勝手に人形を売り出さないでくれないか…?
カインは気を取り直して問いかけた。
「だが、今までは売られる様な事は無かった筈だ」
「はい。こちらが売り出されたのは、帝国支店でして」
「帝国支店……」
報告は受けていた。
公爵家の方で、きちんと小人形製作の事業も管理していたし、帝国から打診があって事業展開する事になったというのも知っている。
だが、本人達の希望により皇太子メグレンと、婚約者リリアヴェルの小人形は作成しないと決めていた。
盲点だったか……!
思わず、カインは頭を抱える羽目になった。
「帝国では昨今、皇太子妃を目指していたご令嬢達も続々と帝国貴族や他国の貴族との婚約を整えておりますが、まだ……」
「いや、それ以上言うな、分かった……」
王国でも帝国でも人気の高い公爵令息であるカインは、皇太子妃の兄という看板まで背負ってしまったのである。
鴨が葱を背負っているだけでなく、鍋まで背負って薪を手に持っている状態だ。
メグレンという存在が結婚相手から消去されただけで、その重荷は全てカインが一身に集める結果となっていた。
ずっと、持ち込まれる縁談が絶えたことは無い。
だが、ヨシュアの尻拭いや可愛い妹のリリアヴェルを支える事で、手一杯な生活を送り続けて来た。
もうすぐそれも終わるというのに。
思えば誰かに恋をした事もなければ、結婚相手を探そうと思った事もなかった人生だったと振り返る。
寂しい、などとは思わない。
何しろ恋したら何か大変な事になるぞ、という見本が目の前にいるのだから。
どちらかといえば、ああはなりたくないな、などと思っている。
それでも、友人と妹がこの上なく幸せそうな姿に、祝福する気持ちが溢れていた。
泣いたり、傷ついたり、苦労させられるだけの生活を妹が送らずに済んだのは何よりの収穫だ。
時々、本当にお兄様を何だと思っているのか?と問いかけたくなる事もあるけれど。
そんな心の余裕が出来たのも幸せになったからこそだ。
そのうち、がもうすぐ、になっただけの話で。
リリアヴェルとメグレンが正式に結婚すれば、カインの結婚もすぐにと父親が話を決めるだろう。
それまでの辛抱だ。
目を閉じて、カインは唸った。
リリアヴェルが新しい事を始めると、大変な影響が巻き起こる。
手芸ならいいか、と放置したあの時の自分を呪いたくもなるというものだ。
レミシアたん人形が売り出された時に、いいじゃないかと宥めた自分も殴りたい。
しかも彼女の場合は、忌々しい相手と一式扱いで売り出されるのだからそれ以上の屈辱だろう。
レミシアに用意された王太子妃の為の執務室は、今や働く人々で溢れている。
訪れた時に見かけたが、壁には大きな釘でヨシュア王子の小人形の額が打ち付けられていた。
訪問者達は皆、一瞬それを見る者がいても、気にする者はいない。
ヨシュアに困らされた人々は、多分、同じ事を心の中でしている。
カインも、何度かヨシュアの小人形にハンマーを振るった。
未だに全ての権利を剥奪出来ていないから、妙な横槍を入れたり部下達の功績を横取りしようとしては、レミシアの怒りを買っている。
その度に王子の小人形に刺さる釘の数は増えて行くのだろう。
あんな使われ方はしたくないな、という標本である。
お兄様なら宜しいのでは……?とリリアヴェルは思うだろうけど、忙しいので許可したのは多分レミシアですね。ヨシュアと売り出された恨み……!




