彼女はもう振り向かない(レミシア視点)
「ああ、もう、苛々するっ……!」
レミシアは王城の客間を与えられて、厳しい教育を受け始めていた。
挨拶の仕方や言葉遣いなど、低位貴族と高位貴族というだけで違ってくるのだ。
呆れた様に何度も、何人にも言われる。
「リリアヴェル様はもっと幼い頃に習得されていたのですよ」
誰も彼もがリリアヴェルと呪文のように繰り返す。
使用人も、教師も、周囲の人間全てが。
でも何よりレミシアの心を重くしているのは、周囲の重圧ではなかった。
リリアヴェル自身はもう、どんなに周囲が優秀だと褒めそやそうともヨシュアを好きではないのだ。
それどころか。
「ヨシュア様は糞ですよ?」
とレミシアに告げたのである。
確かに、そうだ。
婚約者がいながら、自分を選んで傍に置いていたのだから。
顔が物凄く良い分、性格が物凄く悪いのだろうか。
勿論ヨシュアだけを責める訳にはいかない。
レミシアだって、仄暗い優越感に浸っていたのだから。
「近いよ」
と言葉や声音は優しいものの、リリアヴェルを押しやったり振り払ったりしてヨシュアが遠ざけているのを見て、何て可愛くてみじめったらしくて可哀想なのかしら、と抑えていてもレミシアの唇には嗤いが浮かんでいた。
乱暴にはされていないけれどはっきり拒絶されていて、何か言いたげな目でリリアヴェルはじっと二人を見ていたのだ。
優秀で可愛らしい彼女が求めるヨシュアは、レミシアに夢中で。
求めても得られない可哀相なリリアヴェルの前で見せつけるのは、何より愉しかった。
なのに。
あれ以来、本当にリリアヴェルはヨシュアに見向きもしなくなったのだ。
二人がよく行く場所、リリアヴェルが物欲しそうに遠くから見ていたガゼボにいても、姿かたちも見せない。
今までずっと一人でいたのに、今は見かければ大勢の男女に囲まれて楽しそうに笑っている。
流石にヨシュアとすれ違えば皆と共に会釈はするが、もう近づいても来ないし、振り返りもしない。
それに。
ヨシュアはいつでも女性達に囲まれて憧れの視線を向けられていた筈なのに、今は誰も寄り付かない。
誰もがリリアヴェルと話したがり、違う階級である人々さえも、その姿がない所でさえ話題に上る。
そんな彼女が今まで何故一人だったのか、理解できた。
執務や教育に追われ、更にヨシュアの命じた物事を片付けていたのだ。
奴隷の様に、主人の命令を待つかのように、じっとヨシュアを見つめて待っていた可哀相な子はもういない。
ヨシュアとの仲が冷えた訳ではないが、彼と過ごす時間が味気ないのだ。
加えて、厳しい教育の疲れが溜まっている。
一つ山を乗り越えても、もっと先を要求されるのが当然で。
一番労わって欲しいヨシュアさえもが「リリアヴェルはやっていたよ?」と優しく要求してくる。
その度に楽しかった思い出が全て砂となっていくような感覚に囚われるのだ。
何よりずっと、「ヨシュア様は糞」という言葉がぐるぐると頭の中で渦巻き、レミシアの胸を重くしていた。
価値のない者の為に、重労働を科せられているような気分になる。
「でも、王子だから……」
ただそこだけが、救いのように呟いてみるけれど。
誰もが羨むはずの、美しく地位の高い自慢の男だ。
それなのに、レミシアの心は全然晴れなかった。
レミシアもヨシュアも少しだけ勘違いをしていて…。
リリアヴェルは「あんなお顔もされるのね!」とか「あんな顔をわたくしにも見せてくださらないかしら!?」までは思っていたけれど、レミシアが憎い!酷い!みたいな事は思ってなかったという。
「恋する顔が見れて羨ましい」だけだったんです。それもそれで酷いな!?
けれど今は、メグレンに冷たくされたら死ぬ自信あります。落ち着いて!?
正月太りでひよこもちもちし過ぎたのでサラダ食べようと思います。きゅうり。




