お兄様、こちらは運命の敷石さまでございます!
「殿下の様子がおかしい?」
リリアヴェルに報告されたカインは眉を顰めた。
聞き返されたリリアヴェルは、はい、と頷く。
今日も今日とて、メグレンとの逢瀬を楽しんでほっこり艶やかな妹なのである。
「廊下で呼び止められまして。騙されているのではないか?とか洗脳されたのでは?と可笑しな疑問を口にされておいででしたわ」
リリアヴェルは不思議そうに言うけれど。
分からんでもない!
心の中でカインはヨシュアに対して同意と少しの憐憫を覚える。
それだけ常軌を逸した愛情を向け続けていたのだと、目の前で不思議そうな顔をしている妹は気付いていない。
どうしたものか、とカインは考えた。
「ううん……一応、つい最近までヨシュア殿下を好きだったのは覚えているかい?」
「ええ。好きと言ってもあの素晴らしいお顔だけでしたけど。今思えば恋ではありませんでした。言うなれば、そう。人気の舞台役者に貢ぐ観客に似ておりますね!」
そうか。
言い得て妙だ、とカインは頷く。
だが、あの情熱を向けられてしまえば、何をしても許されると勘違いしても責める事は出来ない。
それと実際に邪険に扱う事は全く別の問題ではあるが。
リリアヴェルは続けてにこにこ言う。
「夢のようなお話と、現実は違いますもの!」
いや、お前は、その夢の中にいたんだぞ?!?
突っ込みたくなるが、夢から覚めてしまったものは仕方がない。
というより、カインからしてみればヨシュアに夢中になってた期間こそが「夢」であり「洗脳」だったのだ。
それが解けてしまっただけ、と考えれば酷く腑に落ちる。
「確かに、ほら、手の届かない美しい役者様が、お庭を歩いていたら追いかけますでしょう?いずれ、結婚するのだと分かっていても、雲の上の人という感じで……ただ、見ているだけで満足というか幸運といいますか。でも、他の女性と仲良くしている様はあまり嬉しくは無かったですけど、でもお顔は素敵でした」
うん、顔だね。
カインは思わず頷く。
「メグレン殿下は?」
「メグレン様はですね、もう存在自体が尊いのです。あの一挙手一投足が素敵で、きびきびとしてらして、男らしくて、地面が羨ましいですわ!」
「そこまで!?」
ヨシュアの時より重篤化していないか?と気にはなったが、それよりも気になるものがカインの視界の端に飛び込んできた。
豪奢で可愛らしい装飾の白い箪笥の上に、何かが祀られている。
見た感じ、祭壇になっていた。
素朴な煉瓦のような石の周囲に、花やら蠟燭やらがもりもりっと飾られているのだ。
「ところで、あの変な祭壇は何だい?」
「運命の事故を起こして下さった、運命の敷石様ですわ!」
「うん?何て」
石?
ただの?
「地面にある、あのただの石かい?」
「いいえ、わたくしとメグレン様の縁を結んで下さった、お庭の敷石様ですわ。もちろん代わりの敷石はきちんと埋めましたし、段差も整えて綺麗に致しました」
「うん、仕事は相変わらず早いね。……え、そんな目立たない石をどうやって見つけたんだ」
あの後すぐに、二人はお茶にやってきて、その後陽が落ちる時間だったし探す暇はなかった筈だ。
しかも、昨日まではこんな物無かった。
「ええ、あの時大体の位置は把握しておりましたし、わたくしの歩幅を逆算致しまして、丁度窓と壁に反射する光の角度を加味しまして……」
「ああ、うん、大体分かった、もういいよ」
無駄に優秀なのである。
そして、よく見れば石の前には焼き菓子も供えられていた。
石は菓子を食わないと思うのだが。
庭から掘り起こされた敷石様は一生リリアヴェルに祀られる運命です。
将来子供達も見せびらかされます。
そう、推しだったのです(もう違う)感想鋭い…!(震え)
皆様にキメ顔が浸透してて嬉しい今日この頃。本当にドロップひよこキックかましたいくらいむかつくんだけど、ヨシュアが割と人気で笑ってるひよこ。
彼はまあ、自己評価の高い保身野郎ですが見た目は超いいので、とんでもない事爽やかに言ってたりして、今後レミシアにも……。




