「第11話」再会
みゆの彼のイベントでついに再会を果たした師匠と一番弟子。
前から大輔のことは、みゆさんやさきさんから聞いていた。料理長は非常に大輔を気にはしていた。
だが、料理長は照れ。大輔は成功とはまだ言えなかったこともあり、会話はしなかった。
もっとも、あまりのイベントの忙しさと離れたブースのため話す余裕もなかったのだが。
料理長はイベントを終えると急いで、さきさんの家族へのおもてなしの仕事に向かったため、料理長と大将は、結局は頭を下げて挨拶する程度になってしまった。
おもてなしを終えて帰ろうと思ったが、料理長は師匠としてどうかと思い、スーパーを訪ねる。
閉店後の片付けを終えた大輔は、料理長との再会を喜んだ。が、話が全く出来ず別れたため後悔していた。
大輔「久しぶりの再会なのに話せなかったな。。でも、俺は今はいい報告が出来ないから仕方ないよな。しかし、料理長も歳とったな。。ああ、俺もか。」
料理長「年寄りで悪かったな。」
大輔「あれ?師匠。どうしました?こんなところに。」
料理長「こんなところって。お前の城だろう。ああ、今日はイベントの後にさきさんの家族のおもてなしがあったからな。終わったけど、まだスーパー開いてたから見に来たんだ。夢とは違うみたいだが、まあまあ成功してるみたいじゃないか。」
大輔「いい方達の仲間に入れてもらえたからですね。パッとしなかったんですけど、急に良くなったんです。これは、俺の力とは言えないですね。一度は店を開いたんですけどね。12年目に破産したから、仕方なくスーパーの寿司屋になったんです。情けない話ですけど、これが今の俺の姿ですよ。けど、今は収入は増えました。全てみゆさん達のおかげですけどね。そういえば、1万円の弁当ポンポン売れてましたね。いくつ売ったのですか?」
料理長「1000個だ。余ったらさきさんが買い取るから作れって。休日前だから大金払って弟子にも無理やり手伝わせて大騒ぎだったよ。1000個も売れると思ってなかったからドキドキだったよ。あの2人の人気はすごいな。あんな数売れるんだから。全く出品費用も取らないし。考えられない。詐欺にあったグッズまで黒字化したよ。あれは完全に諦めてたのにな。」
大輔「原価3000円くらいですか?」
料理長「弟子の賃金合わせても、そんなものかな?」
大輔「ボロ儲けじゃないですか。700万か。消費税もあるから、もう少し少ないか。」
料理長「お前、計算出来るようになったのか。。外税だ。11000円だ。普通買うか?理解出来ない。1000個なんて恐ろしかった。もちろん値段に負けない力作だけどな。店で売ろうかな。。いや、買うわけないな。」
大輔「良かったですね。私は、苦労しましたから計算も覚えますよ。まあ、失敗もしましたけど、今は幸せですね。」
料理長「良い仲間がいなければ成功しないと言っただろう。だがな、それはお前が魅力的だから仲間が出来たんだ。大切にしろよ。でも、みゆさんの取り合いなら俺は負けないぞ。あの方達と楽しく料理出来るならと思ってな。こちらに引っ越して店を作ると決めた。」
大輔「えっ!ウソでしょう?。。そんなの師匠らしくないですねえ。本気なんですか?東京の店はどうするんですか。」
料理長「ああ本気だ。もう弟子も増えたし、十分回るさ。俺は応援だけか、完全に手放すよ。分野は違うが、俺達はこれから近所のライバルになるんだ。おい。そういえば、お前は俺の一番弟子なんだ。困ったら相談する約束だっただろう。」
大輔「すごく悩みましたよ。頼ろうか悩んだけど、師匠にはいい報告がしたかったんですよ。」
料理長「まあ気持ちは分からんことはないが、ちょっとさみしかったぞ。しかし、みゆさんをきっかけに繁盛したんだな。」
大輔「まあ。確かにそうですが。私は、元はさきさんが助けてくれたからかな。。もちろん。みんなのおかげですけどね。」
料理長「夢はいいのか?」
大輔「家族が幸せで、仲間に恵まれたら。。夢はいいかな。」
料理長「夢やこだわりは捨てる時期かもな。それが歳を取ったというかも知れないな。たぶん、いいことなんだろうな。仲間のためなら夢も考え方も変わるんだな。お互い頑固なのにこうなるんだから。。しかし。みゆさんは当然とも言えるが。。さきさんに負け、さきさんのお母さんにも負けるとダメージデカいな。。」
