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悪役令嬢人形劇  作者: 柚屋志宇
第1章 わがままな義妹に婚約者を奪われました
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1-08 婚約破棄の後始末

「マリス、先日は不快な思いをさせた。大変申し訳なく思っている」


 王宮の一室。

 マリスはリオネル王子から謝罪を受けた。


「今後二度と、あのような行いはしないと誓う。どうか許してほしい」

「滅相もございません。リオネル王子殿下、どうかお気になさらないでください」


 機械仕掛けの人形のように抑揚のない声でマリスに謝罪するリオネル王子の背後では、国王と王妃が様子を見守るようにしている。


(国王陛下と王妃殿下に、こってり絞られたのね)


 マリスは、王家の家庭状況を察した。


「では、第一王子リオネル・ゼフィール・アルカナと、モンストル公爵令嬢マリス・ミシェール・モンストルの婚約を解消する」


 国王夫妻とリオネル王子、モンストル公爵夫妻とマリスは、向かい合う形でテーブルの席に着いた。

 その場で、国王とモンストル公爵の合意の元に、リオネル王子とマリスの婚約は解消された。


 婚約破棄ではなく、合意による婚約解消となった。

 卒業祝賀会では婚約破棄を居丈高に叫んでいたリオネル王子は、生気のない呆けたような表情で、すっかり恭順を示している。


 和解金や今後の取り決めなどについて、国王とモンストル公爵が話し合い、それぞれ書面にサインをする。

 マリスはその様子をぼんやりと見つめていた。


(意外と平気なものね)


 貴族令嬢にとっては、婚約破棄は当然として、合意による婚約の解消も大事件と言える。

 だがマリスには特に絶望感のようなものはなかった。


 強いて言えば、今まで負担であった仕事が無くなり、さっぱりしたような、少し寂しいような気分があるだけだ。


 未来の王妃として、王宮で数々の進講を受けたが、王妃にならないからといって身に付けた知識や教養が無駄になるわけではない。

 むしろ国一番の最高の講師たちの最高の授業を受けられたことは幸運だったと言える。


「私が責任をもって、マリスに良縁を探します」


 両家によって作成された書面を、書記官が持って退室すると、王妃が慈愛に満ちた眼差しで言った。


「ご厚意痛み入ります」


 モンストル公爵が王妃に感謝の意を述べたが、王妃は微妙に表情を揺らした。


「マリスの気持ちを優先してさしあげたいわ。無理強いはしたくないの」


 王妃はマリスに顔を向けた。


「マリス、もし気が進まなかったら断ってもいいのよ。今回の騒動はリオネルの我儘がもたらした結果。次はあなたが何か我儘を言う番よ。何かやりたいことや、欲しい物があるなら私に相談しなさい。それでようやく、おあいこよ」


(気持ち……。やりたいこと……。欲しい物……)


 王妃の言葉に、マリスは初めて気付いた。


(何もない……。私ってこんなに空っぽだったの?)


「マリスには今まで負担をかけてしまっていたんですもの。しかもこんなことになってしまって……。本当に申し訳なく思っているわ。何か望みがあるなら叶えてあげたいの。償いをさせてちょうだい」


 王妃は眉を下げた。


 その王妃の隣りで、リオネル王子は魂が抜けたような虚無の表情で、ずっと黙って座っている。


(あんなにションボリして。何か厳しいお達しがあったのかしら)


 白髪紅目で美貌のリオネル王子は、呆けていても一幅の絵のように美しく、その姿はあたかも微睡(まどろ)む詩神のようで幻想的ですらある。

 だが婚約者として近しい距離での付き合いがあったマリスから見れば、リオネル王子は明らかにションボリしていて気が抜けていた。


「恐れ入ります、一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」


 マリスがそう切り出すと、国王夫妻は穏やかな笑顔で答えた。


「もちろんだ」

「ええ、何でも言ってちょうだい」


「リオネル王子殿下は、今後どうなされるのでしょう」


 マリスの質問に国王夫妻は表情を曇らせた。


「マリス、控えなさい」


 モンストル公爵がすぐにマリスを諫めたが、国王は片手を上げてモンストル公爵を制した。


「良い、良い。いずれ知れることだ」


 国王はマリスに顔を向けると、リオネル王子の今後を語った。


「リオネルは一年間、アンフェール要塞へ赴任することになった」

「えっ?!」


 あまりのことに、マリスは思わず驚きの声を漏らした。

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