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悪役令嬢人形劇  作者: 柚屋志宇
第1章 わがままな義妹に婚約者を奪われました
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1-09 アンフェール要塞

「アンフェール要塞に?!」


 あまりの驚きに、マリスは思わず国王に問い返してしまった。

 モンストル公爵夫妻もこれには大きな驚愕の表情を浮かべた。


 ――アンフェール要塞。


 それは辺境の地にある防衛の要の一つである。


 アルカナ王国は概ね平和であるが、辺境の地には戦がある。

 中でもアンフェール要塞は、気性の荒い小部族との小競り合いや、魔物の氾濫などが頻繁に勃発する地域に置かれた要塞だ。


「リオネルには近々名誉将軍の地位を与える。リオネルは名誉将軍としてアンフェール要塞へ赴き、そこで王族としての責務を果たす」


(名誉将軍……)


 名誉将軍は、実際に軍務に当たる将軍とは違い、おそらく権限のないお飾りのような将軍なのだろう。

 リオネル王子という人を知るマリスには、それが確信できた。

 常識に疎く、独特な発想で後先を考えずに命令を下すリオネル王子に指揮を執らせたら、どんな現場でも混乱する。

 卒業祝賀会での婚約破棄騒動が良い例だ。

 ましてや国の防衛の要の一つであるアンフェール要塞で、リオネル王子に指揮を執らせるのは自滅行為。

 最悪、国が滅ぶかもしれない。


(要塞で、リオネル王子にも出来る王族の責務……。応援係かしら?)


 しかし応援係とはいえ、戦闘が起こる要塞に身を置くからには、安穏とした生活ではないことが容易に想像できる。

 リオネル王子が戦闘に参加することはないだろうが、王都のような落ち着いた暮らしはできないだろう。

 辺境は物資が不足しており、何かと不便だとも聞く。

 王宮で何不自由なく暮らしてきたリオネル王子には、辺境での生活は相当厳しいものになるはずだ。


(アンジェリクがこれを知ったら、きっと酷く悲しむでしょうね)


 アンフェール要塞は王都から遠く離れた辺境にある。

 また蛮族や魔物が出没する危険な土地だ。

 女性の身で気軽に行けるような所ではない。


 リオネル王子とアンジェリクは離れ離れになるだろう。


(むしろそこまで考えて、リオネル王子殿下を身綺麗にさせるために、国王陛下は遠く辺境のアンフェール要塞に送り出すご決心をなさったのかしら)


「イシドール・ドルレアクとフロラン・ノエもアンフェール要塞に赴任する。二人はリオネルの副官となる」


 ドルレアク宰相の息子イシドールと、ノエ将軍の息子フロランは、婚約破棄の騒動のときにマリスの罪状を高らかに述べていたリオネル王子の側近二人だ。


「……王立魔法学院の卒業祝賀会であれだけの事をしでかしたのだ。やむを得まい。ドルレアク宰相とノエ将軍も納得している」


 国王が苦い表情で語った。


 魔法が国力を左右するこの世界において魔法使いは重要な人材である。

 ゆえに王家は魔法使いを育てるための魔法学院を設立し、基準を満たした魔法使いには魔法学士の位を与えているのだ。


 王立魔法学院の卒業祝賀会は公式行事であり、居並ぶ面々は政治の中枢にいる重鎮たちだった。

 リオネル王子の婚約破棄騒動は、その王立魔法学院の卒業祝賀会での出来事だ。

 国王、大臣、各省庁の代表、有力貴族たちの目の前で行われたのである。


「運の悪い事に、アブラーゲ帝国の皇子と大使まで居た。リオネルの醜態はすでに国外にも漏れている。騒動を起こした者らには何らかの罰を与えねば示しがつかん」


 そう語る国王の隣りで、王妃は物憂げに目を伏せた。

 リオネル王子はまるで何も聞こえていないかのように呆然としている。


「今のままのリオネルでは、家臣たちは王太子として認めぬ。罰を与えねば不平不満も出る。此度の要塞勤務はリオネルへの罰だ。しかし軍人として要塞で働き、国の盾となり働いたという実績を積めば、王太子としての求心力もいずれ取り戻せよう」


 国王のその説明に、王妃は悲愴な表情で項垂れた。


 ――そのとき。


 部屋の扉がバンと勢いよく開かれた。

 その音に、皆が弾かれたように顔を上げる。


「なっ!!」

「っ?!!」


 開かれた扉の外に立っているのは、ピンク髪に金色の瞳の美少女。

 使用人のような飾り気のない地味なドレスを来たアンジェリクだった。


「い、一体……っ?!!」


 有り得ない事態に、皆が驚愕に目を見開いた。


 ここは王宮の一室である。

 何故ここにアンジェリクが飛び込んでくるのか。

 アンジェリクは何故、使用人のような恰好をしているのか。

 門番は、衛兵は、何故アンジェリクを通したのか。


 国王の元へ、不審者が何故こうもやすやすと飛び込んで来たのか。

 王宮の警備はどうなっているのか。


 アンジェリクの登場により、様々な問題と謎が一気に溢れ、その場にいる皆の思考は謎の多さに耐えかねて麻痺した。


「……アンジェリク!」


 人形のようだったリオネル王子の目に、光が戻った。

 アンジェリクは王者のように不敵な態度で、リオネル王子に天使のような微笑みを返した。

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