発足!放課後甘味倶楽部!
「と、言う訳なのですよぅ!」
満足げにリリアヴェルがむっふぅーと鼻息を漏らす。
頬はてかてかに火照り、満面の笑みを浮かべて。
今まで近づきがたい王太子の婚約者として鳴らしていたリリアヴェルは今や人気の女生徒となっていた。
成績優秀者であり、高位の令嬢であり、次期王妃であるという肩書の他に、ヨシュアという美男王子を巡って、彼の恋人レミシアとの逢瀬を柱や木の影からじいっと見つめていた変質者もどきだったのである。
それはそれは、声の掛けづらい存在だった。
でも王子の婚約者から解放されたリリアヴェルは、生き生きと新しく出来た好きなお相手との事をご令嬢達にこれでもか、と語って聞かせていた。
「まぁ~~それはお素敵ですこと!」
「羨ましいですわあ!」
お世辞抜きに、政略で結婚を決められることの多いご令嬢達は恋愛に飢えていたので、ガッツリと食いついた。
物語の中でしかお目にかかれない、希少な人物なのである。
それに、珍しいピンクブロンドも、可愛らしい笑顔もまた、男女共に心を掴まれた。
「それでですね?わたくしこんな物を作成致しましたの!」
ごそごそとリリアヴェルが取り出したのは、色とりどりのインクで書かれた王都の地図で。
覗き込んだ令嬢達はまじまじとそれを見つめた。
「あ、此処、わたくしの行きつけの菓子店ですわ!」
「あら、こちらのカフェ、わたくしも先日訪れましてよ」
目ざとく見つけた数人が、それぞれの店を指さしながら言えば、リリアヴェルはにこにこと頷いた。
「そうですの!こちらは王都甘味地図ですの!是非皆様のお知恵も拝借したいと思いまして!」
女子は甘い物が大好きな生き物である、とはリリアヴェルの座右の銘のような言葉だ。
彼女を取り囲んでいた令嬢達も、ぱああと笑顔を浮かべる。
「確かに、色々な方のお店への評価も気になりますものね!」
「ええ!ですのでまずは情報を頂けたらと思いますのよ。皆さん協力してくださいますかしら?」
「勿論ですわ!リリアヴェル様!!」
「是非、わたくしも知りたいです」
などと盛り上がっており、高位貴族だけでなく数少ない平民にもリリアヴェルが忌憚なく意見を求めるにあたり、続々と情報が集められることになった。
「それでですね、情報が十分に集まりましたら、実際にお店に伺ってお菓子を賞味したいと思いまして。でも、大勢で押しかけてはお店の方にご迷惑をかけることにもなるので、四人くらいの少人数で、色々なお店のお味を情報と照らし合わせとうございますの」
「まあ、それは良いお考え!」
「楽しみですわね!」
突如結成された放課後甘味倶楽部である。
甘味が苦手ではない男子も動員され、貴族街は令嬢が担当し、下町エリアは平民と令息達が手分けをして、リリアヴェルは無駄に優秀な力で地図づくりを人海戦術で始めた。
それもこれも、メグレンと一緒に美味しい物を食べたい!!という一心で始まった事なのだが、周囲はもはやその事は忘れたり気づかないまま、地図は完成に近づいていたのである。
ひよこもよく皆さんに美味しいお菓子情報とか食べ物情報を貰って喜んでいます!




