後のリリアヴェルは身も世もなく泣き崩れている。
「明日も会えるのだから、泣き止むんだ、リリ。顔が腫れ上がってもいいのかい?」
冬の祝賀の儀に向けて、会えない日々が訪れると知ってからというもの毎日繰り返し言っているのだが。
リリアヴェルは大粒の涙をぽろぽろと大きな瞳から溢れさせる。
「だって、お兄様、メグレン様とお会い出来なくなるなんてこの世の終わりですわ……!」
「勝手に世界を終わらせるんじゃない。数日だけだ、数日」
「この世界でなくても、わたくしの世界の終焉なのですうぅ」
「終焉を迎えたら会えなくなるけど、いいのかい?」
はた、とリリアヴェルは一瞬泣くのをやめて、ブンブンと首を激しく左右に振った。
「嫌ですわ!!でも……」
何か言おうとする前に、カインはここぞとばかりに説得に入った。
この機を逃したらまた大号泣が始まるかもしれない。
このあたりから2巻の内容に入っていきます。
今1巻改稿中というか、加筆中です!イチャラブ追加っ!




