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「第12話」優子の気づき

 大輔は人生で一番というくらい緊張していた。


優子「あら、あなたずいぶん緊張しているのね。今日はコンサート聴きに行くだけでしょう?」


大輔「あのな?さきさんのコンサートを聴くだけなのは、お前達だけなんだよ。何故か俺は皇太子様の夕食を作ることになっちまった。」


優子「えーっ!皇太子様?何でそんなことになるの!大変じゃない。どうするのよ。。」


長男「父ちゃんすげーな。」

次男「また自慢が増えるな!」


大輔「さきさんが、皇太子様とお友達になったからコンサート呼んだせいだよ。だから今日は別行動だ。」


優子「えーっ。さきさんやみゆさんと話せないの〜。」


大輔「仕方ないだろ!皇太子様のお食事なんだからな?代わりに2日後の夕食は師匠の新店のオープンに招待されている。そこで話せるから今日は我慢してくれ。しかし、緊張するなー。」



 大輔の家族はコンサート会場に行き、席に着く。一方の大輔は皇太子様の料理をみゆ達と懸命に作る。途中までみゆの彼も手伝ったが、撮影の準備のため彼は先に会場に向かった。


みゆ「大将。時間がない!だし巻き玉子は?」


大輔「まだ早い。味が落ちるからだし巻き玉子は最後に作る。冬だから、ほのかに温かい玉子焼きにしたいからな。みゆさん。おかずはどうだ?」


みゆ「全部出来たから、今詰めてるわ。」


大輔「そうか。それなら詰め終わったら、ちょっとウナギ焼くの交替してくれないか。」


みゆ「む、無理よ。ウナギなんて焼いたことない!皇太子様が召し上がるんだよ?それなら玉子焼きを私がやるほうがいいんじゃない?」


大輔「確かに玉子焼きは教えたさ。だが、だし巻き玉子は教えていないからな。。玉子は?」


みゆ「かき混ぜまでやったわ。大丈夫かな?」


大輔「ありがとう。玉子は大丈夫だよ。ちょっと横で指示するから代わりにウナギ焼いてくれ!時間がない。俺は玉子焼きを作り始める。」


みゆ「分かったわ。」


 大輔は特別な出汁を混ぜ、玉子焼きを焼きながら、みゆを指導する。出汁巻き玉子を完成させると素早く切る。


大輔「みゆ、特別だぞ。一番美味いのを食わしてやる。口開けな。」


みゆ「ん?んーー!。。ちょっと何よこれ。。信じられないくらい美味しいじゃないの。隠してたの?」


大輔「まあ隠してはいないけど、玉子焼きを教えろって言われたから。。ああ、端の玉子焼きが一番美味いんだよ。真ん中は。。申し訳ないけど、今日は師匠やさきさん達の弁当にする。冷めるけど、皇太子様に最高の部分を出すためには作るしかないからな。みんなの弁当の玉子焼きだけは仕方ない。」


 大将は玉子焼きを箱詰めすると、素早くごはんを箱詰めし、みゆを見に行く。


大輔「よし、仕上げだ。みゆさん。代わってくれ。」


みゆ「どう?」


大輔「かなりの出来だな。。よし、乗せるぞ。」


 大将がウナギをごはんに乗せると、秘伝のタレを追加する。


みゆ「タレはどうやって作ってるの?」


大輔「内緒だ。というか、あまりに説明が面倒だから無理だ。必要な時は言ってくれたら分けてあげる。みゆさんだけな。このタレはさきさんに頼まれても出さないからな。」


みゆ「何で?」


大輔「ウナギまでさきさんに負けたら俺はミジメだ。」


みゆ「ちょっと小さい男ねー。でも何で私はいいの。」


大輔「お前と彼だけさ。俺の味を作れた人間は過去に1人もいなかったんだぞ。教えてはいないけど、盗んでも作れるやつはいなかった。だから2人は特別だ。たぶん教えたら師匠も出来るだろうが。。俺は教えない。」


