皆様に、お届け致しますわ!
婚約披露の祝宴が終わったその日の夜、リリアヴェルは熱心に目録作りに取り掛かっていたのである。
「もうお休みになられては…」
と侍女達が何とか寝かしつけようとするのだが、眉を下げて懇願してくる始末である。
「どうしても皆様に美味しいお菓子を召し上がって頂きたいのですもの」
大きな蜂蜜色の目を潤ませて言われれば、それ以上は言えなくなってしまった。
仕方ないからと暖炉には火を絶やさず、温かい飲み物も与えて、侍女達は甲斐甲斐しくリリアヴェルの世話を焼く。
「アニエス、エメ、宮廷画家の方に、お菓子の絵を描いて頂くのは可能かしら?」
「可能、かとは存じますけれど、お配りする人数分清書するのは難しいかと」
二人は顔を見合わせてから、エメが申し訳なさそうに答える。
リリアヴェルはふむふむ、と頷いた。
「印刷の魔道具はお城にはありませんのね?」
確認すると、アニエスがハッと顔を上げる。
「帝国新聞の新聞社にならございます」
「そこに印刷を依頼する事は可能でして?」
「はい。可能かと存じます」
帝国新聞社は言わば、国営企業である。
王城の敷地内にあり、醜聞や噂の類ではなく、事件報道や例えば今回の婚約披露などの重大発表や、高位貴族の婚約や婚姻に関してなど、布告に至らない情報なども伝える。
政府専用の広報紙であった。
上層部は国の役人であり、文官達も多く働いているが、平民の記者などもいるという。
「お菓子の絵に関しましては、色などは塗らなくて良いの。素描を書いて貰って、わたくしが更にその上に説明を書き入れますから、一人の画家だけでなく、ある程度の腕があれば、弟子の方でも構いません」
「は。朝一番に遣いをやります」
「お嬢様、ではこの箱に全種類お菓子をご用意いたしますね」
万事心得ている侍女が言い、手早く他の侍女が一種類ずつ箱にお菓子を詰め始めた。
「さ、もう御用はおすみでしょう。早くお眠りあそばして」
追い立てられるように寝台に向かい、リリアヴェルはハッとして眉を下げて謝罪した。
「皆様まで付き合わせて御免なさい。おやすみなさい」
最後はふわりと微笑んで挨拶すると、リリアヴェルは布団へと潜り込む。
侍女達はそんな可愛らしい主人に静かにお辞儀してから、自分達の部屋に引き揚げた。
寝台の一番近くには、用意した椅子にエメが腰かけ、窓の傍と入り口に二人ずつ女性の騎士達が立つ。
扉の外と窓の下には更に多くの騎士達が、寝ずの番をするのだ。
翌朝、リリアヴェルが朝食を済ます頃には、菓子の絵が届けられた。
それを切り貼りして、味や食感などの注釈を書き加えて、リリアヴェルはピカピカ艶々の笑顔を浮かべたのである。
出来上がった原稿を新聞社に届けさせて、印刷を依頼した。
後は、全てのご令嬢宛てに一斉送付するだけなのである。
慣れない土地に来て、婚約披露という華々しくも緊張するであろう祝宴を熟し、疲れてぐっすり寝ただろうと思われているリリアヴェルは、勝手に激務を熟していた。
「せっかくですから、皇后陛下にも一式、お渡しいたしましょう。それから、お城勤めの女性達も中々に高給取りですものね。皆様にもお配りしたいわ!」
笑顔で言い出したリリアヴェルに、アニエスも笑顔で頷いた。
厳しい顔と声と性格をしていても、護衛として優秀でも、アニエスは女性である。
女性とはお菓子が大好きな生き物なのだ。
当然ながら、お菓子と言っても甘い物ばかりではない。
きちんと、甘さ控えめな菓子や塩気のある菓子も網羅してあるので心配無用なのである。
各方面にばらまいたそれが、王都の菓子店に嬉しい悲鳴を上げさせるのは、もう少し先の事。
勝手に激務を作って働く系女子




