メグレンとリリアヴェルの対立(美術館戦争)
執務室の三人の会話から時を遡ること数日、メグレンとリリアヴェルの婚約一か月記念が二人の間で密やかに行われた。
その日、満を持してメグレンの彫像が届けられたのである。
予め決めてあったリリアヴェルの部屋の置き場所に、従僕達が運び込んで備え付け、白い布で覆った。
リリアヴェルが学園から帰る前に訪問したメグレンは庭へと案内され、リリアヴェルが帰宅すると二人だけの茶会が始まる。
「お帰りヴェリー」
「ただいま戻りました、メグレン様!」
今日も今日とてリリアヴェルはメグレンを目の前にすると、蕩けるようにふにゃっと笑う。
メグレンはその笑顔を見るのが好きだった。
「学園では変わりないか?」
「ええ、今日も楽しく過ごす事が出来ましたわ。あと、贈物はまだ拝見しておりませんが、お部屋にございましたので、わたくしからの贈物もお部屋で渡そうと存じまして」
「じゃあ、日が傾いてきたら君の部屋にお邪魔するよ」
そして、訪れた部屋の中を見て、軽くメグレンは眩暈に襲われた。
地獄かな……?
壁一面に天井高くまで飾られた、メグレンの肖像画達は、おい、何時俺がそんな体勢をした!?という物だとか、これは……俺なのか……?と首を傾げたくなるような物まで沢山ある。
「あの……肖像画とは仕上げるまで数か月かかるものだと思うが、この量は……」
呆然と見回すメグレンに、リリアヴェルはうふふ、と嬉しそうに笑った。
「どうしても、すぐ欲しかったので、画家の方の伝手で他の画家やまだ売り出していない方、弟子に至るまで、とりあえず描かせてみましたの!やはり、評判の高い方の絵は違いますわね!でも、無名の方の中にも中々良い作風の方もおられまして、気に入りました方にまたお仕事を依頼する心算でございますの」
うん?これ以上増やすのか?
「もう、十分ある様に見えるが……」
「いいえ、まだまだです!これからですわ!」
やる気を漲らせているリリアヴェルを前に、この肖像画の大量制作を止めさせる方法を暫しメグレンは考えた。
結婚すれば、一緒に暮らすのだ。
ふむ、とメグレンは一つ頷いて話し出す。
「自分の肖像画が沢山ある場所というのは、居心地が悪いからね……結婚したら常に共にいる状態になるのだから、そんなに肖像画はいらないのではないだろうか?」
「畏まりました……確かに、メグレン様のお気持ちを考えておりませんでした……申し訳ございません……」
眉根を下げてしょんぼりしながら涙を大きな目に湛えるリリアヴェルを見れば、メグレンの胸もズキズキと痛んだ。
すぐにも、好きなだけ描かせて構わん!と言いたくなってしまった。
だが、リリアヴェルはその辺の一般の方とはちょっと違う。
「このお部屋は永久保存版として、此処に残しておくと致しまして、結婚生活が始まりましたら、肖像画の制作は暫し控えさせていただきますね!」
永久に保存するのか?
え?暫し、ってどういう事だ?
再開するのか?
メグレンは目を瞠ってどれを訊こうかと口をきゅっと引き結んだ。
そんなメグレンをうっとりと見上げつつリリアヴェルが答えた。
いつも通り、破壊力のある答えで。
「新生活が始まったら色々と決めごともございますし、新しい環境になりますと、お部屋の飾り方も変わりますから、それを確かめてから再開しようと思いますの。メグレン様の居心地を悪くしない為にも、専用の美術館を建設させて頂きますわ!」
「待ってくれ。そんな予算は下りないぞ?」
明らかに無駄遣いであるし、メグレンにとっては耐えがたいものがある。
だが、リリアヴェルは大きく頷く。
「勿論でございます!わたくし、長年の労働やその他の功績も加味されて、王家から莫大な慰謝料を頂きましたでしょう?そちらを費用に充てさせて頂きますわっ!」
ヨシュア王子ィィ!お前のせいか!!
心の中でメグレンはヨシュアの顎を下から殴り上げ、ヨシュアが宙に舞った。
「それは、追々考えよう、リリアヴェル。とりあえず、落ち着こう」
「はい。メグレン様。まずは順番に、ですわね?」
計画そのものを頓挫させたいメグレンと、一歩一歩確実に達成に近づけていくリリアヴェルの攻防が、今始まったのである。
対立といってもアホな対立ですみません。だって飾り切れないんですもの。
これからも色々増えていくんでしょうね。




