「第6話」休日
大輔は休日の約束時間に料亭にやってきた。
料理長「おお、来たか。じゃあ行くか。隣に乗れ。」
2人は良い食材探しに出かけた。
料理長「あった。ここだな。有機野菜でな、トマトがすごいらしいんだよ。」
初めて食べるトマトだった。トマトが美味しいというのは大輔には初めての体験だった。
料理長「これは、すごいな。」
大輔「ええ、俺はトマトが美味しいなんてのは初めてですよ。」
料理長「それはトマトに失礼だろう。ここは絶対に契約しないと損だな。」
大輔「それは間違いないですね。」
契約を済ますと、料理長が寿司屋に連れて行った。
料理長「びっくりするぞ。」
大輔「はあ。」
2人は寿司を食べた。確かに高くて美味しい寿司だった。
料理長「どうだ。高いだけあるだろう。」
大輔「はい。確かに美味しい寿司屋です。握りが甘いですけど。師匠、材料次第ですが。。たぶん、私のほうが美味い寿司作れると思います。」
料理長「何?私が食べた一番の寿司より美味い?では、今度食わせて納得させてもらおうか。」
大輔「明日の夜の賄いを任せてもらえるなら。準備しますが。」
料理長「いいだろう。玉子焼きは?」
大輔「あれは頼まれてもタダで出すのなら、師匠にしか作りません。あれをタダで出す価値は師匠にしかありませんから。」
料理長「お前。嬉しいこと言ってくれるじゃないか。それ大切な考え方だぞ。タダだからこそ価値ある場合もある。」
翌日の賄いを作るために米を自分で調達して、酢飯を作る。無難なマグロの寿司と、師匠の漬け大根をとろろ芋に浸した巻き寿司を作った。
大輔「皆さんお召し上がり下さい。巻き寿司は醤油つけずにそのままのほうがいいと思います。」
料理長「ん?このマグロは?」
大輔「スーパーで良さそうなの買ってきましたから、食材としては昨日のより劣りますね。」
先生「いや〜。これは美味いな。」
大先輩「巻き寿司。。これ、すごいな。食材の味が生きたままの寿司じゃないか。。」
先輩「いや〜。なあ、俺先輩でいいのか?」
大輔「当たり前です。先に入ったから先輩です。腕は関係なく先輩は先輩です。」
料理長「ん~~。確かに昨日の寿司より美味い。何故だ。」
大輔「師匠。食材によって合う米があります。マグロと大根で米の銘柄を変えています。握りの加減が昨日の店は下手でしたね。食材は確かに上でしたが、寿司の完全品になると、あれでは最高にはなりません。もちろんそこら辺の寿司屋より断然美味いですけど。」
料理長「大根だけだと醤油要るかもな。」
大輔「醤油つけたら師匠の大根の味が台無しになりますので、意味のない寿司になります。味が足りないので、醤油の入ったとろろに漬けました。」
大先輩「すごいな。。料理長。こんなもの作るやつを厨房に立たせないんですか?」
料理長「だから、立たせなくても作れるはずと言っただろう。あれ?女将に言ったんだったかな。。毎朝ずっと見てたの知ってるだろう。厨房に立たなくても既に全部出来るさ。こんなもの作れたらな。よし、明日からはパワーアップだな。大輔も厨房グループで調理だ。」
大輔「はい。ありがとうございます。」
翌日の大輔は、具材を切れば早くて正確。出汁も完璧だった。が、大輔は先輩達の手伝いをする形でアシストに回り、料亭は今まで以上に円滑に料理が作れるようになった。
夜、大輔と料理長だけが残った。
料理長「どうだ厨房は。飲むか?」
大輔「はい。みんなで協力して最高の料理を作るというのは、世話になる前には決して出来なかったこと。師匠のおかげで学ぶことが出来ました。ああ、私は酒は飲めませんので。」
料理長「最高の寿司をご馳走になったんだ。好きなジュースでも飲め。」
大輔「コーラ頂きます。やっと2年でスタートラインに立てた気がします。」
料理長「お前の下地は出来上がった。今から建てるんだよ。デカいビルみたいにな。一人前になる日も遠くなさそうだな。来週からは朝の掃除は全員でやる。お前が戦力に加わったから、出勤時間は全員1時間遅らせよう。」
大輔が本格的に厨房に立ち、全員の労働時間も短縮されることになった。