お兄様、分かりました!戦わせれば良いのですね!?
恙なく食事が終わり……中庭の三人に集中する視線を浴びながら、ではあるが、注目される事に慣れているメグレンとメグレンしか目に入らないリリアヴェルは通常仕様だ。
命じていた使用人に王子を呼びに行かせる。
本来ならリリアヴェルから行かなければならないところだが、立場的にはメグレンの方が上なのだ。
ほどなくして、ヨシュアとレミシアが使用人の案内で中庭に姿を現す。
迎える為に、リリアヴェル、カイン、メグレン皇太子は席を立った。
「久しいな、ヨシュア王子」
「お久しぶりです、メグレン皇太子」
公的な場所では何度か顔を合わせた事があるが、私的な場所ではこれが初となる。
メグレンはまず、懐から婚約の書状を取り出した。
「まずはこちらをご覧頂こう。私と愛しいリリアヴェル嬢の婚約が成立した」
「それは……おめでとうございます」
一瞬顔を歪めたが、ヨシュアは書面をさらりと読み、皇太子に目礼した。
リリアヴェルは「愛しい」という言葉にかあっと頬を赤く染めている。
書状を懐に仕舞いながら、メグレンはリリアヴェルの肩を抱いた。
「そちらから婚約解消を望んでおきながら、私とリリアヴェルが婚約するという話を聞いても、しつこくつき纏った上に名前を親し気に呼び、剰え触れようとしたとか?……ヨシュア王子、私は君に決闘を申し込む。私が勝ったら今後一切リリアヴェルには話しかけるな」
ふう、と気だるげにヨシュアは息を吐いた。
「それでは私に利点がありませんね。もし、私が勝ったらリリアヴェルを返してくれるのですか?」
「リリアヴェル嬢は物ではないし、名前で呼ぶのはやめろと言ったのだが?」
「……ハルヴィア嬢が戻ってくるのならお受けしますが、戻らないなら貴方と戦う意味が無い」
どうしても、取り戻したい故にその理論に持ち込みたいヨシュアに、カインが横から口を出した。
「リリ。メグレン皇太子を信じるんだ!」
「え?信じておりますけれど……?あ、はい、分かりました。メグレン様、わたくしの身はメグレン様の勝敗に委ねます。心より信じ、お慕いしております」
兄の顔に戦わせろ……!という字が書いてあるように見えて、リリアヴェルは慌てて頷いた。
メグレンが負けるとは思えないし、メグレンがリリアヴェルを守ろうとしているのは分かっていたのである。
本来なら王子が第三者を条件に持ち出すのがおかしな話なのだが、ここは仕方ない。
リリアヴェルはまっすぐにメグレンを見上げた。
頷き返すメグレンはとてもカッコいいので軽く気が遠くなったほどである。
「騎士科の修練場があるから、そちらでやろう」
カインの言葉に従って、五人は移動する。
立ち合いは騎士科の教師に頼み、刃を潰した模擬刀をそれぞれに持つ。
勝負を見届けたい生徒達で修練場はあっという間に人で埋まる。
信じているとは言っても、リリアヴェルは心配で心臓がきゅうっと握られているように苦しい。
もしお怪我をしてしまったらどうしよう。
恋愛物語にあるように、頭を打って記憶喪失になったら……。
でもでも、戦う姿は男神の様に神々しく美しいに決まってますわ。
心配と妄想と欲望がリリアヴェルの中で融合して、最早流れに身を任せるしかなかったのである。
そわそわとしているリリアヴェルに、メグレンは優しく微笑んで頭を撫でた。
「心配せずに、待っていなさい」
「はい……メグレン様……!お待ちしておりますっ!」
笑顔で命じられれば、100年でも待てそうな気がした。
そういえば、はて?ヨシュア殿下の剣の腕ってどうなんでしたっけ?
何時もお顔だけ拝見していたから思い出せませんわ。
メグレンが現れてからというもの、日々リリアヴェルの膨大な脳みそはメグレンで埋め尽くされて行っているので、覚えていないのか忘れているのかは本人にすら分からなかった。
そろそろ終わりに向けて話を進めようと思うのに、リリアヴェルが終わらせてくれないのです。
ひよこの首に縄をつけて引き回す主人公。でも頑張って終わらせるので、もう少し(いや結構あるな…)このバカップルにお付き合いくださいませ。カインお兄様の恋愛はメグレンとリリアヴェルの結婚生活を少し見守ってかららしいです。完結は他の長編より先にします!




