蟻地獄にいるみたい(レミシア視点)
「顔色が冴えないけれど、きちんと眠っているのか?」
学校へ向かう馬車の中で、ヨシュアはレミシアの顔を覗き込む。
優しい仕草と声音だが、本当に心配しているのかは分からない、とレミシアは目を逸らした。
「ええ、まあ、何とか」
眠れはするけれど、朝起きてから眠るまで、王城での生活は窮屈そのものだ。
まだ勉強やダンスの練習などはいい。
頭と身体を酷使しても、それはその時間を乗り切ればいいのだから。
だが、食事の時間が苦痛だった。
本来なら息抜きが出来る場だし、美味しい物を食べれば少しは活力になるのだが。
姿勢を美しく保ったまま、完璧な礼儀作法を求められては、のんびり食事も出来ないのである。
お茶にしてもそうだ。
今までは足を崩して、肘をついて食べたって誰も何も言わなかったのに。
あらゆることに目を光らせる人々がいて、例え教師のいない所でも無作法があれば、侍女や小間使いが教師に伝えてしまう。
敵に囲まれた場所で寛げるはずもない。
窓の外を流れる景色を見ながら、ぼんやりと学園に運ばれて行く。
かつて、リリアヴェルの立場を羨ましいと思っていた。
王子と共に王城からの馬車で登校し、優しくて完璧に美しい王子の手を借りて馬車を下りるお姫様のような存在に。
今は自分がその立場になったというのに、一つも心躍る事はない。
儀礼的な挨拶と笑顔を交わし、体裁だけは保っているけれど、羨ましがる観客たちがいないのだ。
リリアヴェルが誰にでもヨシュアの悪口を言っている訳ではない。
もしそうだったら、噂になっている筈だ。
レミシアだからこそ、あんな事を言ってきたのだろう。
彼女にとっては忠告だったのだ。
何より、リリアヴェルがわざわざヨシュアを話題にしなくても、生徒達は皆彼女の受けていた仕打ちを知っている。
それでも彼女が侮られなかったのは、元々の地位や美しさもあるけれど、成績が最上位だったのが大きいのだろう。
学園という小さな限られた世界で、それは力を持つ。
「ああ、そうだ」
校舎へ向かいながら、ヨシュアが足を止めた。
「リリアヴェルと帝国の皇太子の間に婚約の話が出ているんだよ」
困ったようにヨシュアが言うのだが、私達に何の関係が?とレミシアは首を傾げる。
そういえば、リリアヴェルは他の人と婚約すると言っていた。
「ああ、婚約をするとそういえば言っていたわ」
思い出して口にすれば、ヨシュアは困った表情のまま微笑んだ。
優しそうに見えて傲慢さの潜むその笑顔で。
「だから父上にきちんとその婚約を止めさせて、手元に戻す様に言われているから、彼女と話をしなくてはならなくてね」
「……え?」
頑張って、頑張って、耐えているのに何を言っているのだろう?
呆然とした表情で見上げれば、ヨシュアはその笑みのまま言う。
「君の成長が足りないと言われてしまってね。やはり予備は必要なんだよ。勿論、君の努力次第ではそんな物必要ないけれどね?」
ああ、何かもう蟻地獄みたい。
明るい朝の光の中にいるのに、真っ暗な世界にいるみたいでレミシアは心が際限なく沈んでいく。
登っても藻掻いても、どんどん砂の中に引きずり込まれて行くのだ。
教育にかけていた時間が違いますが、要求レベルは高いですからね……!
でも、珍しくレミシアは負けん気が強くて、努力する人なので今後の成長にご注目ください。
前回の後書に書いたアフタヌーンティは高いので、家でお菓子食べた方が普通に安上がりなのですが、一時期お家でアフタヌーンティするならどのお菓子をランクインさせるかと遊んだりしてました。
販売終了してしまった、リーフィーはひよこの中で最高のお菓子だったのに残念です。リーフパイって美味しいですよね!




