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悪役令嬢人形劇  作者: 柚屋志宇
第1章 わがままな義妹に婚約者を奪われました
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1-05 ご病気です

「リオネル王子殿下はご病気です」


 リオネル王子に対し、ノエ将軍は慇懃無礼な態度で言った。


(はよ)うご退出を。殿下はお休みせねばなりませぬ」


「私はどこも悪くなどないぞ!」

「いいえ、ご病気です。ささ、早う、早う」

「なぜ私が退出せねばならぬのだ! 私は卒業生だぞ!」


 リオネル王子が頑なに退出を拒否すると、ノエ将軍は部下に命じた。


「王子殿下をお運びしろ」

「はっ!」


 部下たちはさっとリオネル王子の体を抱え上げた。


「な、何をする! お前たち、不敬だぞ! 離せ!」


 抱え上げられたリオネル王子は、手足をばたばたさせて喚き散らした。

 だがノエ将軍の屈強の部下たちにとって、リオネル王子はモヤシほどのものでしかないのか、彼らは担ぎ上げたリオネル王子を黙々と運搬した。


「リオネル様!」


 リオネル王子から引きはがされたアンジェリクがピンク髪を振り乱し、ノエ将軍の部下たちにすがった。


「リオネル様を離して!」


 アンジェリクは運搬されるリオネル王子を追いかけ、何か叫びながら、部下たちの後を付いて行く。


「父上、これは一体どういうことです! 王子殿下にあのような不敬な仕打ちをなさるとは、一体どういうおつもりですか!」


 リオネル王子の側近フロラン・ノエが、父親であるノエ将軍に食って掛かった。

 だがノエ将軍は澄んだ湖のような静かな眼差しで、息子の問いかけに答えた。


「……殿下はご病気なのだ……」


 リオネル王子の騒がしい退出を、皆が皆、呆然と見送った。






 リオネル王子が急病で退出した後、卒業祝賀会は平常を取り戻した。

 皆、どこかぎこちない素振りではあったが、歓談の波が戻った。


「マリス殿、どうかこの花を受け取って欲しい」


 鳶色の髪のトビー皇子は、先程の求婚の際に差し出した真紅の薔薇の花束を、マリスにもう一度差し出した。


「いえ、あの、申し訳ありません。まだ婚約破棄の正式な手続きが終わっておりません。私はまだリオネル王子殿下の婚約者です。受け取ることはできません」


「では友好の印として受け取ってくれないか。貴女のために用意した花なのだ。ぜひ受け取って欲しい」


(ん……?)


 真紅の薔薇の花束は、求婚の際に捧げられる定番の花である。

 すでに婚約者がいる令嬢や、既婚の夫人に、婚約者や夫以外の男性が捧げる花ではない。


 そしてマリスは今日突然、リオネル王子から婚約破棄を言い渡された。

 婚約破棄の予定を知らなければ、マリスのためにあらかじめ真紅の薔薇の花束を用意することは有り得ないのではないか。


「トビー皇子は、私が今日、婚約破棄されることをご存知だったのですか?」


 マリスが尋ねると、トビー皇子は爽やかに微笑んだ。


「ああ、知っていた。夢で見たからね」

「夢?」

「卒業祝賀会で、君がリオネル王子に婚約破棄される夢を見たのだ。これは求婚のチャンスだと思い、急いで花束を用意した」

「……」


 夢と現実の区別がついていないトビー皇子の話に、マリスは笑顔を硬直させたままで後退った。


「トビー皇子殿下、改めてご挨拶申し上げます」


 マリスとトビー皇子の間に、リオネル王子の薄い影のような地味な弟王子、灰色の髪に紫の瞳のエルネスト王子が割り込んだ。


「アルカナ王国第二王子エルネスト・ギレム・アルカナです。殿下とは学院で何度かお話しさせていただいております」

「ああ、知ってる、知ってる。私は君が王子だと知っていたからね」


 トビー皇子は気さくな口調でエルネスト王子の挨拶に応じた。


「ところでエルネスト君、私は今、取り込み中だ。話は後にしてくれないか」


「恐れ入りますが、トビー皇子殿下、本日は学院の卒業祝賀会です。我が国の風習では、卒業祝賀会は女性を口説いてよい行事ではありませんので、あしからずご了承いただきたい。もし我が国の女性たちとの交流をお望みなのであれば夜会にご招待いたします」


 エルネスト王子は慇懃無礼な笑顔でトビー皇子を牽制した。


(助かったわ)


 エルネスト王子の登場に、マリスはほっと胸をなでおろした。


「マリス、あちらで少し休もう」

「はい」


 マリスを促したエルネスト王子に、トビー皇子は不服そうな顔で抗議した。


「君こそ、それは口説いているんじゃないのか?」

「兄と彼女の婚約はまだ継続中です。私は家族として彼女を遇しております」






「エルネスト王子殿下、助かりました」

「役に立てたのなら良かった」

「ところでどこまで行くのですか?」


 エルネスト王子が広間から出ようとしているので、マリスは行先について尋ねた。


「休憩室だ」


 エルネスト王子は少し難しい顔をして答えた。


「君に少し尋ねたいことがある」

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