お兄様!恋する乙女には名誉よりも大事な事がございますの!
「よく魔女殿と仲良くなれたな」
「女性は甘い物が好きですもの!美味しいお菓子を用意して参りましたのよ。大変喜んで頂けましたし、今でも時々お茶をしております」
会ってるんかい!
心の中で突っ込むが、一体あの森からどうやって通っているのだろうかというのも気になる。
「あら、そうでしたわ。わたくしもう王城から居を移しましたし、いずれ帝国へと移る旨も各所にご挨拶しないといけませんわね!うっかりしておりました~」
笑顔で言うが、その前に片付けなければいけない糞王子がいるのである。
前々からリリアヴェルの成果を取り上げてきたことは抗議してきたし、大変な事をやらせていたのは知っていたが、ここまでとは。
「何故、王子に手柄を渡したのだ」
「えぇと、それは、王族の美談の方が民には心証が宜しいでしょうし、王妃様もお母様ですもの、実の息子が取ってきてくれたと聞いた方が心の支えになりますし、元気になりますでしょう?」
確かに、平和な状態では中々王族の美談などというものは生まれない。
政治的な意味を含めて、丸め込まれたのだと思ったが、きちんと本人も理解している。
寧ろ、ヨシュアの為にと自発的に言い出したかもしれない。
「それに、結果的に貧しい人々にも無償でお薬を配る事を許されまして救済も出来ましたし、問題はありませんわ」
「いや、問題はある。君にだけ危険な思いをさせたのだろう」
怒りに腸が煮えくり返りそうになりながら、カインは唇を引き結ぶ。
だが、リリアヴェルは首をふるふるっと左右に振った。
「近衛騎士の皆様が護衛して下さったので、危険はございませんでしたよ」
「……その者達は王に報告をしなかったのか」
リリアヴェルはそれを聞いて、ハッと肩を揺らす。
「もしかして、その後、解任されて辺境へと派遣された方々がいらっしゃったのは……」
「分かった。調べておこう。名は覚えているか?」
「はい」
カインが手紙を書くのに使った筆記用具を借りて、リリアヴェルがすらすらと名前を書く。
その内三名が辺境へと遣わされていた。
「どうなさるのです?お兄様」
「いやなに、お前の為に不遇な人生を送る者がいては心苦しいだろう?我が家で雇い入れる事にする。辺境で家族が出来ていたら家族も一緒にね」
「……まあ、流石ですわ、お兄様。嬉しゅうございます」
今まで思い至らなかった事が悲しかったが、ヨシュアが決めリリアヴェルも同意した事に誰かが何かをするとは思っていなかったのである。
「わたくしにとっては本当にどうでも良い事でも、正義感のお強い方は許せなかったのでしょうか。考えが至らずに申し訳ない事を致しました」
「いや、君は悪くないよ、リリ。悪いのは全て王子だ。……黙殺して辺境に追放を許した国王もな。ヨシュア殿下が君にちょっかいをかけるのも、陛下が後ろで糸を引いているのだろう。その件も明日、皇后陛下に強く申し入れして頂くよう手配する」
などと話している最中に、使いに出した従僕が戻ってきて告げる。
「皇太子殿下がお越しになります」
「分かった。リリは此処で待っていなさい。私が出迎える」
颯爽と出て行こうとすると、リリアヴェルが慌てて呼び止めた。
「お待ちになって!お兄様!」
「どうした?」
「わたくしのドレス、変ではございません?気に入って頂けるかしら?」
どうでもいい心配なのだが、乙女心なのだろう。
メグレンの前では常に可愛らしい女性でいたいと思うリリアヴェルが、そわそわと自分のドレスを摘んだ。
カインは思わず小さく笑った。
「お茶の席より晩餐のドレスの方が豪華だし、美しいよ」
「そ、それなら、大丈夫ですね!お待ちしております!」
いそいそと長椅子に座る妹と、飲み物を用意する使用人達を尻目に、カインは玄関ホールへと向かった。
理由が出来たらすぐに駆け付けるメグレンもメグレンですよ!
カインお兄様もお怒りですが、リリアヴェルはそんな事よりメグレンに会える方が嬉し過ぎて。
メグレン予測されていた方、当たりです。次に登場です!
あと、ヨシュア王子への小さな嫌がらせby北の魔女に色々な案をありがとうございます!!嬉しい!!
ヨシュアは書いてるこっちもムカつくので、色々な目にあってほしい。キメ顔で。




