うちの妹が大変申し訳ありませんでした
「まーた勝手に暴走して勝手な事をして」
「先走りましたことは謝罪致しますが、暴走では決してございません!色々と利点もございますもの!」
開口一番カインにお叱りを受けたリリアヴェルだが、ふんすと胸を反らした。
リリアヴェルはこうと決めたら梃子でも動かない頑固さがある。
「あら、でも妙案じゃなくて?王家に恩も売れるし、教育には我が家も口を出せるじゃないの」
母が笑顔を向ければ、父の公爵も頷く。
「それに、義理とはいえ外戚の立場を得られるし、リリは国民の感情を守りたいのだろう」
「はい。国民やお城に従事される方もそうですが、一番はレミシア様でございます。わたくしは彼女が居てくれたからこそ、メグレン様という最高の殿方に、望まれて嫁ぐことが出来るのですから、わたくしにとってお義姉様以上に女神様としても祀るべきお相手ですわっ!」
「多分彼女は望んでないからやめたげて」
カインの言う通り、それだけは止めてと本人に固辞されたので、リリアヴェルは振り上げた拳を下ろした。
「良く分かりましたわね、お兄様。確かに止めてといわれたので、それは自重いたしますわ」
渋々という体で言うリリアヴェルを見ながら、カインは遠くにいるレミシアに心の中で謝罪した。
うちの妹が迷惑をかけてすみません。
二人のやり取りを見ていた公爵は大きく頷いた。
「確かにそうだ。長年我が家に齎された不幸を払拭してくれたと考えるのならば、大事にしなくてはならぬな。まだ王子妃教育を終えても居ない令嬢に仕事を押し付けるヨシュア王子にも、少しは苦労して頂かねば」
「という事は、彼女を我が家に引き取るという事ですね?」
「うむ。明日にでも子爵に話を通して、国王にも意向を伝えよう」
カインにとっては当初、馬鹿王子と一緒に妹を不幸に追い込んだ令嬢でしかなかった。
王子の糞さ加減を知って使い潰されろ、くらいに思っていたと思う。
だが、リリアヴェルの言う事は一理ある。
相変わらずお人好しな、と思わないでもないが、リリアヴェルの美点だ。
実際に、レミシアが望む望まないに関わらず、窮地を救われたのは事実である。
リリアヴェルがメグレンに夢中になり、同じ温度でメグレンもリリアヴェルを愛してくれていた。
泣く事も悩む事もなく、無理を強いられる事もなく、手柄だけ持って行かれる事もない。
そう考えるとヨシュアに憎悪が滾るが、まあいい、過ぎた事だ、とカインは怒りを落ち着けた。
今後はその恩を返すべく、守らなければいけない義妹となるのである。
翌日さっそく動いた公爵によってトントン拍子に事が運び、レミシアは一旦実家へと戻された。
三日後には正式に養女としてハルヴィア家に引き取られる事となる。
「突然、困るよ、レミシア」
学園で食事を共にしていたヨシュアに言われて、レミシアは首を傾げた。
「何が?」
「何が、って。君にも執務の手伝いをして貰わないと」
「でもそれって、婚約者がいなければ、本来一人でやる仕事でしょ?婚約もまだなんだから、自分で片付けて」
びしりと言い返されて、ヨシュアは口を噤んだ。
確かに、婚約はまだだった。
リリアヴェルを戻そうと躍起になっていて、レミシアの婚約話は宙に浮いていたのだ。
だが、ハルヴィア公爵が養女にすると決めたという事は、もう既定路線である。
婚約して居なくても婚約者と同じなのだ。
「でも、婚約者になる事は内定しているのだから」
「内定してても正式な婚約者じゃなければ、王子殿下の代わりに裁可は出来ないわよ」
どこでそんな知識をつけたんだ。
またカインか。
あいつは悉く邪魔をする。
一時期丁寧になっていた言葉が、また以前の様な口調に戻っているのは少し嬉しい。
淑女の話し方というのは、ヨシュアには聞き慣れている上に味気ないのだ。
「少し元気になったんだね」
「誰かさんが無理をさせようとしてこないからね」
痛烈な嫌味を言って、レミシアは微笑んだ。
だが、ヨシュアは眉を顰める。
「誰だ、それは!僕が注意しておこう」
「そうですか。でしたら鏡に向かって仰って?」
レミシアは笑顔だが、容赦はしてくれないのである。
直接的に罵倒されて、流石のヨシュアも口を噤んだ。
そして、鏡を見たら自分がかっこよくて、キメ顔の練習になる、までが1セットです。
あ、そう言えばムーミンに突っ込みくださった方、ありがとうございます。裸シルクハットは本当にやばいですよね。ひよこも流石に口に出来なかった。見事な変態紳士ですパパ。
ちなみに、冬眠中に起こされてパジャマで出ようとした時に、ママに「あなた、パジャマよ」と注意されてパジャマ脱いで裸になってシルクハット被るんですよ(やばい)




