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「第8話」優子

 優子は大輔と離れ離れになった後、高校に進学して商業科で学んだ。

 卒業後、貿易会社の事務員として採用が決まり、無我夢中で働いていた。大輔の夢の実現のために、一生懸命経理の仕事を学んでいた。



 もう既に、大輔と離れ離れになって10年以上が経過していた。

 皆が次々と結婚していく。


 いつの間にか、優子は会社で一番年上の独身の事務員になっていた。



 帰宅して優子は考える。

 私、大輔をずっと信じて努力してきた。交際の誘いも見合いの話も全部断り。。


 しかし、周囲が結婚し、中学や高校の友人も結婚していく中で優子には焦りが生じていた。

 幾度となく、大輔の両親の元を訪れたが、成功するまで連絡はしないと言われたらしく全く大輔の情報は入ってこなかった。いかに大輔の覚悟が強かったかを表していた。


 しかし、歳月は優子の心に迷いを生じさせていた。優子の心の中で大輔との約束が風化し始めていたのだった。



 そんなある日、会社の一つ上の先輩に話があると言われ、優子は仕事が終わった後に約束した喫茶店に向かった。


優子「遅くなってすみません。集計が終わらなくて。」


先輩「今では責任者だからな。ずいぶん勉強したみたいだな。」


優子「あの、お話は何でしたか?」


先輩「ああ。。優子さん。実は。僕は今月いっぱいでアメリカに転勤することになったんだ。」


優子「そうなんですね。さみしくなりますね。でも出世が約束されたようなものですから、おめでとうですかね。」


先輩「あのね、優子さん。僕と一緒にアメリカに行ってほしいんだ。幸せにするつもりだから。10日後の日曜までに答えがほしいんだ。過ぎると間に合わなくなるから。良く考えてみてくれないか?」


優子「。。。はい。話の意味は分かりました。あの、申し訳ないですが考えさせて下さい。あまりに突然でびっくりして。。必ず返事の期日は守ります。」


先輩「急でごめんね。もっと早く気持ちを伝えるべきだった。けど、優子は誰にも振り向かないって有名だったから。今しか言えなかったよ。」



 優子は、先輩と別れて帰宅する。


 

 突然の先輩の言葉に、優子は家でも会社でも考えれば考えるほど悩んでしまう。全く何も手につかなかった。


 私、もっと前に先輩に伝えられたら間違いなく断ってた。今だから考えられる。。


 私、アメリカに行ったら。。

 たぶん幸せになる。けど。。

 約束。。


 私、どうしたら。。


 もしかしたら大輔は覚えてないかも。もう結婚しているかも。。

 もし、そうだったら私。。やっぱり。これは運命かもしれない。



 数日悩むうちに、優子の心は先輩にほとんど傾いてしまった。


 今日は木曜日か。。日曜にアメリカに行く話をしよう。



 自分の中で結論が出てスッキリした。結婚して幸せになる期待を胸に帰宅した金曜日、母が玄関で待っていた。

 優子を見つけると手招きする。


母「優子。早く早く。」


優子「何?どうしたの?」



 家に入ると、目の前にすごく立派になった大輔が座っていた。


優子「えっ!大輔。。」


大輔「ああ。すごく綺麗になったな。ちょっと散歩に行かないか。」



 大輔は、あの思い出の場所。人のいない隣の駐車場に優子を連れて行った。


大輔「僕の人生の目標はここから始まったんだ。ゆうちゃんを幸せにするって目標がここから。俺な、有名な料理人の元で修行して、師匠に一人前ってやっと認めてもらったんだ。テレビにも出てる有名な料理人になんだぞ。優子を幸せに出来るようになれたと思ったから辞めて戻ってきたんだ。あの、優子さん。僕と結婚して下さい。」


 大輔は指輪を差し出す。優子の瞳から涙が溢れる。

 嬉しいからではなかった。

 いや、嬉しさもあった。だが、情けなさでの涙だった。

 自分から言い出したのに。。私。。


 優子は傾いた気持ちを一気に引き戻され、大輔の指輪を指にはめる。


優子「ありがとう。ごめんね。。本当にごめんね。私、信じてた。ずっとずっと信じてた。なのに。。あの日にキスを迫ったのは私なのに。。」


大輔「やっぱり結婚ダメかな?指輪だけ欲しいってこと?」


優子「違うわよ。私、あなたを幸せにする。ありがとう。」


 月明かりに照らされた優子は、幼い時とは違い、今回は優子から大輔に唇を重ねた。



 優子の家に戻ると両親に結婚の報告をした。いつまで経っても嫁に行く気配のなかった優子は大輔を待っていたと知り、両親の喜びは想像以上だった。


※※※


 優子は日曜まで先輩を待たせるのは失礼と思い、土曜日に会う約束をして、大輔との出会いから今までの話をして結婚のお断りをした。


先輩「優子、馬鹿だな。俺が君の立場だったら、そちらを迷いなく選ぶよ。でも、悩んだんなら惜しかったってことだな。優子。幸せになれよ。僕もアメリカで頑張るよ。君の判断は正解だ。真剣に考えてくれてありがとう。」


優子「ごめんなさい。お互いにいい人生にしましょうね。」


先輩「そうだな。いつか、お互いに笑って家族を紹介出来る日が来るように頑張るよ。幸せにな。」


優子「必ず幸せになりましょうね。約束よ。」


 先輩を見届けると、優子は涙が止まらなかった。


 私が大輔を信じ続けていたら、先輩を悩ませることはなかった。

 結果的に問題はなかった。

 けど、私は大輔との約束を破ってしまった。。


 私は生涯をかけて大輔を幸せにしないといけない。自分から約束したのに。。でも、やっぱり結婚するなら大輔だけなの。情けない話だけど今更それが分かった。


 

 大輔と優子は両家に祝福され結婚した。


 そして、ついに大輔は念願の玉子焼きと寿司の店をオープンした。


 幸せになるために2人は一緒に頑張るのだった。


【お知らせ】

全話のあとがきに一律宣伝でいれますが、この物語は


SAKI 〜〜 ある少女の人生物語 〜〜

https://ncode.syosetu.com/n9739iq/


の登場人物の寿司屋の大将の物語です。

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