レミシアの覚悟(カインとレミシア)
どうやらメグレンとリリアヴェルの二人は婚約の成立した日から一か月後、贈り物を贈り合う事にしたらしい。
また暫くリリアヴェルから目を離しても大丈夫だろう、とカインもため息を吐く。
最近、王子の側近に取り立てられた令息から相談が持ち込まれて、その対応にカインも駆り出されていた。
令息から相談された親である貴族達の対応は、宰相とハルヴィア公爵がしている。
彼らが不安や不満を持つのも無理からぬ事ではあった。
継承順位が低くとも、ヨシュアよりもマシな人間がいれば別だったのだが、今はいない。
古くからある公爵家や侯爵家の中には、王族の血が入っている者もいる。
だが、さすがに直系の王子を差し置いて据える事は簡単に出来るものでもないのだ。
中にはカインに、というとんでもない願いもあったが、残念ながら叛意がある訳ではない。
現在の国王も、ヨシュア王子も、人の上に立つ者として問題はある。
ありすぎるくらいあるが、国を乱してまで粛清するほどかと言われれば、踏み切れる貴族の方が少ないだろう。
リリアヴェルが囚われて泣いているなら話は別だが、すでに解放された。
それに、今は一筋の希望と呼べるものがあった。
レミシアだ。
彼女の成績は学園では揮わなかった。
だが、それらは全て勉強というものに向き合う時間や姿勢を知らなかったに過ぎない。
リリアヴェルが熱心に教えていた事を横目で見ていたが、最初はその優しさも無駄になるのではないかとカインも思っていた。
だが、彼女は夜遅くまで寝る間も惜しみ、努力し続けていたのである。
使用人達も、レミシアとリリアヴェルとの交流も見て、彼女の努力も本物だと太鼓判を押す。
更に作法を教えていた母親も、呑み込みが早い、と褒めていたのだ。
とはいえ、レミシア一人に押し付ける訳ではないが、一番ヨシュアの面倒を看る負担が大きいのは王妃となる彼女だ。
だから、カインはその覚悟を確認した。
「私は妹をあの男から遠ざけた訳だけど、君は逃げる気はないのか?」
「はい。逃げるのは性に合わないのでございますわ、お義兄様。あの馬鹿を見下ろすには、わたくしがその頂きに登らなければなりません。少なからずリリに嫌な思いをさせたわたくしへの罰でもございますし、今更あれを野放しにして他の方に迷惑を押し付けるのは許されないと存じます。ハルヴィア公爵家の皆様が助けて下さるのですから、わたくしは相当恵まれておりますわ」
勝気な瞳を見て、カインは破顔する。
リリアヴェルの動物的な直感は正しかったのかもしれない。
それともあの子の優しさが彼女を後押ししたのか、生来の勝気さ故か。
どちらにしても、王妃が優秀ならば、愚鈍な王を押さえておけるだろう。
「君も大事な義妹だ。支えていくと誓うよ」
「頼りにしておりますわ、お義兄様」
以来、カインは出来るだけ分かり易く、レミシアに政治や外交について教え始めた。
外国語も全てではなく、最低限聞き取れて返せれば良い日常会話に絞って教える。
不安に苛まれていた側近達とレミシアを改めて引き合わせて、共に執務を行わせれば彼らも段々と落ち着いた。
令息達の評価が親に伝わり、貴族達にも広まっていく。
同じようにリリアヴェルも、城の使用人達にお菓子を届けつつ、レミシアについての弁明や応援をした事で、急速にレミシアへの評価が高まっていったのである。
ちょこっと描写はしてましたが、レミシアは王子から逃げずに、弱りながらも勉強していたんですよね。だから、努力家(というよりは負けず嫌い?)でもあるし、あの王子に添い遂げる事が自分への罰だとも理解してます。リリアヴェルには罪悪感を持ってほしくないのでレミシアは言いませんが。
あと、勉強していく内に気づいたんですよ。あの馬鹿に主導権握らせたら国がヤバイ、と。
この先ヨシュアと添い遂げる形ではありますが、「ヨシュアと幸せ」にはなりません。
でもレミシアなりの幸せは見つけます。