みゆ「何でよ。」


大輔「教えてくれと言われなければ教えない。師匠のプライドなら頼むはずがない。他の人は断ったが、師匠なら頼まれたら教える。よし、フタするぞ。」


みゆ「プライドかな?料理長。私にうどん教えてって頼んだよ?」


大輔「そうらしいな。あのな、あの方が料理で頭を下げるなんて俺は聞いたことがない。あなたすごいことなんだぞ。いかん、時間がない。。よし!完成だ。」


 料理を完成させると袋に入れて、皇太子様達の元へ運んだ。


 無事、皇太子様が料理を召し上がるお相手を終えると、急いで着席した。


優子「ねえ、あなた。どうだったのよ?」


大輔「気に入って頂けたみたいだ。いや〜ホッとしたよ。コンサート終わったらすぐにさきさんとまみさんとみゆさんのお母さんの弁当作りに帰る。ああ、師匠にも頼まれたな。お前達の分も作るから、終わったら店に入って食べな。俺はさきさん達の相手するから。少し戻るの遅くなる。」


優子「分かったわ。」


長男「お父さんの料理が食べれるの?」

次男「本当にいいの!」


優子「特別よ。今日だけだからね。」


長男「ねえ、何でお父さんは家では作らないの?」


優子「ああ、それはね。あなた達が小さい頃は作ったのよ。けどね。あなた達が私の料理だと不満気になったから禁止にしたの。お父さんは、毎日は作れないからね。」


大輔「おっ、始まるな。もう緊張することはないから楽しむぞ。」



 さき達のコンサートはあまりに素晴らしく、想像を遥かに超えていた。優子も大輔も涙が止まらなかった。


大輔「いや〜。音楽は素人だが、とんでもなくすごいのは分かった。こんなものはお金払っても一生に1回見れなくても不思議じゃないぞ。そりゃ、皇太子様も見に来られるわけだ。さきさん。すごいな。。何一つ勝てないや。」


優子「まみさんだってピアノ世界レベルらしいじゃない。すごかったわね。みゆさんのお母さんのドラムもカッコ良かったな。ねえ、いくらなの?」


大輔「ああ、1人15000円だ。」


優子「いや、安いわよ。すごいわね。」


大輔「聴く前は高いと思ったけど、確かにこれは安いな。あの方だって自分のコンサートの価格間違ってるじゃないか。。あのな、みゆさんのお母さんは、本来はピアノの先生らしいよ。長くアメリカにいて音楽の世界では結構有名らしい。あれって、もしかしたら旦那さんかな?まあ、明後日会うから話したらいい。さあ、弁当作りに行くから、みんな来いよ。」


優子「えっ!まさか。。そうなの。。そうなんだ。。えっ?ああ、行くわ。」



 子供達は真剣に作る料理と父親の姿に見とれている。

 優子は、みゆさんを見ているうちに弁当が完成した。


みゆ「あら?大将。もしかして、ご家族?」


優子「大将か。いいわね!はじめまして。大輔の妻の優子です。動画拝見してますよ。こら、あなた達!挨拶しなさい。」


大輔「お前ら、おっぱいに見とれてたんだろう?これだけ見事なら男は仕方ないさ。だが人妻だからな。」


次男「違うよ。あまりにも父ちゃんがカッコよくて見とれてたんだ。けど。すごいおっぱいだなー。」


優子「コラ!ちょっと、お兄ちゃんも見すぎよ!」


みゆ「はじめまして。大将には世話になっています。あのー、結婚は大晦日に生配信で報告します。」


優子「おめでとうございます。既に結婚されてたんですね。主人に聞いて動画は拝見していますよ。あの、ちょっと聞いたのですが。。長くアメリカで。。もしかして、お父さんは啓介さんですか?」


みゆ「へー良く知ってますね。ねえ、大将。お母さんはともかく、お父さんって有名人なの?」


大輔「そんなこと俺に分かるわけないだろう。少なくとも俺は知らなかったぞ。」


優子「いや。ちょっと昔の知り合いな気がして。そう。。幸せになったんだね。」


大輔「お前ら、優子。食べな。俺達は師匠とさきさん達に弁当届けてくるよ。解散になったら戻るから、ここで待っててくれ。」



 3人で弁当を食べた。優子すら知らない味だった。あまりの凄さに優子は再び涙が溢れる。


長男「美味い!確かに禁止になるかもな。」

次男「毎日食べたらデブになるな。。あっ!母さんのもいつも美味しいけどな。」


優子「あら、気を遣うこと覚えたのね。でも、これはさすがに私も知らなかった味よ。お父さんすごいわね。さすが一流料亭の一番弟子ね。1人1食10万円でも予約で埋まる有名な料亭らしいのよ?あー。なんだか今日はコンサートからずっと涙が止まらないわ。」



 子供達には言えなかったが、啓介さんが幸せになったのを知り、唯一の後悔が消えたことの嬉しさと懐かしさの混ざった涙だったが、そんなことは子供達は知る由もなかった。



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