殿下、触れないでくださいませ!!
「うふふ!」
授業中もリリアヴェルは上機嫌だった。
昨日、超特急で描かれたメグレンの絵姿が、画家本人の手によって公爵邸へと届けられたのである。
メグレンの特徴をしっかり捉えた絵姿で、軍服のような礼装を身に着けたメグレンはそれはもう恰好良かった。
「はあ、好き……!」
普段着や別の角度の絵姿を数十枚追加注文したのは言うまでもない。
今まで無駄遣いの出来なかった貯金が火を噴く時がきたのである。
画家は感謝に目を潤ませて帰って行った。
その素晴らしい絵姿は、教科書の横にあって、素敵な流し目をリリアヴェルに向けている。
時々隠さないと授業に集中できない。
王子妃教育や自力で学んだことを超える内容ではないけれど、一応きちんと聞かなくては!
背を伸ばしてシャキーンと真面目に授業を受けつつも、時々メグレンの絵姿を見てデレデレと蕩ける。
そんな風に授業を終えると、廊下に目立つ金髪の美形王子が立っていた。
会釈をして通り過ぎようとすれば、声をかけられる。
「ハルヴィア嬢、ちょっといいかな?」
「え、あ、はい。少しだけでしたら」
頷くと、ヨシュアが周囲の友人達に手を無造作に振る。
「お前達は先に行くといい」
「以前にも申し上げましたが、二人きりには……」
「護衛の騎士もいるのだから、いいだろう?」
甘い笑顔を浮かべて、手を伸ばしてくるのでリリアヴェルはその手をさっと避けた。
「よくはございませんわ。であるならば、わたくしも侍女を呼びます。皆さん有難う存じます。先に行ってらして」
リリアヴェルは廊下の端で待機していた侍女に手を挙げて呼ぶと、友人達に笑顔を向けた。
だが、友人の一人が言う。
「離れた所で待っているよ。授業の時間までには間に合うだろう」
「ええ、そう致しましょう。あの辺りで待っているわね」
女生徒も男子生徒の提案に同意して廊下の先を指さすと、そちらへと皆で向かって行った。
そして、友人達はリリアヴェルを振り返って見守ってくれている。
リリアヴェルは改めてヨシュアに向かい、手の届かない位置から話しかけた。
「殿下、婚約者でもない女性にみだりに触れるものではございませんわ」
「……は?……いや、君は、本当にリリアヴェルか?」
思わず名を呼んでしまって、でも聞きたい事がそれなのでヨシュアは口を噤んで見つめる。
眉尻を下げたリリアヴェルがちら、と護衛を見てから頷く。
「はい。リリアヴェル・リル・ハルヴィアです。殿下が何を仰られようとも、もう婚約者でないのは事実ですので、過度の交流はお控えくださいませ」
「だが、……いや、私もどうかしていたのだ。君を正妃として迎えたいから、婚約を元に戻したい」
リリアヴェルが好きだった笑顔、しかも向けられることのなかった甘い笑顔でヨシュアは言うのだが、顔が良いだけで心には全く響かない。
一つため息を零してから、口にする。
「たとえ正妃と望まれましても、わたくしは既に別の方と婚約を交わす約束をしております。書面でも既にお伝えしていると思いますので、陛下にご確認くださいませ。陛下の承認が終われば婚約は成立致します」
「大切なのは君の意思だ。君が望むなら、僕が助け出してあげよう」
助け出す?誰を何処から?
はて、とリリアヴェルは首を傾げる。
「メグレン殿下との婚約はわたくしも心より望んでおりますので、意思を尊重して頂けるのであれば、陛下に急いで承認して頂く様にお口添えくださいませ。わたくしはメグレン皇太子殿下以外の男性に嫁ぐ気はございません」
しっかりと目を見ながら言えば、ヨシュアは驚愕したように固まる。
話は終わったかしら、と判断して、リリアヴェルは淑女の礼を執って、その場を後にした。
「では、ごきげんよう」
やっと、言えた!
女性は頭を撫でられるのが好きと聞いたので、やってやろう…と思ってたヨシュア王子ですが、リリアヴェルの素晴らしい足捌きで回避されました。リリアヴェルは色んなことをさせられて(いや、喜んでやってましたが)いたので、無駄に色んな部分でレベチでマルチな才能を発揮します。




