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悪役令嬢人形劇  作者: 柚屋志宇
第2章 オカルト結婚式

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2-03 廃太子、その後

「マリス、お前とリオネル王子殿下との婚約は解消された」


 王宮の祝賀会で、リオネル王子が騒動を起こした数日後。

 マリスは父であるモンストル公爵から、リオネル王子との婚約が正式に解消されたことを聞かされた。


「しばらくは静かに過ごすが良い」

「リオネル王子殿下はどうなったのですか?」

「殿下は廃太子となった。そして……」


 モンストル公爵は、腑に落ちないとでも言うかのような微妙な表情を浮かべた。


「クルーネの司教に就任された」

「……え……?」


 公の場で王太子としての資質を疑われるような騒ぎを起こしたリオネル王子が、廃太子となったことは、残念だが妥当な結果といえる。

 そして王位から遠ざかった王族が、聖職者となり教会で地位を得ることは珍しいことではない。


 しかし教会といえど、地位を得れば表に出ることになる。


 表に出すことがはばかられる状態のリオネル王子は、どこかの離宮で療養することになるだろうと思っていたマリスは首を傾げた。


「リオネル王子殿下を、表に出したりして、大丈夫なのですか?」

「大司教の推薦があり、陛下がご判断された」


 モンストル公爵は肩を窄めた。


「そういうことですか……」


 この国の宗教の頂点に立つ大司教は、国王の実弟だ。

 政治から遠ざけられたリオネル王子を、叔父である大司教が面倒を見ることになったのだろうとマリスは思った。


「すでに婚約は無事に解消された。今後、殿下が何か問題を起こしたとしても、我が家に被害が及ぶことはないだろう」

「そうですね……」

「それから、エルネスト王子殿下からお前に招待状が来ている。祝賀会でのことを謝罪したいとのことだ」






「ふつつかな兄が申し訳なかった」


 第二王子エルネストの招きに応じ、マリスは王宮へ行った。

 王宮の庭園の四阿(あずまや)でマリスはエルネスト王子と二人で話をした。


 侍従や侍女たちは距離をとって控えているので、会話を聞かれることはない。


「マリスには長い間、兄上の空想のことで苦労をかけたね」


 エルネスト王子はマリスの今までの苦労をねぎらった。


「いいえ、私の苦労など、エルネスト王子殿下のご心労に比べたら微々たるものですわ」

「マリスはずっと兄上の奇行に耐えてくれていたのに、結局あんなことになってしまって、本当に申し訳なく思っている。まさか兄上が、皆の前であんなことを言いだすとは思わなかった」

「あれには驚かされました。今までリオネル王子殿下は……」

「もう兄上は王子ではないよ」

「失礼しました。リオネル様は、今までおかしな言動はあっても、公の場では奇行を控えていらっしゃいました。あの空想の恋人は、魔法学院の中だけの空想だと思っておりました」

「いや、王宮でも言っていたよ。王宮でアンジェリクと二人だけの茶会を何回か催していた。もちろん兄上一人しかいない茶会なんだけどね」

「それは……何というか……」


 奇妙で寂しい話にマリスは曖昧に微笑した。


「イシドール様とフロラン様はどうなりましたか?」


 リオネル王子と共にアンジェリクの幻想を共有していた側近の二人、宰相の息子イシドールと将軍の息子フロランについてマリスは尋ねた。


「彼らは一か月の謹慎処分となった。だが二人とも自主的にアンフェール要塞の兵士となった」

「志願したのですか?」

「ノエ将軍は息子の愚考を許さず、フロランはノエ将軍の命令で一兵卒としてアンフェール要塞へ送られることになった。形式的には志願だが家長命令だ」


 リオネル王子の側近フロランは、祝賀会でリオネル王子を力づくで退場させたノエ将軍の息子だ。


「それを聞いたイシドールは自らアンフェール要塞行きを希望し、ドルレアク宰相がこれを許した。こちらは正真正銘の志願だ」

「イシドール様は何故志願したのでしょう?」


 アンフェール要塞は辺境の地にある要塞だ。

 アルカナ王国はおおむね平和だが、辺境には戦闘がある。


 ノエ将軍の息子フロランが兵士となるのは、武家の息子として解らなくないが、イシドールはドルレアク宰相の息子で文官肌だった。


「彼なりに今後を考えてのことだろう。気狂いの王子に同調していたのは失態だ。無能の烙印を押される。だがアンフェール要塞で軍人として働いて帰ってくれば、一目置かれる」

「なるほど。やはりイシドール様は賢いお方ですね」


 マリスはイシドールの処世術に感心した。

 そんな賢いイシドールが、何故リオネル王子の妄想に同調していたのかマリスは疑問に思った。


「あの二人はどうしてリオネル様に同調していたのでしょうか」

「イシドールは兄上の機嫌を損ねないように話を合わせていたらしい。以前、兄上の機嫌を損ねて側近を下された者がいたから、彼なりの処世術だったようだ」

「ああ……」

「フロランは、あれを兄上の王室ジョークだと思っていたとのことだ」

「王室ジョーク?」

「冗談が通じない頭の固い男だと言われたことを気にしていて、冗談が解るふりをして話を合わせていたとのことだ」

「何と申し上げて良いか……」


 マリスとエルネスト王子はリオネル王子にまつわる情報の共有をして、苦労の思い出を語り合った。


「リオネル様をクルーネの司教に推薦したのは大司教だったとお聞きしております。大司教のお力添えがあれば、ひとまずは安心ですわね」

「それが……あの祝賀会に大司教も参加していてね。彼はあの兄上の騒動を見ていたんだ。それで……兄上は、神の恩寵を受けていると、大司教が言い出して……」

「……え?」


 予想と全く違う話が飛び出したので、マリスは面食らった。

 エルネスト王子は微妙に歪んだ表情で続きを語った。


「兄上の空想の恋人が、大司教にも視えたのだそうだ。常人には視えないが、大司教と兄上には見えるのだと……」


 エルネスト王子のその奇妙な話に、マリスは淑女の作法をうっかり忘れて、真顔で疑惑を口にした。


「本当に?」

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