妹よ、……いや、何も言うまい。
「それでねそれでね、お兄様、レミシアお義姉様はとても格好良かったのです!」
「うんうん。各方面からも噂は聞いているよ。彼女が学んだ成果が、こうも早く皆に伝わるとは、僥倖だったよ」
身振り手振りを使っての、食堂での一件を聴くカインは微笑みながら紅茶を飲んだ。
子供の様な言葉遣いに戻ってはしゃいでいるリリアヴェルは可愛い。
相当レミシアに心を寄せているようだ。
だが、それはリリアヴェルに限った話ではない。
事件当日から、側近達から安心の声が届けられたのである。
目論見通りの展開に、本当は王子、お前全部分かっててやってんの?剣の下に飛び込んだのと同じ要領で?と聞きたくはなるのだが、だとしても決闘の違反は違反である。
手痛いしっぺ返しをレミシアとリリアヴェルから受けたとしても、許される事ではない。
誰が入れ知恵したのかは、今調べさせているところだ。
残念ながら、尻の毛まで毟る様に様々な物を奪われた国王は、皇后が恐ろし過ぎて大人しい。
皇后が帰国した後で、今まで済まなかったと公爵でもある父に密室ではあるが、頭を下げたという。
父の返答は、冷たいものだった。
「今更謝罪されたところで、賠償金は減らしませんよ」
国王陛下の返事はそんな…という事だったので、あながち父の読みは間違っていなかったらしい。
今まで軽食に食べていた牛の干し肉は、貝ひもに格下げされた。
煙草や酒は他国からの来賓を招いた時の社交の場のみと限定されている。
渋々とはいえ、国の頂点である国王が従っているのに、王子が簡単に約束を破るのは頂けない。
全て調べてから罰を下すとしよう、とカインは冷たい笑みを浮かべた。
そして、その笑顔が凍り付く。
カインと向かい合わせにリリアヴェルが座っているのだが、その間にある椅子にちょこん、と何か載っていて。
嫌な予感を覚えながら身体を傾けて良く見れば。
小さな人形がいた。
その人形は、勿論……。
「あ、こちらは小さなメグレン様でございます!うふふ!」
「……うん」
カインは姿勢を元に戻して頷いた。
これがあの時計画してたアレかぁ……。
以前は部屋中にある肖像画に驚かされたが、今度は人形である。
目の前のリリアヴェルは満足げに説明を始めた。
「この様に中身に綿を詰めた人形を、縫いぐるみと市井では言うらしいですわ。大きさ違いでこれからも作ろうと考えておりますの!一番小さな子は学園にも同伴して頂く予定ですわ」
「そ、そう」
愛し愛される正当な婚約者の人形、もとい縫いぐるみを持つ事は何らおかしな事ではない。
ちょっと行き過ぎてはいるが、他人に迷惑をかけることではないので、そんなリリアヴェルの行いでカインが何とも恥ずかしい気持ちになるだけだ。
直接的な被害はないので、止めるように言う事も出来なかった。
言う権利があるとしたら、メグレンだけだろう。
「メグレンのお茶会にも同席しているのかい?」
「いいえ!本人が目の前にいるのでしたら、生メグレン様に集中したいので!」
なま、って。
確かにナマモノだけれども。
つまりはご対面する事は無いという事か。
本人から注意させるという手は使えなくなったのである。
だが、メグレン自体が既にリリアヴェルに甘いので、にこにこ無邪気に微笑まれれば注意出来ないかもしれない。
何せメグレンさえも、同じような事をしているのだから。
先日執務室へ訪れていたメグレンの元へ行くと、窓辺に佇んで本か何かを読んでいるのか?と近づけば。
手の中にリリアヴェルの絵姿の入ったネックレスを、メグレンも持っていたのである。
確かに、俺も欲しいな、とは言っていた。
言っていたが、本当にやるとは思わなかったのだ。
二人が幸せならいいか、とカインは考える事を放棄した。
この縫いぐるみを放置した事で、全く違う方向から攻撃を受ける事をカインは予測していなかったのである。
ちびぬい登場です!!!あれです!!!