大輔「あー。もしかしてカレーですか。師匠も負けを認めたんですか。。あれはすごいですね。料理人人生を否定された気がしましたよ。」
料理長「いや〜。確かにそうだがな。あれなんだよ。心から離れない料理ってあれなんだ。勉強になったよ。味が良ければいいとは限らないんだ。まあ、俺は玉子焼きでお前には負け、寿司はいい勝負かもしれないが。。うどんはみゆさんに負け。さきさんとさきさんのお母さんにまで負けたよ。料理人のプライドはズタズタだ。」
大輔「分かりますよ。けど、なんか悔しくないんですよね。」
料理長「確かにそうだな。俺なんか、みゆさんに頭下げてうどんを教わったからな。」
大輔「ウソでしょう?やめて下さいよ。俺の師匠なんですよ?人に教わることはないって言ってましたよね。でも、俺に玉子焼きは聞かないんですね。」
料理長「あれは聞かないさ。研究したところで、せいぜい同じくらいだろう。引き分け以下だ。勝てないことを知っている。」
大輔「みゆさんと彼は半日で覚えましたよ。」
料理長「おいおい。ウソだろうはこっちのセリフだ。お前が教えただと?あり得ない。」
大輔「もちろん最初は断りましたよ。でも、さきさんに断れなくされてしまいました。だから俺の成功の始まりはさきさんなんです。あの方を敵に回すのは最も怖いですからね。怒ると師匠なんか比較にならないですよ。」
料理長「俺は怒られたことはないが、恐ろしい切れ味なのは分かる。あの判断力の凄さと先を見る能力が優れた方は過去に見たことがない。ゆなさんもすごいしな。」
大輔「あの方はものすごい綺麗な方ですね。輝いてる感じなんですよね。俺、てっきり片手間で陸上やってると思ってたら、あっという間に日本一ですからね。しかしあれは泣いたな〜。」
料理長「仲間に入れてもらえただけで幸せさ。また来るよ。今後は師匠と弟子じゃないからな。友人だ。」
大輔「まあ。分かりましたけど、師匠は師匠ですから、呼び方は変えません。」
料理長「相変わらず頑固だな。帰るよ。」
帰宅すると、大輔はしみじみ酒を飲む。
優子「あなた。嫌なことでもあったの?」
大輔「懐かしいような。悲しいような。嬉しいような。。良く分からないけど。まあ、気分は悪くはないな。」
優子は、今日はそっとしようと思った。
※※※
数日後、大輔はハイテンションで帰宅した。
優子「ちょっとあなた。最近、感情の起伏が激し過ぎるわよ。大丈夫?まず、落ち着くために、ごはん食べましょう。」
大輔「あのな。師匠がな。師匠が、俺の店を手伝いに来てくれたんだよ!有名人なんだぞ。ほら、知ってるだろう?」
長男「見たことある!」
次男「どれ?うわっ、本当だ!父ちゃん知り合いなの?」
大輔「知り合いも何も。。俺の料理の先生だからな!わざわざ師匠がだぞ。俺の厨房で寿司握って。。店頭に立ってくれたんだよ。信じられないよ。」
優子「えーっ。。ちょっと!あなた、この方の弟子だったの!とんでもないじゃない。。すごいわね。連絡したの?」
大輔「いや、みゆさんの料理に惚れ込んでな。師匠、みゆさんに夢中なんだ。前にみゆさんの彼のイベントに一緒に参加したけどな。あの方はすごく忙しい方だから。あの日に話に来てくれたけどよ。今日は手伝いに来てくれたんだ。まさか手伝いに来てくれるとは。。再会はともかく。こんなことはあり得ないよ。師匠、すっかりみゆさんやさきさん、ゆなさんにも惚れ込んでな。東京の店を弟子に任せて引っ越してくるってさ。」
優子「すごいわね。有名料亭を手放すの!そこまでして。。」
大輔「みゆさんはすごいよ。絶対に作らない師匠に2号店を作らせるんだから。あんな頑固な人はいないからな。ああ、さきさんのほうが頑固かな?あっ!そういえば。師匠さあ、さきさんの料理に負けを認めたらしい。俺だけじゃないみたいだよ。本当に良かった。俺だけじゃないんだ。安心したよ。ああ、そういえば師匠のチャンネルにみゆさん達が出る動画さあ、今日アップするらしいよ。」
優子「えっ。あんた達。食事終わり!動画見ないと。片付けお願いね。」
無理やり夕食を終了し、動画に夢中になる優子だった。
【お知らせ】
全話のあとがきに一律宣伝でいれますが、この物語は
SAKI 〜〜 ある少女の人生物語 〜〜
https://ncode.syosetu.com/n9739iq/
の登場人物の寿司屋の大将の物語です。