負けた気がしない(王子視点)
放課後の生徒会室にて、側近達は生徒会の仕事をしながら時折ふう、とため息を吐きながら外を物憂げに見る顔だけは良い王子を見守っていた。
いや、仕事は出来ない事も無いのだが、普通である。
顔だけ見れば、物凄く仕事が出来て完璧超人に見えるのに、平凡。
だが、良いものが出来上がれば何であれ自分だけの手柄にして、それを普通だと思っている性格の悪い男である。
かつては、生徒会に属してもいないリリアヴェルに、細かい雑事をやらせていた。
その優秀で可愛らしい婚約者に逃げられてから、浮気相手のレミシアに無理を言って生徒会の仕事までやらせていたのだが、そちらには最近はっきりと断られて、今や王子の代わりに仕事をする人間はいない。
側近として脇を固めてはいるが、将来こんな王子の下で働くのに正直不安もある。
リリアヴェルの新しい婚約者である皇太子と決闘をする事になって、学園のほぼ全生徒、全教員が見守る中で王子は大敗を喫したのだ。
落ち込むのも無理はないか……。
暫くは仕事が鈍いのも見守るしかないかもな……。
役員兼側近達はこっそりとそんな風に話していたのだが、誰もヨシュア王子にその話は振らない。
そこへ、秋の収穫祭を模した学園での秋祭の用意にのみ割り振られる役職、実行委員の生徒が訪れた。
「じゃあ、これ、よろしくお願いしますね。……あれ、王子殿下未だ落ち込んでるんですか?」
箱入りの道具やらを役員に渡しつつ、声をかけてくるのだが、地声がでかい。
他の者に話しかけていたのだが、ヨシュア王子にもはっきりとその問いかけは届いてしまった。
どうするのか、と見守っていると、ヨシュア王子は微笑んだのである。
「いや、大丈夫だ。落ち込んではいないよ」
何だそうなのか、と安心する気持ちの後に、続いてヨシュアがとんでもない事を言い出した。
「正直、負けた気がしないな」
フッと爽やかに笑った顔は、確かに格好いいのだが、全員が同じように心の中で突っ込んだ。
いや、あんた負けたよ、完全に。
だが、地声の大きい実行委員は言った。
「あー、確かに?速攻で倒れてましたもんね!はっはっは」
それ言っていいの?と止めるべきかどうか悩んだ令息達がうろたえつつ目を交わし合っていると、王子はキメ体勢なのか、額に指先を当てて言う。
「うむ。読み合いに負けてしまったのは確かだろうが、次はもっと良い勝負が出来るだろう」
あんだけ派手に負けといて、再戦、だと!?
思わず役員達の中にはヒッと情けない声を上げる者さえ、いた。
こいつ国を左右するやべー決断も、こういう軽々しさと無謀な予測でするんじゃねーかという恐怖。
謎の自信と、自己評価の高さ。
お前は起き上がり小法師か。
「え、じゃあ再戦するんですか?」
空気を態と読んでいないのか読めないのか、実行委員は問いかけた。
が、ヨシュア王子はにっこり微笑んだ。
「いや、止めておくよ。怪我をしてもされても遺恨が残ってしまうからね」
言わせて貰えるなら、十中八九、怪我をするのはヨシュア王子の方であってメグレン皇太子にはかすり傷を負わせることも出来ないだろう。
しかし、この会話をあの試合を見た者達を前に堂々と出来るのは、胆力がある。
あるが、頭はおかしい。
それでもこの国には王子と呼べる存在はこいつしかいないのだ。
もう無理、側近辞めたい。
きっとそう言って泣き出す人間もいるだろう。
ヨシュアの言い分だけを耳にすれば、本当にそうなのかな?などと思ってしまう人はいる筈で。
それが若いご令嬢なら、確率はもっと高くなる。
現状を見てしまった人々の間で噂はもう広がっているが、改めて身の振り方を考えたいな、と思う側近達であった。
教育係、何やってんだ!というご意見、その通りなんですが、多分貴族の教育係だから駄目だったんだと思います。王子相手に、貴族特有の遠回しな指摘、迂遠な会話などでは伝わらず。全部自分の都合の良い方に解釈する王子なので教育をするのが難しい。
バレンタインチョコ届きましたワーイ!メリーチョコレートのニョロニョログッズめちゃくちゃ可愛いです。




