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悪役令嬢人形劇  作者: 柚屋志宇
第2章 オカルト結婚式

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33/42

2-15 鍵部屋の選挙

 ――アルカナ王国、王太子宮。


「聖女アンジェリクが本当に現れたの?!」


 王太子妃マリスは驚きの声を上げると、王太子エルネストに問い返した。


「本当に?!」

「特徴は一致してる」


 エルネストが聖都テネブラエへ送っている部下からの報告によれば。


 聖女アンジェリクは十六歳。

 ピンク髪に金色の瞳、天使のように愛らしい容姿。

 リオネル枢機卿の推薦で『神の審判』を受け、聖女に認定された。

 飛びぬけた魔力量ゆえ、筆頭聖女の肩書を得て、教皇騎士団への入団も許されたという。


「ピンク髪に金色の瞳は、他人の空似だとしても凄い確率ですね」


 ピンク髪はかなり珍しく、金色の瞳もそこそこ珍しい色だ。

 この二つの希少な色の組み合わせを持つ者となると、大陸全土を探したとしてもそうは居ないだろう。


「リオネル様にだけ見える霊魂のアンジェリクとは別人だったとしても、似ているなら……心配ですね」

「兄上が結婚するって言いださないか心配だよね」

「ええ……」

「聖職者は結婚できないってことくらい兄上も知っていると思うけれど。心配だから手紙を出して念を押しておこうか」

「リオネル様は意外なことをご存知なかったりしますものね」

「愛の伝道師だの何だのと、以前に変な事を言っていたから、心配だ」


 マリスとエルネストはこの件を検討し、打てる手を打つことにした。

 なるべく早めに予定を調整してテネブラエへ行き、直接リオネルと話し合い、最悪の場合にはリオネルを強引に連れ帰る算段をした。


 アルカナ王国からの二人目の枢機卿はもともと歓迎されていないはずで、ゆえにリオネルが急病により枢機卿の位を辞退をしたら、教皇庁はむしろ喜ぶだろうとマリスとエルネストは考えた。


