良いのですか?その御方は糞ですよ?
「ねぇ、どういう事?何で、側妃とも閨を共にするの?!仕事だけやらせようって話だった筈だけど?」
怒りに目をきつく滾らせて、レミシアはヨシュアに詰め寄っていた。
放課後の廊下で、二人は窓の側に佇んでいる。
ヨシュアは気にした風もなく鷹揚に微笑む。
「元はといえば、君がきちんと仕事を熟せれば問題ないんだよ?」
「それは、……でも……」
独占したいなら仕事をしろ、と要求されてレミシアは尻込みする。
努力は、しているのだ。
礼儀作法においても勉強においても、全てが要求される高みに達していないのは分かっていて。
ぼんやりして見えるようでいて、リリアヴェルは常に学園でも成績は最上位に位置していた。
ヨシュアにとってリリアヴェルは便利な道具だという事も分かってはいる。
それ以上でも以下でもない。
だが可憐な見た目に、優秀さを加味すればいつ心変わりするかもしれないのである。
折角正妃にと望まれているのに、手に入れたものを手放したくは無かった。
「あの、レミシアさんと二人でお話がしたいのですけれど」
そこにレミシアが苛々している元凶が登場した。
明るいピンクゴールドの髪を靡かせて、可憐に微笑むリリアヴェルに苛立ちが募る。
奪った筈なのに、優越感よりも焦燥の方が大きい。
「ああ、いいよ。僕の話はもう終わったから」
勝手に終わらされて、ヨシュアは去っていく。
たたっと小走りに、リリアヴェルがレミシアに駆け寄ってきた。
「あの、わたくし側妃にはなりませんの」
「………え?」
話が違う、と思ったが今まさにその岐路に立たされて困っていたのも事実だ。
リリアヴェルは続けて言う。
「わたくし他に好きな人がおりますので、王子殿下にはこれっぽっちも興味はございませんの。閨を共にする話は気になってしてしまいましたけど、ゾッと致しました」
笑顔で不敬な事を言うリリアヴェルに、レミシアの目が丸くなる。
そして更に声を潜めて聞いてきた。
「でも良いのですか?ヨシュア様は糞ですよ?」
「……でも顔は良いし、王子だし」
「ですわよね!顔は良いですわよね!わたくしもほんの十年ほど夢中でしたもの。分かりますわあ」
にこにこと笑う姿は、本当に微塵も未練を感じない。
そのままの勢いで、リリアヴェルは拳を作って応援してきた。
「でしたら頑張ってくださいませ。断っているのに何度もしつこくされて、困っておりましたの」
「あ、……ええ、わかり、ました」
まさか一番の恋敵に応援されるとは思わず、勢いに押されてレミシアは頷いた。
リリアヴェルはそれを見て幸せそうな笑顔を浮かべる。
「宜しゅうございました。これで後顧の憂いなく、わたくしも新たな婚約を結べます」
レミシアはぽかんと口を開けてリリアヴェルを見る。
ヨシュアからはそんな話は聞いていなかった。
気を引きたくて、好きな人がいるという嘘を吐かれているとは言っていたのだが、婚約という嘘まで吐くとは思えない。
元々、断る気でいたみたいだし、とレミシアも覚悟を決める事にした。
リリアヴェルはレミシアを羨ましいなぁと思ったりはしたけど、特に恨んだりしてこなかったので、大丈夫かなと心配になりまして(城で侍女が泣いてた…と思うシーンは実は泣いてなかったり)声をかけた次第です。レミシアについてはまた別の短編か連載で書くかもしれないです。




