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悪役令嬢人形劇  作者: 柚屋志宇
第2章 オカルト結婚式

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2-07 聖都テネブラエ

 ――聖都テネブラエ。


 それはニールの神に選ばれし勇者が、魔王を倒したとされる聖地だ。


 千五百年前、世界は魔王の支配により暗黒に覆われていた。

 魔物の跋扈する暗黒の世界を憂いたニール神は、一人の人間の勇者に光魔法を与え、魔王討伐を命じた。


 勇者と魔王との最終決戦、伝説の聖戦が行われた地。

 その地こそがテネブラエだ。

 ニール神に与えられし光魔法により、勇者は魔王を倒し世界に光を取り戻した。


 そしてテネブラエはニール教の聖地となった。

 テネブラエには、勇者がニール神を祀るために建立した小さな祠『勇者の祠』があり、その勇者の祠の中には聖戦に使われた聖遺物たちが収められていた。


 しかし……。

 聖地となったテネブラエは以来、千年の間、ニール教を信仰する国々の間で幾度となく所有が争われ、領土戦争の火種となった。

 だが五百年ほど前に、当時勢いのあった三国の主導で、聖地テネブラエをどこの国にも所属しない独立した都市国家と定め、不可侵とする条約が周辺国家間で結ばれた。


 それが絶対不可侵の独立宗教都市国家、聖都テネブラエの始まりだった。

 不可侵条約により、聖地の所有を争う宗教戦争は終結した。


 とはいえ水面下での戦争は今でも続いている。

 それは聖都テネブラエの元首たる教皇の座をめぐる政争だ。


 諸国が国教として信仰するニール教の、その信者たちの頂点である教皇を味方につければ、政治的に大きな利益がある。

 特に国家間の争いが起きた時、教皇が味方であれば大義を得やすくなる。

 ゆえに各国は子飼いの聖職者を、教皇の候補者であり選定者である枢機卿として推薦し、聖都テネブラエの教皇庁へと送り込んでいた。






 ――聖都テネブラエ、大聖堂(カテドラル)


「こ、これは!」


 アルカナ王国のリオネル司教が、聖都テネブラエに到着した。

 類稀な光魔法の使い手である聖人、という触れ込みで枢機卿に推薦されていたリオネル司教は、早速、大聖堂にて『神の審判』を受けることになった。


「この輝きは……っ!」

「まるで伝説の……!」


 大聖堂で神の審判に立ち会った者たちは驚愕した。

 白の僧衣の教皇も、緋色の僧衣の枢機卿団も、黒の僧衣の聖人聖女や司教や司祭たちも、目の前で起こった驚天動地の奇跡に(おそ)(おのの)いた。


 リオネル司教が手にするや否や、聖遺物である聖杯は、未だかつて誰も見たことのないような輝きを放ったからだ。


 過去の神の審判において、聖人聖女たちは聖杯を月のように仄かに発光させていた。

 しかしリオネル司教が手にした聖杯は桁違いの輝きを放った。

 リオネル司教の光魔法を得た聖杯は、まるで太陽のように輝き、大聖堂の中を明るく照らし出した。


 司教の黒衣を纏い、太陽のごとく輝く聖杯を手にした白髪紅目の美貌のリオネル司教。

 その姿は神々しく、勇者降臨の宗教画そのものだった。


 ――ポタリ……。


 リオネル司教が手にした聖杯から、緑色の液体が滴り落ちた。


「あ……、何か出てる」


 リオネル司教は間の抜けた声でそう言うと、緑色の液体で満たされている聖杯をそっと台の上に置いて手を放した。


「この聖杯、魔力を注ぐと変な色の水が出て来る。これ以上続けると台が水びたしになりそうだが、まだ続けるか?」


 伝説によれば、この聖遺物である聖杯は、無限に回復薬(ポーション)が湧き出る聖杯であったという。

 魔王討伐の助けとしてニール神が勇者に与えた神器だ。


 回復薬(ポーション)は緑色の液体だった。


「……」


 光魔法により聖杯を輝かせる聖人聖女は今までにいた。

 しかし聖杯にポーションが湧いたことは今までに一度もなかった。


 聖都テネブラエが独立都市国家となって以来の五百年間の記録の中には、聖遺物の聖杯が輝いたという記述はあれどポーションが湧いたという記述はなかった。


 ゆえに現代においては、聖杯から無限にポーションが湧いたという言い伝えは真実ではなく、実際には水魔法による水だったのではないかと考察されていた。


「……」


 その場に居並ぶ者たちは声もなく、リオネル司祭が台の上に置いた、不思議な緑色の液体で満たされた聖杯を呆然として見つめていた。


「……か、神が……お認めになった……!」


 老齢の教皇の絞り出すような声が、大聖堂の中に響き渡った。


「リオネル司教はまごうことなき光魔法の使い手……! 聖人である!」

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