 その考えが間違いだったとマリスとエルネストが知るのは、それからまもなくの事だ。

 そして二人がそれを知るより前に、事態はすでに手に負えない状態に発展していた。






「教皇ドナシアン五世聖下が退位?!」


 聖女アンジェリク登場の報をマリスとエルネストが受けてから、半月ほど後。


 教皇ドナシアン五世の退位の報が、大陸全土を駆け巡った。


 王宮でその知らせを受けたエルネストは、仕事を終えて王太子宮の居住区に戻るやいなや、すぐにマリスにそれを知らせた。


「聖下はご高齢ゆえ、健康上の理由で退位なさるとのことだ。問題は、このあとの『鍵部屋の選挙』だ」


 枢機卿たちの投票により、枢機卿の中から新教皇が選ばれる。

 その新教皇を決める選挙は、教皇庁の鍵が掛けられた密室で行われるため『鍵部屋の選挙』の通称で呼ばれていた。


「リオネル様には、ルクソリア王国出身のマリウス枢機卿に投票してもらわねばなりませんものね」

「そうなんだ。関税の優遇を継続してもらうためにも、ルクソリアを裏切るわけにはいかない。とり急ぎ兄上とシャミナード枢機卿に使者を送ったよ」


 ニール教信者に絶大な影響力のある教皇の座を巡って、水面下では国家間の駆け引きが行われる。

 選挙に協力する代わりに交換条件を飲んでもらうなどの密約が交わされるのだ。

 水面下での国家間の取引が常態化しているため、次の教皇は『鍵部屋の選挙』が始まる前に大体決まっていた。


「いくら兄上でも、さすがに、投票用紙に自分の名前を書くようなバカな真似はしないと思うけれど……。心配だ……」


 自信家のリオネルは『鍵部屋の選挙』で投票用紙に自分の名前を書くかもしれないという、エルネストのその悪い予感は的中することになる。

 だが状況はエルネストの予想とは大分違い、想像を絶するものとなるのだが。


「リオネル様がご自分に投票なさっても死票となるだけですから、むしろ安心かもしれません。敵側に投票するよりは……」

「今回の選挙は五分五分らしい。ルクソリア王国は、アルカナ王国が持つ二票を期待している。兄上の一票を無駄にはできない」






 聖都テネブラエの教皇庁で、教皇を選出する『鍵部屋の選挙』が行われた。


 ――カラン、カラーン。


 枢機卿たちによる『鍵部屋の選挙』が始まって、数時間後。

 大聖堂(カテドラル)鐘塔(カンパーニレ)が高らかに鐘を鳴らした。


 新教皇の決定を知らせる鐘の音だ。


 ――カラン、コローン。


「おお!」

「新教皇のお出ましだ!」


 選挙が終わると、新教皇が大聖堂のバルコニーに姿を現す。

 そのため大聖堂の前の広場には、新教皇の尊顔を拝謁しようと大勢の聖職者たちが集まり、バルコニーを見上げて待ち構えていた。


「あれは……っ!」

「あのお方は!!」


 教皇の白の衣をまとい、颯爽とバルコニーに現れたのは……。

 白髪紅目の美貌の若者。


「教皇リオネル聖下!」

「神よ! リオネル聖下に祝福を!」

「祝福を!」


 広場に集まった聖職者たちは、まるで神の降臨を拝むかのように、新教皇となったリオネルを称えた。






 教皇庁の『鍵部屋の選挙』で十割の票を集め、リオネル枢機卿が新教皇に選ばれた。

 史上最年少の若き美貌の教皇リオネル一世の誕生であった。

 新教皇リオネル一世就任の速報は、聖都テネブラエに集っていた各国の使者たちにより各々の祖国へと早馬で伝えられた。






「リオネル様が新教皇に?!!」

「そうなんだ。まずい、非常にまずい!」


 その日、王太子エルネストが王太子宮に帰宅できたのは夜遅くだった。

 新教皇リオネル一世就任の速報が飛び込んで来たため、王宮で緊急会議が開かれたためだ。


「どうしてそんなことに?!」


 予想もしていなかった事態にマリスは動転してエルネストに問い掛けた。

 エルネストは眉間に深い皺を刻んだ。

 

「まったく解らない。でも抜け駆けを疑われる。こちらも寝耳に水なのに……!」


 アルカナ王国に限らず、教皇選挙の結果を受け取った各国の上層部は騒然となっていた。


 水面下の争いはあれど、戦争にまでは発展することなく、諸国は今まで均衡を保っていた。

 しかし新教皇リオネル一世の誕生により、諸国は雨季の空のように不穏に揺れた。


 各国間を連日、親書を持った使者が行き交う。

 特に新教皇リオネル一世の母国アルカナ王国では、国王も王太子も大臣たちも、各国の要人との会談に明け暮れることとなった。






「兄上のおかげで散々な目にあった」


 王太子エルネストは久しぶりの休日を王太子宮で過ごしていた。


「西方同盟に加入できたことは良いことではありませんか。貿易がしやすくなります」


 マリスがそう言うと、エルネストは疲れたように笑った。


「貿易が発展するのは良いんだけど。その代わり有事には援軍を出さないといけない。アルガンディア帝国との間に火種を抱えている西方同盟には、できれば触りたくなかったんだよなあ。戦争が起これば、教皇の口添えも期待されるだろうね」


 アルカナ王国の元王子リオネルが、新教皇リオネル一世となったことで、アルカナ王国は大陸の嵐の中心になった。


 しかもリオネル一世は若い。

 万が一のことが起こらない限り、半世紀ほど教皇の座に留まるだろう。

 各国はアルカナ王国に様々な取引を持ち掛けて来た。


「でもまあ、ようやく落ち着けるかな」


 新教皇リオネル一世の誕生に騒然となった諸国も、各国間での話し合いが進み、次第に落ち着きを取り戻しつつあった。


「このまま何事も起こらないことを祈るよ」


 エルネストの願いむなしく。

 ほどなくして次なる騒動が幕を開けた。






「聖職者の結婚を禁じる教会法を、撤廃する!」


 教皇リオネル一世のその宣言は、大陸中のニール教徒たちを震撼させた。

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― 新着の感想 ―
 テネブラエ側とアルカナ側との温度差が……。 双方の認識と情報の齟齬が致命的ですね。
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