お兄様、お義姉様が素晴らしいですわ!
味方が来た、とばかりにヨシュアが微笑んでレミシアを見る。
「ねぇ、ヨシュア。貴方の言う事を鵜呑みにしたらさ、王族で他国に嫁ぐ人はどうなるの?全員死ぬの?」
直球をぶっこまれて、流石にヨシュアの顔が間抜けにも口をぱかりと開いた。
油断していた分、痛手を負ったのである。
「そ、それは……」
「妃教育と比べ物にならないくらいの秘事を学ぶよね?なのに何故咎められもせず、他国に嫁するの?言ってみなさいよ」
「それは両国の友好や結びつきの為だ……」
「でしょう?リリアヴェルの結婚と何が違うのよ。二人は偶々お互いに愛し合っているけれど、普通他国に嫁ぐって事は背信でも何でもないでしょ。だいたい戦争もここ何十年起こっていないのに、他国を仮想敵国にする時点で間違ってるのよ。
リリも言ったでしょう。大事なのは民。貴方みたいに軽々しく敵視するような事を言えば、国際問題よ、普通に。他国を馬鹿にしてんの?はーあ、ここが祝宴とか公の場じゃなくて良かったわ」
庇って貰ったリリアヴェルはレミシアの言い分にも感心したが、一番驚いたのはその肺活量だ。
さすがのヨシュア王子もたじたじと後ろに少し下がったのである。
「で?大事な知識があるから外に出せないって?馬鹿なの?そんなの妃教育で真っ先に習うわよ。言っていい事と悪い事の区別がつかない女が妃になれるわけないでしょ。他国だってそうよ。自分の所に嫁してきた国の代表たる令嬢を拷問にでもかけて聞き出すの?それとも色恋かしら?そんな事をして攻め込んだとしたらそれだって国際問題よ。大体知られたら不味い情報を何時までも変えないでそのままにしておく方が無能なの。警備だって兵の配置だって、今現在取り仕切る人々で調整するものでしょう?ねえ?皇妹であらせられるオーギュスティーヌ様が王国に嫁がれた時に、王家が一度でも帝国の情報を訊いたの?」
「いや、そんな事は聞いた事がない。失礼にあたるだろう」
そりゃそうだ。
でも、王子の言った事はそういう事なのである。
生徒達の目が、思わず呆れを含んだものになった。
「だからぁ、その失礼な事を他国がやるって決めつけて発言するって一体何なの?帝国から来た人に一度でも、オーギュスティーヌ様から情報を聞き出す王国民とか、帝国に背いたオーギュスティーヌ様なんて罵倒を聞いた事がある?あったら、言った奴の正気を疑うけどね」
「……………はは、厳しいなぁレミシアは」
「笑って誤魔化すんじゃないわよ。貴方は今危険分子であり、不穏分子でもあるのよ。いい?さっき国も民も一緒だとか言ってたけど、民一人が戦を望んだとしても何も起きない可能性が高いけど、王が望んだら戦になる確率が高くなるのよ。何かある度に敵だとか戦だとか言ってたら、それこそ戦乱の世に逆戻りよ。何のために先人達の教訓や歴史があると思ってんの。不毛な争いをしないためじゃないの?結婚は!その争いを止める方法の一つなのよ。大事な国策でもあるの。大体ねぇ、そうでなければ国王陛下が署名する訳ないじゃない。貴方は危険で不穏なだけじゃなく、国王陛下と皇帝陛下、両陛下の裁可を軽んじたのよ」
「お、お義姉様、素晴らしいですわ!!!」
リリアヴェルは空気を読んで肺活量の事は心に仕舞っておいた。
人気者のリリアヴェルが拍手をしたからではなく、尊敬の眼差しを向けてその場に居た者はレミシアに対し、一斉に拍手を送ったのである。
更にリリアヴェルは、美しい所作で淑女の礼を執った。
「誠に王妃に相応しい心根を拝見致しました。わたくしは妹として、義理ではなく本当の妹として、お姉様を尊敬申し上げます!」
「リリ……ありがとう」
駆け寄ったリリアヴェルと抱き止めるレミシアを見て、皆が歓声を上げた。
取り残された王子は、自慢げな笑みを浮かべて後ろでぽつんと立っている。
何故なら彼にとって未来の配偶者が得た評価は、自分の評価だからだ。
今まで王子に直球で指摘出来る人がいなかったので、王子は直球に弱いです。
レミシアからすれば王子と結婚するメリットは愛以外無かったのですが、枯れつつあり。
でも自分のやった事の責任を取るために、茨の道を行く覚悟ですね。




