お兄様、新しいお姉様ができましたわ!
次の日、リリアヴェルはレミシアを探していた。
真剣な顔で本を読むレミシアを見つけて、リリアヴェルは小走りで駆け寄る。
「レミシア嬢、少しお時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「あ、ええ。時間が足りなくて……」
弱った微笑みを見せるレミシアの手を、リリアヴェルがふんわりと握った。
温かくて柔らかい感触と、心配する眼差しに思わずレミシアの目から涙が溢れそうになる。
「どうぞ、教えてくださいまし。勉強の進捗具合と、ヨシュア王子から割り振られるお仕事についてを。わたくしが対策を考えて差し上げますわ。それでも時間が足りないのは解消されないでしょうが、わたくしが学びやすいように道筋をつけて差し上げる事は出来ますもの」
「な、……何故ですか。わたくしは、貴女に、酷い事をしたというのに」
「酷い、事?」
はて?とリリアヴェルは首を傾げた。
確かに以前、ヨシュアといちゃつくレミシアを羨ましいと思った事はあったが、彼女から悪意のある言葉を聞いた事は無い。
しかも、よくよく考えてみれば、彼女がもし存在しなければ、ヨシュアと別れる事もなく、メグレンとも結ばれる事は無かったのである。
思い至ったリリアヴェルはぶわりと涙を浮かべて、大粒の涙を零した。
酷い記憶を思い出させて泣かせてしまった、と罪悪感の浮かぶレミシアの耳に信じられない言葉が届く。
「レミシア様はわたくしにとって天使です!いいえ、女神様かしら!?」
「え?今何て?」
天使?いやいや、毛虫って言われた?
女神?え?
レミシアが混乱していると、柔らかく包んでいたリリアヴェルの手に力が籠る。
「だって、レミシア様がいらっしゃらなかったら、わたくし今でもあの糞に縛られていて、メグレン様と恋に落ちるという至福を味わえなかったのですもの!」
「え……えぇ、ああ……」
嫌味でないからこその、破壊力というものもあると思う。
キラキラと可愛らしい顔を、歓喜に染めてまっすぐ見てくるリリアヴェルから思わず目を逸らした。
要は「糞野郎を奪ってくれてありがとう!」である。
もし、悪意を込めてそう言われていたら嫌いになれたのに、目の前の純粋な子はそれとは違うのだ。
彼女に悪意というものはないのだろうか、と疑いたくなる。
だが、更にリリアヴェルの口から、信じられない言葉が発せられた。
「妹が良いですか?姉が良いですか?」
「どゆ事?」
思わず素で返してしまった。
淑女教育が何処かに蹴り飛ばされるような、突飛な質問である。
「もし、レミシア様が逃げたいと仰るならそれもお手伝い致しますが、殿下と結婚なさるおつもりでしたら、わたくしが全面的に力になりますわ!子爵家から養女になるのなら、是非、ハルヴィア公爵家の養女となってくださいまし。そうすれば貴族や国民の皆様にも、わたくしの代わりに王家に嫁して頂く大事な方と思って頂けます!」
そこまで考えが至っていなかったレミシアは目をぱちくりとした。
既に城では「可哀そうな公女から、王子を奪った悪女」である。
払拭できるなど思っていなかった。
「姉がいいわ。だって、貴女が姉って何だか変だもの」
「えっ!?」
「えっ!?」
リリアヴェルが驚きの声を上げたので、レミシアも思わず疑問の声を上げた。
この姿形と容姿で、姉を名乗れると思っていたのだろうか。
レミシアの視線に、しょんぼりと眉根を下げながらも、リリアヴェルは頷いた。
「女神様の仰る通りに致しますわ」
「その、女神様って言うのだけは止めて!?」
この日、大変な人をレミシアは妹にしてしまったのである。
だって、お姉様って何かかっこいいんですもの……(リリアヴェル談)
無理でした!
リリアヴェルは本当に作者の予定をぶち壊してくる。書くと何か結果が変わっているんです。怖い。




