妹よ、君はお兄様を何だと思っているのかな?
メグレンとリリアヴェルの婚約が無事成立した事で、皇后は意気揚々と帝国へと引き揚げた。
王妃にヨシュアの無能さと、リリアヴェルの献身で熱病から快復した事を分からせ、国王には長年無為に働かせ続けた上に名誉を傷つけた事を慰謝料としてたっぷりと払わせるという置き土産を残して。
ハルヴィア公爵も大いに溜飲を下げたのである。
国民に真実を暴露しないのはリリアヴェルの気持ちを尊重した恩情だ。
同じように慰謝料の負担で国庫を空にさせるような事はせず、王妃と国王とヨシュア王子の個人資産を空にしたのである。
国王に至っては、資産が足りなくて借り受けた分を借金として今後しばらく国庫へと返却しなくてはならない。
贅沢も嗜好品も向こう三年は禁止となった。
カインはと言えば、メグレンとの勝負で勝ちを譲ったものの、その雄姿に見惚れたご令嬢達から訴えられた父親達が、婚約の打診をこれでもかと推してくるのに辟易していた。
しかも、打ち身や筋肉痛で、体中が痛い。
「最近、全力で身体を動かす事が無かったからな……」
「それであれだけ動けるのなら上等だろう」
澄ました顔で言うメグレンは、涼しい顔だ。
だが、半眼で見ているカインの視線に気づいてニッと口の端を上げた。
「だが、助かった。お前との試合が無ければ消化不良で胃もたれするところだった」
「俺を胃薬代わりにするなよ。……あそこまで相手が底辺だと、お前の実力を知らしめることが出来ないどころか、何か汚い手を使ったのではないかと疑われ兼ねないだろう」
「まあ!お兄様ったら、そんな事まで考えてくださっていたのですね。メグレン様の為に、ありがとう存じます!」
キラキラと輝く目をした妹に見つめられて、思わずカインはため息を吐いた。
「君はお兄様を何だと思っているんだろうね。これでも次期公爵なんだよ……」
「申し訳ありません。やんちゃな血が騒いだのだとばかり……」
「何その血、初耳なんだけど?」
幼い頃も今もやんちゃな事をした覚えのないカインの眼が眇められる。
リリアヴェルはにこにこと無邪気に微笑んだ。
「殿方は皆、そういうところがおありでしょう?でも、本当に、メグレン様の戦いぶりは鬼神が如く、雄々しく、素晴らしいものでしたわ!」
何度繰り返したか分からない絶賛を口にして、うっとりとメグレンを見つめるリリアヴェルに、メグレンも優しい微笑みを返す。
「ヴェリー。君の為なら俺は何度でも戦うよ」
「メグレン様……」
またもや二人の世界である。
妹が愛され大事にされるのは嬉しいのだが、こいつらときたら所々で惚気てくるので話が進まない。
「はいはい。それで、学園生活はどうだ?」
「はい!皆様にもメグレン様の溢れる魅力が浸透いたしまして!日々お祝いの言葉を頂いております!」
そういう事じゃない。
聞きたいのはそっちじゃない。
カインは目頭を押さえながら再度問うた。
「ヨシュア殿下は近づいてきていないね?」
「はい。時々遠くからこちらを見ておりますが、話しかけてくることはございません。……それよりも、気になる事がございまして……最近レミシア嬢の元気がございませんの。お兄様は何かご存知ありませんか?」
思わずカインとメグレンは目を見交わした。
婚約破棄の原因となったレミシアの心配をしているのだ、リリアヴェルは。
その顔には心配の表情が浮かんでいる。
「うーん。どうでもいいと思って調べていなかったが、調べておくよ。だが、大体予想は付くな。君が何年もかけて行われて来た教育を急速に詰め込まれているのだろう。……あとは、君がヨシュアの為に請け負っていた仕事を全て行わせようとされているのかもしれないな」
「ま、まあ!それでは責任の一端は、わたくしにございますのね!?」
衝撃を受けた様に、リリアヴェルは口元を手で覆った。
「いや、責任はどう考えてもヨシュア王子にしかないだろう」
「ヴェリーは何も悪くない」
二人に慰めの言葉を貰ったが、リリアヴェルはしょんぼりと肩を落として考え込んでしまったのである。
一応公式とか外では一人称私、なのですが、私的な場では俺としている男二人。
稀にごっちゃになってるかもです。誤字職人様も読者さまもご指摘感謝です。言われる前に謝っておくひよこ。
恋敵のはずの令嬢を心配する人は珍しいと思うけど、リリアヴェルなので…!こんな予定じゃなかった筈なんですが…。書き始めた頃悩んでて、レミシアの未来は2ルート(まあまあ悲惨)あったんですが、まさかの3ルート目になりました。バリキャリルートです。本編終わったら、そちらも少し書こうかなと思ってます。別枠にするか幕間にするかはお悩み中。
コメ頂いて気づいたけど、少しぐらい殴っておけばよかったですね。そう、みかん入ってる奴です。みかんすき。今日も食べちゃう牛乳寒天。




