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絶望の朝と甘いキスを交じわす夜


夜空を照らしていた満月は西の彼方に消え去り、密林の遥か彼方の黒々としたジャングルと沢山の星が瞬く空の隙間に明るい光が射し込んで来た。


あぁ……朝だ……、朝になってしまった、香織ちゃんと過ごせるのもあと僅かな時間しか残されていない。


香織ちゃんは隣でスースーと寝息を立てている。


もう直ぐ殺されるっていうのに寝られるなんて肝が据わってるな。


まぁだから香織ちゃんにプロポーズしたんだけど。


木の下からガヤガヤと声がする。


下に目を向けると食人族の奴等が、涎を流しながら僕たちを指差し笑っていた。




僕たちは吊るされていた高い木の枝から下ろされ、平たい岩の上に大の字でうつ伏せにお互いの顔が見えるように寝かされ押さえつけられる。


脇には味付け用の草木がグツグツと煮込まれている大きな鍋が置かれていて、メインディッシュの僕たちが入れられるのを待っていた。


先に僕を屠るのか大きな刃物を持った食人族の族長が近寄って来た、だから僕は叫ぶ。


「香織ちゃんを先にしろー!」


僕の叫び声を聞いて、密林の奥から文明社会に出て大学まで進んだと言っていた族長が、周りで僕たちが切り刻まれるのを待っている食人族の奴らに僕の言葉を伝える。


途端、周りを取り囲んでいる食人族の奴らがドッと笑い声を上げた。


香織ちゃんは叫んだ僕の顔を鋭い眼差しで見つめ続けている。


だから僕は引き攣る顔を無理矢理笑顔にして、香織ちゃんの顔を見つめ返した。


「望み通りにしてやるよ」


族長がそう言い、香織ちゃんの頭の上で大きな刃物を振り上げる。


刃物が振り上げられたまさにその時、タァーン! と銃声が響き族長の頭が砕け散った。


タンタンタン! ドキューン! タァーン! ダァーン!


その銃声が合図だったのか、族長の頭か砕け散ったあと食人族の部落の周りの密林から次々と銃声が響きわたる。


銃声が聞こえる度に食人族の奴らの身体が血に染まり倒れ臥す。


寝かされた格好のまま頭たけを動かして周りを見渡した。


銃を持ち周囲を警戒する緑や茶色の忍者服の者たちや、迷彩の戦闘服姿の兵士たちが部落を囲む密林から現れる。


忍者たちと此の国の兵士たちとの合同の救助隊なのだろう。


平たい岩の上で動けずにいる僕たちを、緑や茶色の忍者服の男たちが引き起こす。


彼らも僕の上げた叫び声を聞いていたらしく、香織ちゃんは優しく抱き上げられたのに僕は乱暴に腕を掴まれ引き起こされた。


僕を見る緑や茶色の忍者服の男たちの目は軽蔑で満ちている。


だから僕は俯いて男たちの目を避けた。


香織ちゃんが男たちに声を掛ける。


「貴方たちは?」


「私たちは菊池一族に仇なす者を成敗するキクカー(菊花)の裏方です」


「ありがとうございます、助かりました」


「任務ですので礼はいりません、寧ろギリギリまで救出が遅れ申し訳ございません。


これからどうします? 空港までお送りしますか?」


「ハネムーンの続きをしたいので、私たちが宿泊する筈だったホテルの部屋を取っていただけますか?」


「分かりました、ツインで宜しいですか?」


「否、ダブルでお願いします」




僕は飛行機が墜落したり食人族に捕らえられたりというトラブルが無ければ10日程前に宿泊していた、高級ホテルの欠け始めた月が見える窓がある部屋で、香織ちゃんの前で土下座していた。


「香織ちゃんを先にするように言ってごめんなさい」


「私を苦しませないようにする為にでしょ、だから謝らないで」


「そうだけど……」


「彼奴ら私たちの前に食べた人たちの中の親子やカップルを殺した時、肉の食感を変えるためかただ単に楽しむためか1人目は直ぐ首を刎ねるのに、2人目は嬲るように切り刻んでいたから。


それに正義さん、貴方が私にプロポーズした時に私が言った約束、何時もその笑顔を絶やさないでいてくださいって言ったのを、最後まで守ろうとしてくれていたのでしょ」


「う、うん」


「真っ青で恐怖で引き攣っている顔なのに、無理矢理笑顔になって私に微笑んでくれて嬉しかった、ありがとう。


だから立ってください」


香織ちゃんは正座している僕の腕を取り立たせる。


僕と香織ちゃんは窓の前でお互いの顔を見つめ合い少し欠けたお月様が見守る中、甘いキスを交じわした。









キクカー(菊花)はコロン様主催企画「菊池祭り」参加作品の「戦隊の裏方です。」に載ってます。



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